源氏物語

登録日:2009/05/29 Fri 00:16:08
更新日:2024/04/15 Mon 17:24:31
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いづれの御時にか、女御更衣あまた候ひ給ひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。
――『光源氏の誕生』


概要

『源氏物語』――それは、類い希なる資質に恵まれたやんごとなき主人公と、
巻ごとに登場する女性との恋物語を壮大な構想のもとに描き、人間のあり方を追求した作品である。

成立は平安時代中期、概ね1008年前後とされる。
現代の文学に至るまで大きな影響を与え続ける清少納言の『「をかし」の文学』『枕草子』と同様に、『「もののあはれ」の文学』と呼ばれる古典文学の最高峰
当時権勢を振るった「藤原道長」の娘「彰子」の女房(家庭教師)を務めたことでも知られる『紫式部』によるものとされる全五十余帖を『宮廷女房が語って聞かせる』『大長編恋愛小説』。

中学校や高校で習ったという人も少なくないが、まあ、より簡潔に言ってしまえば、

最凶クラスのヘタレなイケメンが、ありとあらゆる美女・美少女・幼女達とひたすらセックスしまくる物語

ライトノベルの原点」「日本最古のエロ小説」とか称されるそれを中学生に習わせる理由や本来の題材は不明で、
  • 文の途中で主語が変化
  • すさまじい数の敬語
  • 登場人物の地位によって使われる敬語が変化
……等々、かなり高レベルな文法、表現法などから、作者は通説の紫式部ではなく男性の可能性を唱える者もいる。

学生……特に古文が苦手な人にとっては地獄だが、ここ数年は成立千年紀として取り上げられがちな上、
2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』は作者の紫式部が主役ということで注目を更に集めてさあ大変、大学入試での出題率は跳ね上がりつづけている。
何で中学生にこれ習わせたの?

ちなみに、成立した平安時代でも現代でも、ファン同士の(手紙)のやり取りで「○○(登場人物の名前)っていいよね~」とか書いてるあたり、
今も昔も、文化レベルなどは激変しても、国民性という意味ではさほど日本という国は変わっていないと実感できる。


登場人物(※多すぎるので極一部です)

  • 光源氏
第四十帖まで登場する、桐壺帝の第二皇子。
後に臣籍降下して源氏姓を賜る家柄、美貌、才能と性格以外は非の打ち所の無いまさに完璧超人。

義母から幼女から熟女まで、そこら辺のエロゲ主人公真っ青なストライクゾーンを誇り、
物語ではものすごい数の女性と浮気性全開でセックスしまくる。
しかし、生まれた時からその美貌で「光る君」と周囲から囁かれるだけあり、
この絶倫が詩を詠んだり、ひとさし舞ったりするだけで周りは号泣し、重症な人は源氏の姿を見ただけでも涙が出る。

主な例(極一部です)

  • 夕顔という美人にのめり込むも、逢引きしたある夜、女性の霊に恨み言を聞かされる悪夢を見て目を覚ますと、夕顔が変死していた*1
    光源氏は悪夢とその死を関連付けて「もののけのせいだ!」と決めつけ、騒ぎになることを恐れて権力で夕顔の死を隠蔽。夕顔は公的には行方不明扱いとなった。
  • 実の父親の妻であり、父の前妻である亡母に生き写しとされる藤壺女御に、マザコンも絡んだ道ならぬ想いを寄せる…までは(まだ)良かったのだが、
    ついに一線を超えてしまい、彼女と無理矢理何回もセックスして孕ませてしまう。ある意味近親相姦
  • 兄嫁(予定の人)を平気で寝取る。
  • 自分は好き放題ヤっておいて、妻の一人・女三宮に柏木という愛人が出来たことが発覚すると激怒し、陰湿な嫌がらせをする。
    後に彼らの子供を見て「因果応報」を悟るが、その頃には柏木は死に、女三宮は出家していた。
等、他の愛人は光源氏と関係を持った女性登場人物一覧(源氏物語)参照するとして、簡単に言えば、女を侍らすためには恐るべき行為でも行う完璧超人である。


