Gからの警告(THEゴジラCOMIC)

登録日:2016/10/21 Fri 22:55:06
更新日:2024/02/09 Fri 15:57:44
所要時間:約 8 分で読めます




1990年に宝島コミックスより刊行された、東宝公認のコミックアンソロジーTHEゴジラCOMIC』収録の短編漫画。
著者は、『地上最強の男 竜』などで一部界隈から絶大な人気を誇る「風忍」。

本作が掲載された『THEゴジラCOMIC』は、1989年の『ゴジラVSビオランテ』公開に合わせて発表された書籍で、
宝島社に当時所属していた町山智浩氏が企画を立案、90年前後当時のサブカル漫画界でブイブイ言わせていた作家陣をより集め、
ゴジラ」を題材に好き勝手に漫画を描かせたと評して大体間違っていない作品。
風忍を筆頭に、かの実相寺昭雄、麻宮騎亜、安永航一郎、伊藤伸平、破李拳竜、一峰大二、石川賢……etc、
兎にも角にも作風のアクが強すぎる面子が文字通り好き放題やった結果、政治思想アリ、バイオレンスアリ、不条理アリ、パロディアリと、
結果的にアンソロジーにも拘らず徹底的にトリビュートする気ゼロな漫画揃いとまで読者に評された、ある意味とんでもない一冊。
そして、そんな濃い面子揃いの作品の中でも、とりわけ突出して独自の世界観を描き切った結果、
ほぼ完全に他作品をバラゴンの如く「食う」ことになってしまったのが、本項で紹介する風忍の「Gからの警告」である。

内容は、一言で表せば「骨法使いとゴジラが戦った末に、ゴジラが人間の赤ん坊に転生、最終的に舞台が霊界に飛躍する」といった感じ。
この時点で相当アレだが、紛うことなき文面通りの内容が僅か16ページの中にギッシリと詰め込まれている。
完全にゴジラではなく風忍の作風が優ってしまっており、格闘技に輪廻転生、霊界と、
『地上最強の男 竜』でも見られたそれと共通するテーマがこれでもかという衝撃的なコマ割りの中に充填されたそれは、
ゴジラファンには眩暈を引っ提げてしまうかもしれないが、ある意味必読の内容。
ちなみに風忍氏の骨法に対する造詣は、1988年に刊行された著作『ケンカ必殺拳・骨法』(こう出版)に嫌になるほど凝縮されているので、
もし本作に興味を持って購入する気が湧いたのならば、『ケンカ必殺拳~』も一緒に併せて読めば、風忍の世界観をより堪能できる……かも。

ちなみにアンソロジーを企画した町山氏の公式ブログ『映画評論家町山智浩アメリカ日記』では、2005年5月1日の記事で本作に触れており、
石川賢版『ウルトラマンタロウ』桜多吾作版『マジンガーシリーズ』のように、
   シド・ヴィシャスがシナトラの『マイ・ウェイ』を歌ったみたいなゴジラをダシに作者が好き勝手やりたい放題やった一冊を作りたかった

という旨のコメントをしている。そして評判が微妙だった事も素直に認めている。
同記事では他にも、このコミックアンソロジーに纏わるアレコレを町田氏が語っているので、興味がある方は一読お勧め。


登場人物


言わずと知れた怪獣王。人類のあらゆる科学兵器すらも通じない怪物で、市街地を闊歩し蹂躙していたが、
人々を守る為に命を賭した高山の放った骨法の秘伝を受け、相打ちとなり苦しみの中で数日後に死亡した。
だがその後、衝撃的すぎるなどと言い表せないレベルでの復活を遂げることに。
漫画終盤では、ゴジラの正体に纏わる更に輪をかけて衝撃的な真実が明かされる。

  • 高山 明子
本作の実質的な主人公にして語り部。骨法使いの夫・高山を持ち、彼女もまた骨法の心得を持っている。
ゴジラに単身挑み、散った夫の事を悼みつつ、彼との間に産まれた子供・健太郎を育てていたが……

