ダークヒーロー

登録日:2011/08/03 Wed 12:37:37
更新日:2023/10/28 Sat 13:29:32
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目次



【概要】

ダークヒーローとは、一般的な正義とは異なる正義を掲げるヒーローを指す。
類語としてバッドヒーロー、アンチヒーロー、ダーティーヒーローなど一面が類似するものがある。
…が、その定義はさまざまである。

物語におけるヒーロー像とは大雑把にいえば社会規範を保護し、一般的に弱者(一般人)の味方で、
それゆえに「心優しく力強い人物」というイメージであろう。
スーパーマンなんかを思い浮かべる人も多いと思う。要するに「悪と戦う正義の味方」である。

対してダークヒーローとは、その一般的なヒーロー像とは掛け離れた存在である「アンチヒーロー」のうち、ヒーローでありながら善とは限らないものをいう事が多い。
どう「ヒーロー」で「悪」であるかには様々なパターンがある。
  • 心や立場に闇を抱えている者
  • 人助けの過程で犯罪行為やそこまでいかずともあくどい手を行う者
  • 普通にヒーローだが能力として闇属性/暗黒属性を使う者
  • 私利私欲のために動いているが結果的に悪を挫き弱きを救っている者
  • 普通に悪党だが気持ちはわかったり、どこか好感の持てる者
などなど。
目的達成のために人道を外れても、その者なりの正義に基づいた行動を取る。

言い換えれば「極めて強固な信念」に共通点を見出す事もできる。
つまり「自身が信じる正義の為なら、たとえ自分が悪になろうともそれを貫き通す」というのがダークヒーローと言える。
悪の美学にも通じるところがあるかもしれない。

基本的にヒーローである為、なんらかの正義を掲げているが、
演出上単なる犯罪者がヒーロー的に描かれるということもある(レクター博士、ゾルフ・J・キンブリー等)。
このような者たちは「ピカレスク」と呼ばれる。

中には犯罪者が「ダークヒーロー」として持ち上げられることを作者に危惧され、回を追うごとに敢えて小物・クズ化させられたキャラも存在する。
(「金田一少年の事件簿」の高遠遙一等)




【種類】

ダークヒーローは主観的な側面が多いため共通のコンセンサスを得る事は難しいが、
多岐に渡るパターンを大きく分類することはできる。以下はその例。
これらは全てがそう分類されるわけでなく、兼ねているケースもしばしば見られる。


<悪のヒーロー>

単に直訳した場合、最も分かりやすいダークヒーローはこれであろう。
スター・ウォーズ旧三部作のダース・ベイダーなどは完全なる悪役でありながらしばしば例として挙がる。
さきほど定義として正義や芯といった部分を取り上げておいてなんだが、このタイプに関してはあくまで一つの付加要素に過ぎず、
カリスマが彼らをダークヒーローたらしめていると言える。
これは作中に限らず、視聴者・読者からの人気も大きく反映される事が多い。
…逆に言えば人気がないキャラクターは悪の「ヒーロー」とは呼ばれにくいという事でもある。


<怪物のヒーロー>

ここで言う怪物とは魔物や妖怪はもちろん天使や悪魔など「人間でないもの」全般を指す。
人間でないキャラクターは我々とは全く異なる価値観を持つ事が多く、彼ら独自の正義に従っている事が普通である。

怪物のダークヒーローは必ずといっていいほど何かしらの圧倒的な能力を持ち、その力をもって劇中を暴れ回る。
しかし善悪に関しては埒外であり、ダークヒーローの条件の一つである「悪」はあまり関係しない。
人間と敵対している事もあれば共闘する事もあるし、怪物同士でやり合う事に明け暮れている事も多いからだ。

怪物を主人公とした様々な作品が該当する可能性があるが、一例を挙げるならヴァンパイアのデミトリ・マキシモフ
吸血鬼=人類の敵である主人公だが、もっぱら魔界の覇者となるべく格上の相手に挑んでばかりの姿がヒーローと重なる。