  • 桐壺帝
源氏の実父。
源氏の実母であり、溺愛していた桐壺更衣が亡くなってから病んでいたが、後に瓜二つの藤壺女御が入内したことで復活
死してなお源氏のことも溺愛しており、源氏が都落ちした際は朱雀帝を祟ってまで連れ戻した困ったパパ。

  • 桐壺更衣
源氏の実母。
身分が低い上に、父親(光源氏の祖父)を亡くした圧倒的不利な状況でも素晴らしい美貌で桐壺帝の寵愛を受けたが、
他の妻からの嫉妬も集め、いじめられた結果、心労が祟って光源氏がまだ幼い頃に死去してしまった。

  • 藤壺女御
桐壺更衣に瓜二つな源氏の義母。
桐壺帝に寵愛されたが、自分に実母の面影を見る源氏に迫られて孕ませられる。
その後も源氏からは求愛され続けるが、最終的に出家までしてその魔の手求愛を拒み、
桐壺帝の子…ということになった源氏との間の子が帝になった後に死去した。
作中の光源氏の奔放な女性関係には藤壺との関係が強く影響しており、最も光源氏に影響を与えた女性である。

源氏の正妻。
不思議系ツンデレ少女。
二人の関係は冷え切っていたが、出産時に六条御息所の生霊に取り憑かれて死亡。
死の間際には本気で愛された……多分。

  • 紫上
藤壺の姪で、藤壺そっくりだったせいで源氏に拉致られ、彼好みの女にするため調教…ゲフン!養育された幼女(10歳)。
葵上亡き後、源氏から最も愛された正妻ポジションを手に入れたものの、浮気性に悩まされて死亡。
年上の男が幼い頃から目をつけていた女性を自分好みに育てることを「光源氏計画」というのは、これが元ネタである。

  • 頭中将
素晴らしい容姿と才能を持つ源氏の義兄(葵上の兄)で、親友でもあるが政敵でもある複雑なポジション。
須磨に遁走した源氏を、時の権力者から睨まれると知りつつ見舞いに行く友人の鑑だが、「源氏が花ならアイツは」と言われてしまう可哀想な人。


『源氏物語』を元にした作品

漫画作品としては、高評価を受けている大和和紀の『あさきゆめみし』が有名。

2001年に紫式部が彰子に聞かせるという形式で、紫式部の自身の話も描く年『千年の恋 ひかる源氏物語』として実写化された。
リアル世界の「紫式部の物語」と、『源氏物語』の中の「光源氏の物語」が交錯するという凝った構成の意欲作だった


が、


  • 紫式部の夫・藤原宣孝が浜辺で海賊に襲われ、パンツ一丁にされて殺される(史実では病死)
  • 貴族達が助太刀に来るが、鎧もつけずに刀一本で無双
  • 葵上が熟女に取り憑かれた際には寝ていた布団ごと180°回転
  • 彰子の妊娠に狂喜した藤原道長が、高笑いしながらM字開脚
  • 明石の君がまさかの海中出産
  • まさかの紫式部と道長のラブロマンス
  • 唐突にオリジナルキャラ・揚げ羽の君(松田聖子)が歌い出す
……etc。
とツッコミどころも満載であり、むしろトンデモ映画として有名かもしれない。


また、アニメ『源氏物語千年紀 Genji』が2009年に放送された。

2008年の『「源氏」でわかる古典常識』は内容が漫画なので分かりやすく絵も可愛い。
人物が若く描かれ、ツンデレ幼女といろいろ狙っている。
頭中将はマジ親友。
藤壺(義母)や若紫(ロリ)等の女性との交わりもぼかしつつ描かれている。
2015年にはパワーアップ版が出ている。

こうした絵を今風にするなどして若者にも読みやすくした入門書は人気があり、
他には2011年の『マンガでわかる源氏物語』や2014年の『まんがで読む源氏物語』などがある。
こちらはどちらかと言うと絵柄的に女性向けと思われる。

2011年には映画『源氏物語 千年の謎』が公開された。

そのコラボとして、角川つばさ文庫から『源氏物語 時の姫君 いつか、めぐりあうまで』が出ている。
文は越水利江子、絵は台湾のイラストレーターであるIzumiが描いた今風のもの。