  • 高山
下の名前は不明。明子の夫である骨法使いで、喧嘩芸骨法創始師範・堀辺正史の弟子。
ゴジラに単身生身で挑み、骨法技「塾瓜打の秘法」でゴジラの生体エネルギーを司る「クラ」を破壊、
自身も叩き殺されながらも、正真正銘ゴジラを完全に討ち倒すという、ある意味芹沢博士レベルのとんでもない偉業を果たした。
漫画終盤にも意外な形で姿を見せる。

  • 高山 健太郎
明子と高山の息子。高山がゴジラに挑んだ時点で明子の腹に宿っており、父親の死後暫くして産まれた模様。
病気一つせず健やかに成長していたが、その正体は……


『Gからの警告』内容(※ネタバレ注意!)


―――突如として市街地に出現し、破壊と殺戮の限りを尽くす大怪獣「ゴジラ」。
最新の科学兵器すら通用しない怪物に人々は恐慌状態に陥り、自衛隊も混乱し避難民に構わずゴジラを攻撃する状況に。
そんな世紀末染みた様相の中、一人の男性・高山が怪物を討つべく、止めようとする身重の妻・明子を振り払ってゴジラへと単身駆け出して行った。
高山曰く、ゴジラも生き物である以上、人間その他動物同様に生体エネルギーを調節するポイント……
骨法で言うところの「クラ」が存在するはず、それを打ちさえすれば怪物を滅ぼすことが叶うという。

この次のページより、2ページにわたってゴジラに立ち向かう高山の唯一の武器、「喧嘩芸骨法」についてやたらマニアックな解説が入る。
文字通り「武器はもたない骨法だ!」なノリで骨法の最強ぶりが水を得た魚のように語られるため、以下全文掲載。


最新の科学兵器でさえ、あの怪物を止めることができないのに、男は素手で…武術で立ち向かっていった!
それは骨法武術!あらゆる武道がスポーツ格闘技となってしまった現在、骨法だけがこの世に残された唯一の実戦格闘技なのだ!

骨法とは奈良時代に大伴古麻呂(おおとものこまろ)が創成したもので、兵士に取り囲まれた古麻呂が
鎧を着ている上から掌を触れただけで相手を即死させ、その背骨は砕かれていたという……

それが骨法「(とお)し」だ!
その骨法が一子相伝で今日まで伝えられ幻の秘技である「徹し」を現代に蘇らせた男が、喧嘩芸骨法創始師範・堀辺正史(ほりべまさし)だ!
プロレスファンならすでにおなじみの新日本プロレスの獣神ライガー、UWFの船木誠勝選手が骨法を習っているのは有名である。

堀辺師範の弟子である高山が宙に舞った!
ルール無用のケンカ必殺拳、これが骨法・塾瓜打(ほぞうち)の秘法だ!

……激しい波動と波動のぶつかり合いが、空気を地を天を揺すぶり、勝負は決した。
高山はゴジラに弾き飛ばされ致命傷を追いながらも、ゴジラの「クラ」を打ち誅殺……個人で相打ちに持ち込んだのであった。
そして時は流れ……歪むゴジラの顔が、幼い赤ん坊の泣き顔が重なり場面が転換する。

高山がゴジラを道連れに命を落としてから時が経ち、明子は立派な赤ん坊……健太郎を出産していた。
健太郎を連れ、今は亡き夫の墓参りに訪れた明子だったが、突如として健やかにしていた筈の健太郎の顔付きが
天使のような赤ん坊の表情から、悪鬼の如く邪悪なそれと変わりる。
それと同時に高山の墓石が突然倒れ、その衝撃で跳ね飛ばされた小石が健太郎の額を傷つけた。
傷から血を僅かに流しながらも、健太郎は凶悪な表情のまま立ち上がり、明子に自身の正体を明かした。


