「人間であろう」
竜人シャグニフィが歩み出てそう答えた。
「ほう…… 正解じゃ。」
魔物は感心したように竜人を見て言った。
「まさか竜人が答えられるとは思わなんだ。つくづく奇異なる者達よ。」
「約束じゃ、通ってよいぞ。」
そう言って魔物はその場を離れようとした。
「待て、次はこちらの番であろう。」
シャグニフィがそれを止めるように言葉を発した。
「何?どういう意味じゃ?」
予想外の制止に魔物は驚き竜人に問いかけた。
竜人はこう答えた。
「お主の問いかけに答えたのだ。次はこちらの問いかけにお主が答える番であろう。」
その言葉を受けて魔物は顔を大きく歪めて笑った。
「はははははははははは!これは愉快!」
魔物は嬉しそうに飛び回りながら答えた。
「良いだろう!良いだろう!何なりと問うが良い!」
シャグニフィは更にこう言葉を続けた。
「この問いかけに答えられたならばここを素通りしてやろう。答えられねば喰ろうてくれる。」
その言葉を受けて、魔物が目を見開いて喜んだ。
「はははははははは!愉快じゃ!実に愉快じゃ!」
「答えよう!答えようではないか!さあ、何なりと申せ!」
シャグニフィはヒゲを揺らしてこう言った。
「神であろうと閉じること叶わぬもの、これは何か?」
「んんんんん……!」
魔物はクルクルと回りながら悩み始めた。
「んー……!」
魔物はクルクルと回っている…。
「ダメじゃ、わからぬー!答えを教えてたもれ!」
魔物はそう言ってオモチャをせがむ子供のように竜人を見た。
それを受けてシャグニフィが答えた。
「答えは、私の口、だ。」
それを聞いて魔物は怒った。
「なんじゃと!それはおかしい!」
「ほう、おかしいか。ならば、私の言葉を遮る方法とは何かね?」
竜人は動じること無くそう問い返した。
その言葉を受けて魔物は即座に答えた。
「お主の言葉が通じぬ相手を用意しよう!言葉通じぬ魔物が相手ならば、お主はその口を閉じるであろう!」
そう言うと周囲の魔物が牙を見せながら近寄って来た。
それに対してシャグニフィはこう答えた。
「言葉通じぬ相手であれば、炎の吐息で語らおう。」
魔物は直ぐさまその言葉に答えを返した。
「炎の吐息で語り合うとは戦いの様を現すこと!ならば、その口閉じるは容易!負けて動かぬ死体となれば、その口永久に閉ざされよう!」
その言葉を受けてシャグニフィはニヤリと笑い、こう言った。
「それこそ貴様の神マルコキアスにも叶わぬことよ。」
「なんという大胆不敵!なんという傍若無人!」
魔物が狂ったように暴れだした。
「もはや我が選べる道は一つ!全身全霊を持ってお主の口を閉じるのみ!」
魔物たちが雄叫びをあげて襲いかかって来た。
「竜は全てを食らう者。魔物風情が『通してやる』とは片腹痛いわ。竜の口を閉じんとすれば、その身、牙に引き裂かれん。」
シャグニフィはそう言って自らの牙たる剣を抜き放った。