その日人類は思い出した……。奴らに支配されていた恐怖を……。鳥籠の中に囚われていた屈辱を……。
 レンガ造りの高い家が連なって建てられ、その周りは50mの頑丈な壁がそびえ立つ街――という設定の仮想現実空間。 巨人の襲撃により、支配された街を取り戻せ、という任務を実行する4人の兵士が、壁上で街を見下ろしていた……。 『立体機動装置』と言う名の兵器を身につけて……。 
 仮想現実空間内に開始の鐘が鳴り響くと同時に、4人の兵士達は50mの壁から飛び降りた! 風が体当たりしながら、手に握りしめている操作装置のトリガーに指をかけ、奥へ押しこむ。 物が破裂するような音を立てて、アンカーがハヤブサのように飛んで行く。ガゴン! という轟音と共に、アンカーが家の壁奥深くへと突き刺さる。 背中にある装置の本体からガスを噴射し、体勢を整えながら、推進力を付けて飛行する。 アンカーを刺した場所より先に行くと、腰を勢い良く回し、アンカーを抜き取る。そして、次の目標を探し、またアンカーを突き刺す。

「右方15m級接近! 蓮太郎行け!」

 蓮太郎は、突き刺したアンカーを抜き取る! 右アンカーを別の場所に刺し直して、進行方向を右側に変える。 巨人の目の前まで機動し、巨人の額に両アンカーを刺し込み、巨人の頭上を弧を描くようにうなじに回りこむ! 回りながらアンカーを抜き取り、うなじにアンカーを刺し直して、蓮太郎は横回転斬りの体勢をとる!

「豚みてぇな顔した野郎共……最後に生き残るのはお前らじゃねぇ……。俺達、立体機動部《リヴァイ班》だ!」



 とある学校の放課後……。
 チャイムが鳴り響く中、一人の青年が学校の敷地内にある、プレハブの引き戸に手を掛け、その戸を開ける。

「失礼します。仮入部申請をした《颯太》です」

 僕の名前は颯太。ごく平凡で普通な高校に不思議な部活があると聞き、この高校に入学した。 そして、不思議な部活というのは本当に存在していた。 
 その名も、『立体機動部』。 かの有名な『進撃◯巨人』をモチーフにした新しいバーチャルゲームだそうだ。
 バーチャルシステムを使ったこのゲームは日本、やがては海外へ広がり、人気を集めている。

「君が颯太君か。僕の名前は《仁》。この立体機動部の部長を務めている」

 とてもガタイのいい男性が迎えてくれた。リーダーシップが取れると言える人だ。
 名前は決して医療ドラマが元ネタではない。よくある名前なのだ。
 原作でいうとエルヴィン・スミスみたいな人だ。残念ながら右腕あるし、金髪でもないし、小野大輔でもない。

「一応部員紹介をしておこう。あそこの偉そうにしていて、目が細い人が《蓮太郎》だ」
「……よう、新入り」

 蓮太郎と呼ばれた人は、身長が他の部員と比べて低めだ。髪型は短髪で、一言でいうならタ◯ちゃん。口調がキツイのは元々だろう。
 原作でいうとリヴァイ兵長と言えるかもしれない。潔癖症ではないみたいだが。

「あそこにいる、見た感じ陽気そうで元気な人が《向日葵》だ」
「やっほー! 君が新入りクン? よろしくね!」

 新幹線並の勢いで走ってきた。向日葵という名だそうだ。体中から元気オーラを出している人、元気をもらわなくても元気玉が出そう。
 原作でいうと、性格はハンジ・ゾエ、顔はペトラ・ラルといった感じである。だが、陽気すぎるし元気すぎる。原作よりひどいかも知れない……。

「向日葵の隣でいじくられていたのが《莉那》だ。学校の美人ランキング(男子生徒作)で1位に上がるほどの超絶美女だ。この学校の男子全員が一回は悩殺されている」
「よろしくね、颯太君」

 莉那と呼ばれた人は、仁先輩が言ったとおり、超絶美女である。笑顔はキラキラと宝石の様に輝いていて、見ただけで悩殺されそう。
 原作でいうなら、クリスタ・レンズみたいな人だ。性格はクリスタ以外にペトラも混ざっている気がする。

「さて、自己紹介も終わりだ。次の課題へ移るぞ。君が立体機動に適正かを調べるぞ」

 そう言うと、仁先輩は部室の隅に置いてある、装置の前に僕を案内した。
 立方体の形に、ステンレス製の柱で骨組みされ、2本のワイヤーが垂れている。

「原作を見ていたら分かるだろう。このベルトを付けてあれにぶら下がるんだ」
「……新入り、一つ余談だ。莉那を目的として、この部活に来た奴らが全員ココで落ちた。お前は違うと思うが」

 蓮太郎先輩の言うとおりらしい。向日葵先輩が腹を抱えて転げ回り、莉那先輩はクスクスと苦笑している。
 仁先輩からベルトを受け取り、僕はベルトを付ける。装置の中央に立ち、ワイヤーをベルトに繋げた。
 蓮太郎先輩がハンドルに手をかけ、ワイヤーを巻き上げる。徐々に自分の体が浮き上がっていく。僕は全神経を腰に集中させた。

「新入りクン……。あんた凄すぎだよ!」

 向日葵先輩がウサギの様に飛び跳ねている。ただバランスを取っているだけなんだが、第三者から見ると、普通の人よりバランスが取れているようだ。

「莉那、どうやら颯太君は君よりバランス力が高いようだ。揺れ方が一定だ」
「す……すごいよ! 莉那よりバランスいいとか人間じゃないよ!」

 褒め言葉として受け止めていいのか? 先輩方を見る限り、どうやら、僕はこの試験に文句なしの合格のようだ。

「莉那目的の豚共とかけ離れてるな。仁、文句なしだな?」
「ああ、もちろんだ。颯太君、本入部を今ここでするか?」
「……はい。立体機動部に入部します!」
「あとで私が新入りクンの入部届、生徒会に出しておくね!」
「私よりすごい人きちゃったな~。颯太君、莉那は負けないからね!」

 僕はベルトを外し、装置から降りた時に、下校時刻のチャイムが鳴り響いた。

「おっと、本来なら今日立体機動装置を付けるまでが予定だったが、明日に回そう。明日、サボるなよ」

 片付けは先輩方がやるとの事。僕は部室を後にして、下校準備をした。出る前にお辞儀をし、下校を開始した。
最終更新:2014年10月12日 20:13