同時期には講談社青い鳥文庫からも『源氏物語 新装版』が出ており、こちらも児童向けなので同様に読みやすくしている。


その他

Wonderland Warsにもソウル*2として登場。
主人公光源氏を元にした「源氏の君」(CV:中村悠一)と、紫上の幼いころ「若紫」(CV:M.A.O)が登場。
特に源氏の君は「紫には、指一本触れさせぬ!」という割と原作レイプな台詞を吐いている。



よくある誤解・デマ


さて、Googleで検索すると上の方にヒットするようなサイトで、あまりいいかげんなことを書きっぱなしというのもよろしくないので……。
小学生でも授業でその存在を習うほどに源氏物語は非常に知名度が高い文学だが、実際に中身を読んだことのない人の方が多いため誤解やデマが多い。

当wikiにも元々、
「これを見たロシアの某閣下が「日本は不倫や近親相姦を題材とした小説を紙幣に印刷して、流通させるほど社会が堕落したのか」と言ったそうな。」
「また、明治時代には日本初の帰国子女である、津田梅子女史に英訳を依頼したところ、「このようなエロ作品は、とても英訳出来ません!」と断られたエピソードがある。」
と書かれていた。こういった話についても検証していこう。


本当に「ドクズ/エロゲ主人公」なの?

これについては「見方による」というのが正しい。
源氏物語が書かれた頃、女性の立場というのは非常に低いものだった。
まず後世に名前が残らないし、藤原道長の項目にある藤原顕光の逸話にあるように娘の失態で「親が赤っ恥をかく」という文化の時代である。
貴族の娘は政治の道具であり、自由恋愛なんて許されるはずもなし。日本で信奉されていた仏教も、基本的に「女は罪深い生き物だ」というスタンスを崩さない*3

また、当時の男性といえば基本は殴り合いの時代である。つまり割と粗野な生き物だったのだ。
そんな折に女性を(当時の基準で)大切に扱うこと、恋愛というなよなよした行為にあけくれることというのは、貴族のある種の理想像だったのである*4
その理想像が、現代の日本人の観点からすれば「浮気ばかりするクズ」「エロゲっぽい」と見えるという話なのだ*5。後述するように、「ある意味では」泣きゲーに近いところはある。
また、一夫一妻の現代の価値観では浮気者のような扱いになる話でも、昔はそれが普通だったということなんかも忘れてはいけない。


光源氏がロリコンってマジ?

紫の上の話だろうが、これは
あの当時おかしくなかったことが今の価値観だとロリコンになっちゃう」という話と、
光源氏はこんなにおかしかった!?日本人が昔からHENTAIでヤバい理由www」という話の合わせ技。

紫の上についてブリタニカ国際大百科事典を引用すると、
『源氏物語』に登場する女性。藤壺の姪で、10歳の頃、北山の庵にいたとき光源氏に発見され、二条院に引取られる。
容貌、性格、才芸など一つとして欠点がない理想的な女性に成長し、源氏の妻となる。
しかし女三の宮の降嫁を迎えて、気苦労のはてに重病を得て死去。『源氏物語』の正編はこの人の追憶のうちに過す光源氏の姿を描くところで終る。

大辞泉を引用すると、
源氏物語の女主人公の一人。式部卿宮の娘。藤壺の姪。光源氏に理想の女性として育てられ、葵の上の没後、正妻となる。源氏在世中に病死。

ちなみに、藤壺は上述のように光源氏の亡母にそっくりな美(少)女で、
その死後も源氏の女性関係の根源に深く関わり続けた、いわば永遠の恋人のようなもの。
二条院とは光源氏の自邸である。

そんな藤壺の生き写しのような姪っ子(10歳)を見初める……というのが「若紫」のあらすじであり、このシーンだけなら立派なロリコンになる。
しかし実際には「藤壺に似てるけど幼すぎて無理」と諦めて「成長するのが楽しみだ」と思っている。つまり幼女の時は情を交わす気はなく、ロリコンとは言えない。
結局は妻にこそしているが、手を出したのはちゃんと紫の上(姪っ子)が成人してからである。*6