<変革を求めるヒーロー>

主に行き詰まった状況や腐敗した支配層など、暗澹とした世界を変えようとするダークヒーロー。
その目的から大義を掲げて戦争を仕掛けたり、救済などの耳障りの良い破滅をもたらしたりする。
自身についていく者であっても犠牲を強いる傾向があり、ラスボスになる事も多い。
というかラスボスに最も多いタイプかもしれない。

このタイプが主人公になる例としては、DEATH NOTEの夜神月が挙げられる。
彼は「新世界の神になる」という名目のもと犯罪者を大量に殺害しており、
社会的常識から考えても、また目的のために犯罪者以外も犠牲にしているため当然悪行なのだが、
劇中で彼自身が言うように正義であると信じている。


<復讐に走るヒーロー>

古今東西、主人公にも悪役にもなりうるダークヒーロー。
近年の例ではニンジャスレイヤー(フジキド及びナラク両名)のように、捕えたニンジャをインタビュー(拷問)して爆発四散させたり等、
倫理なぞ知った事か!を地で行くものも珍しくない。
こうした犠牲をまったく厭わない、例えば標的が列車に乗っていたらまるごと爆殺というような目的優先と、
逆に社会を尊重し好んで犠牲を出そうとはしない者とで両極端になりがちである。

なおバットマンは復讐を契機に目覚めたキャラクターと言えるが、目的としては下記の分類が近いと思われる。


<過激なヒーロー>

基本的には社会や弱者の味方、もしくはそれに干渉しないタイプだが、
手段がエグすぎたりとヒーローらしくないものがダークヒーローと呼ばれる事もある。

善の立ち位置の場合、社会や一般人の平和に大きく寄与している実績を持つ。
例としてアーカード(HELLSING)は目的の遂行の為ならばどう見てもラスボスとしか思えないような鬼畜な所業を平然とやらかすが、
人類を脅かす吸血鬼の退治をしっかりこなす。
もっとも彼はあくまで国公認の機関たるヘルシングの方針に従っており、それがそのまま目的を果たしているだけで、
彼自身には社会がどうのという点は眼中にないが。

明確に善でない場合でも、ただ社会に対するスタンスを持たないというだけで別に悪ではない。
ライトノベルなどでは作品の雰囲気に左右されるが、性質だけで言えば悪人に人権はないなど、
古くから過激な倫理観を持つヒーロー(?)は存在する。
近年でも主人公が圧倒的な暴力でエグいやり方をする作品は珍しくなく、それらが殺人に至った場合はダークヒーロー扱いされる事もあるが、
彼らは結果的にそうなる事もあるというだけで、特に社会を乱す事を好んでいる訳ではない。


<暗部で活躍するヒーロー>

過激なヒーローとも一部被るが、こちらはより社会や弱者を重視する側面が強い。
時代劇の必殺シリーズを例に挙げると、多くの時代劇の勧善懲悪は主に日の当たる所で裁かれる事に対し、こちらは主に暗殺である。
つまり常識的には犯罪=ダークヒーローであるが、弱い民にとっては裁けない悪を討伐する、救いの存在として描かれる。

この中にはより明確に裏で社会を支える立場のヒーローもいる。
諜報員やスパイもの、007もこのタイプであろう。
ルパン三世シリーズも泥棒であるが故に悪のはずだが、アニメや映画では巨悪を相手にする事が多く、結果的にこちら側で活躍する事になったりも。

<ただの道化>

世のため人のために自分の信念に従って行動していたつもりが、実は巨悪の掌の上だった。
金持ちを破滅させるための行動で貧乏人の方が割を喰らった。
差別をなくそうと行動したつもりが差別を加速させる結果となった。など、
考え方が一歩足りない、勉強不足ゆえに世の中に対する視点が狭いせいで、自分がダークヒーローだと思い込んでいるヴィランになってしまうケース。
「悪い人ではない」「自己犠牲精神に溢れる」「天才というほどではないが頭が切れる」という、ヒーロー要素が化学反応して起こってしまった最悪の悲劇。
例:LOST JUDGMENT 裁かれざる記憶のとあるキャラクター
そのことに目をつぶって道化を演じ続けるか、償いのために本当のダークヒーローとなるか、物語によって異なる