「しゃれたマネを!どうやらお前の夫は、おれの正体を見破ったようだな。
墓石を動かして、お前にあの世から必死に訴えかけようとしやがって!」

「誰……誰なの!?あなたは私の子じゃないわ………それとも私の頭が変になってしまったのかしら」
「(ニヤッ)お前の子供だよ。だが、お前の腹のなかにいたときまでさ。
だがこの世に生まれ出る前にそいつの魂をどけたのだ。そしておれの魂はこいつの体をのっとってやったんだ!」

「信じられない顔をしているがこれは事実だ!俺は生前お前の夫に殺された!」
(ビクッ)
「あの時、あいつに変な技をしかけられたために、おれは数日後に苦しみながら死んだ。
この怒りは死んでもおさまらなかった。そのためお前ら親子にも復讐するためやってきた」

「人間として生まれ変わった!おれの前世は……ゴジラだ!

高山の技で体の内側をメチャメチャにされ、数日間死の苦しみを味わって落命したゴジラの憎悪は相当のものであった。
それ故、ゴジラは高山の妻・明子に復讐を果たすため、生まれ出る前の高山の遺児・健太郎の魂を殺し、自身が肉体に収まってしまったのだ。
……そう、全ては今は亡き高山に復讐するために。


「おまえらに同じ苦しみを味あわせ殺してやる!そうだおれも同じ技を習得してやるぞ!それまでお前はおれを育てるのだ」
「やがて少年時代、青年時代とますますお前の夫の顔になり、お前がこの世で一番愛した男…
その男の顔をしたものによって同じ技で殺されていくのだ!(ケタケタケタ)」

健太郎……否、今は亡き息子の身体を奪ったゴジラに対し、泣き叫びながらも怒りを見せる明子に対し、
殺せはしまい!心は違うものでも、お前が生んだかわいい子供には違いないのだからな」とゴジラは狡猾に笑う。
小石を投擲し、更には大きな岩を小さな体で抱きかかえて殴りかかるというとても前世がゴジラとは思えない攻撃で明子を攻撃、
先ほどの発言は何処へ行ったのやら彼女を岩で撲殺しようと飛びかかったゴジラ。
が、その身体は意を決した明子の放った骨法の技、(しょう)の一撃を受け、断末魔の絶叫と共に遥か天高くまで消えていった……

気が付くと、明子の意識は現世を離れ、霊界へと移っていた。
そこに居たのは、彼女の愛した今は亡き夫、そしてゴジラに殺された健太郎であった。二人とも喧嘩芸骨法の道着を身に着けている。
神秘的な情景の中、涙ながらに親子3人の再開を果たした高山家。
霊界で自由に年齢を選び、青年の姿になった健太郎は、父から骨法を学び、誰よりも愛する母を守るために
今後明子の守護霊として彼女を守り抜く道を選んだのであった。息子に勇気づけられ、明子も朗らかな顔を見せる。

そして、高山と健太郎は、霊界の空に浮かぶ一つの風景を見せる。
空中に浮かんでいたもの、それは……腐敗し、南極から汚汁を垂れ流す地球の姿であった。
高山曰く、これは彼の力をもってしてもこれ以上止めることは出来ず、地球の人々の怒りのパワーがそれを後押ししているという。
明子は理解した。あの忌まわしきゴジラの正体……それは、現界に送られた霊界からの警告に他ならなかったのだと。


「そう…確かに怒りや破壊に未来はない……」
「それでもゴジラが現界に現れなくても、今の地球は今でも……」
「あの偉大な霊能者、出口王仁三郎(でぐちおにさぶろう)*1が言ってたわ。霊界で起きたことは必ず現界でも起こるって……」
「でも救いの道はどこかにあるはずよ……」

「そう……きっと、どこかに……」



追記・修正は、前世がゴジラだったと胸を張って言える方がお願いします。

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最終更新:2024年02月09日 15:57

*1 合気道の開祖も入信していたことで有名な神道系教団「大本」(現在も存続)のトップ。出口本人は1948年没。