また「幼女の誘拐を企てた」と評されやすいが、この行為に関しても現代の観点と当時(平安貴族)の観点で見るとかなり違った印象になる。
というのも、当時としてはそういった「好きな女だ、さらってしまおう!」という考えが恋愛の感覚としてはそれなりに普通であり、
光源氏も当時の平安貴族としては普通の行動をしているだけに過ぎず、故に本当にヤバいのは光源氏ではなく平安貴族の恋愛観ということになる。
そして企てたのではなく、「恋愛も分からないような歳だからさらっちゃ体裁悪いよな」と完全に諦めており、
その後のあらすじを見ればわかるように、彼女が成人するまでは手を出さず、きちんと数年養育しているのだ。
つまり幼女に手を出そうとしたが諦めて大人になるのを待ったのではなく、「幼女と恋をするのは無理だから大人になるのを待った」のである。
幼女のうちには手を出そうとは思わず、むしろ「幼すぎて(今は)無理」としている時点で、光源氏はロリコンとは言えないだろう。

また、手を付けた年齢が14歳というのは確かに今の価値観だとロリコンだろうが、たとえば昔の元服は15歳なので「異常な早婚」というほどではない。
戦国時代は政略結婚としてもっと幼い子と結婚する事例があったようだが、それは恋愛結婚ではなく家の結びつきとしてのものである。
そもそも現代に「光源氏」を例えに使う場合、それは「気に入った幼女にその場で手を付けること」ではなく、
「幼い少女を自分好みの女性に育てること」という意味であるにも留意すること。

「結局のところ、娘のように育てた14歳の女の子に手を出す時点で立派なロリコンでは?」というような話は置いておくとしても、
光源氏がロリコンだなんだと言っている文脈は大体かなり強引な解釈をしているということには注意を要する。
ついでに言えば、普通「光源氏はロリコン」なんて話を聞けば、大抵の人は「幼女に手を出す変態or鬼畜」と思うだろうが、
実際には上述のように「幼女のうちは無理」と光源氏本人が言っているわけで、恐らくそういった伝言ゲーム的なものだろう。
つまりこの話、「光源氏は(現代の日本人の観点からすれば)ロリコン(といえなくもないが、これは1000年も昔の話だ)」の丸括弧の部分だけをきれいに切除してしまっているのだ。

また、これとつながる話として、「姪っ子と愛を紡ぐ」ことについても、
当時は別に叔父・叔母の関係にあたる人間と恋愛になることはインセストタブー扱いではなかった。
当時は倫理的に問題なかった行為が現代の倫理観で見るとヤバいというだけであり、
『法の不遡及』ではないが、そもそも倫理観が違っている時代の人物の行為を現代の倫理観だけで批判するのは的外れだろう。
ちなみに、「インセストタブーの範囲が現代とは違う」という点については洋の東西を問わない。
古代エジプトだって中世のヨーロッパだって、現代から見ると近親婚や近親相姦にあたる行為をしていた…なんて話はたくさんある。
世界史の貴族なんかを見てみると割とそういう「バグった家系図」が多いので探してみよう。代表的なのがハプスブルク家だ。
別にこの手の話をロリコンだの近親相姦だのというのは勝手だが、その理屈だと江戸時代の侍は銃刀法違反になってしまう。そのレベルの話である。


エロシーンばっかりなんでしょ?

おそらく源氏物語がもっとも誤解を受けている部分。
常識的に考えて、そんな官能小説みたいな話が教科書に載るだろうか?
前述したように、光源氏の行動は当時の文化における貴族のある種の理想像だった。
そもそも今のように、インターネットもサッカーも野球もカードゲームもwiki編集もないような時代なのだ。
食事だって今ほど発達していない*7
娯楽がまったくない時代においては、色恋沙汰は主要な娯楽だったのだ。

……という話ではない。
意外かもしれないが、実は源氏物語には別に濡れ場は多くないというか「それをにおわせる程度」で終わる*8
つまりエロシーンまでの過程が非常に濃密、そしてエロシーンの後に何があったのかというのも濃密。だけどエロシーン自体はない。
これは一般的に言われている「エロシーンばっかり」という考え方とは正反対だろう。
しかしいかんせん昔の物語なので、それだと漫画化した際にはつまらない。
今日日少女漫画だって濡れ場があり、深夜アニメも下手なエロアニメよりエロシーンの作画が良いような時代である。
そんな時代に、原作でそうだからと言って馬鹿正直にエロシーンだけ黒く塗りつぶすように飛ばすというのも面白みがない。
というわけで現代語訳をした人が勝手に濡れ場を追加して「分かりやすく、面白く」する事がよくあるそうな。
つまり、作者である紫式部が「ご想像にお任せします」とぼかしていたところに、現代人がそれじゃつまらないとばかりにエロシーンを追加しているということである。