【ダークヒーロー論】

ダークヒーローの特徴として、やらかしてることは倫理観とかなにそれ美味しいの状態だが、そこに一貫した哲学等があれば、
それはただの鬼畜行為ではなく、徹底した固い意思の現れとして表現される点がある。
上記のどう引っくり返ってもラスボスの所業にしか見えない行為も、全て描かれ方次第で(そのキャラの)正義の所業っぽく見えたりするのである。
要するに「立場で正義なんていくらでも変わる」、ということか。

また、正義の味方であるがゆえに揚げ足を取られやすい正統派ヒーローより、
最初から悪であるダークヒーローの方が活躍が輝かしく目立つ、ということもあるだろう。
(いわゆる「普段から真面目で善行を行う人間より、たまたま善行をしたヤンキーの方が落差によって褒めたたえられる」理論である)


<ダークヒーローキャラの位置付け>

勧善懲悪の物語が少なくなってきた現代では、ラスボスがダークヒーローであることも多い。
あるいは主人公がダークヒーローで、敵として戦う相手が一般的なヒーローである、というケースも。
またやっていることは違えど目指している場所が一致することもあるので、敵として出てきても一時共闘する、という展開もある。
敵として出る場合はたいてい強敵(←ここ重要)なので、そんな相手と共闘するとなると見ている方としても胸熱だろう。
「ヒーローでありながら悪」という性質上、大して深く考えず悪いことがカッコイイとか思っちゃう年頃にも人気が高い。
また闇属性だったり黒色だったりすることも多い。

もうひとつの意味として「主人公のモチーフが悪」というダークヒーローもいる。
例としてはデビルマンやスポーンやゴーストライダーなど。
なお、作品によるが、ピンチの時などにヒーローと共闘することもある(例、スパイダーマンのヴェノムなど)。

だが結局は悪行を働くことに違いはないため、自業自得の如く身に付けた力のリスクを支払わされたり、復讐の連鎖に巻き込まれたりといった形で、
物語のラストに死亡・廃人化といった報いを受けるキャラも多い。
日本においては、歌舞伎の石川五右衛門が最終的に当局に逮捕され釜茹での刑に処されたことが、盗賊の不滅を詠んだ辞世の句と共によく知られている。
(ロベルト・ハイドンが能力の乱用のしすぎで寿命が短くなってしまったが、後に克服し助かっている例もある)
ダークヒーローの多くはそんなことは承知の上であり、基本的に死を覚悟して臨んでいる。
中にはそこから一歩進み、自らの死によって宿願を果たそうとする者も居る。

ダークだろうとダークじゃなかろうと、譲れない目的の為に己の生命を含め全てを捨てられる者こそ「ヒーロー」に相応しいといえるだろう。


<代表的なダークヒーロー>


ちなみに、日本最古のダークヒーローが「黄金バット」であるというのをよく聞くが、
黄金バットは見た目がアレなだけで中身は普通のヒーローである。ただあまりにも強すぎるだけで。
アンチヒーローの一種、『ヒーローではあるが美しくない』タイプの「ダーティーヒーロー」と混同されたのであろうか。


【悪のヒーローがいるなら…】

ダークヒーローによって「ヒーローは善とは限らず、悪ということもある」ことが示されている以上、
ヒーローと激突するヴィランにおいても、「ヴィランも悪とは限らず、善ということもある」ということが言える。
例えばヒーローが海賊であれば、沿岸警備隊や海軍が「善のヴィラン」として立ちはだかることとなる。
また、正義を掲げつつもそれが歪んだり暴走したりしている悪役も存在する。プッチ神父赤犬が代表例だろうか。
「ダークヒーロー」「バッドヒーロー」と対になるなら「ライトヴィラン」「グッドヴィラン」と呼ばれそうなものだが、そのような呼称はないようだ。

日本において有名な「善のヴィラン」といえば、やはりルパン三世シリーズの銭形のとっつぁんであろう。
アニメにおいては肝心なところで抜けているためにルパン一味に逃げられるなどコメディリリーフ色の濃い彼であるが、
原作ではあの手この手でルパン一味を追い詰める、「まさにスーパーヴィラン」と言える活躍をしている。











追記・修正は、たとえ悪になろうとも自らの正義の為に…

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最終更新:2023年10月28日 13:29