泣きゲーみたいなもんというか、非常に古いたとえになるが「PS2に移植された全年齢版エロゲー」を思っておくと分かりやすいかもしれない。
エロが主体じゃなくて、恋の中にそれをにおわす話がある程度。むしろ1000年前の官能小説を期待して読むと落胆するだろう。

つまり「決して官能小説ではない」。これを踏まえて次を読んでほしい。


プーチン大統領が源氏物語を批判したってマジ?

この発言の信憑性は限りなく低い。

この話の大本になるものは、沖縄サミットで二千円紙幣を受け取った際に、
日本は、不倫や近親相姦を題材とした小説を紙幣に印刷して流通させるほど社会が堕落したのか」と発言した、というもの。
これが伝言ゲームで「源氏物語を批判した」「源氏物語はポルノ小説だと批判した」のようになっていることもあるのだが、
実はこの情報のインターネットにおける初出は2009年
杉村喜光氏によるデマ検証 によれば、初出を「2009年2月に書かれた個人blog」なのだが、
実はWikipediaの「ウラジーミル・プーチン」の2009年1月5日版の「発言一覧」というところに追加された出どころ不明の情報が始まりのようである( ※参考リンク )。
つまり一切出典がない情報であり、これが2018年1月17日まで約9年間残っていた上に、
削除されるのではなく現在でもウィキクオート(語録サイト)に移動されて掲載されている。出典を一切研究されていないまま現在に至っているのだ。
現在なら即座に要出典から削除のコンボを受けるだろうが、当時のwikipediaはまだ現在のような出典至上主義というわけではなかった*9ので対応が遅れたのかもしれない。

そもそも二千円紙幣はかなり煙たがられているもの*10であり、
さらに2000年当時の首相の森喜朗は「神の国発言」をはじめ、失言の多さからマスメディアに批判されやすい人物だった。
もしプーチンがそんな発言をしたとすれば、二千円紙幣や森喜朗内閣、あるいは日本の政治家を批判する際にも、
「ロシアのプーチンはこんなこと言ってる。日本人は批判されてるんだよ」という文脈で引用されているだろう。それが2008年以前にまったく話題になった形跡がない。

この語録だが、一応出典は存在する。
2012年に出版された名越健郎の「独裁者プーチン」という本であり、当時のWikipediaに書かれている文章が一字一句そのまま載っている。
つまり活字において初出となる出典が、2009年のWikipediaよりも3年遅れて出版されているという始末で、この情報についてもまったく裏取りがない。
ここまで情報が不自然だと、むしろWikipediaから引用したものという可能性も排除できない。

つまりこのプーチンの発言の信憑性は限りなく低い。
おそらく「十万人の宮崎勉」のようなネット時代の都市伝説、あるいは「野原ひろし名言集」のような伝言ゲーム的に広まったガセネタの一種だと思われる。

そもそも先に述べたように、近親相姦は洋の東西を問わず昔は割と普通に行われていた。中でもハプスブルク家の話は非常に有名だろう。
この発言が真実だったとしても、それはプーチンがむしろ「昔と今の価値観、価値観の洋の東西の区別がついていない粗野な人物である」ということになってしまう*11
2009年当時に「硬派な政治家」「柔道をたしなむ親日家」として日本人に人気があったプーチンの発言にしては、あまりにお粗末すぎないだろうか。
……といってもいまやプーチンはすっかり株を落としてしまったため、この話が「金言」として扱われることはなくなっただろうが。
とにかく嘘だと断言はできないものの、かなり怪しい情報だということ。


津田梅子がエロ小説だからと英訳を断ったってマジ?

2019年4月9日のツイートが初出のガセネタであると結論付けられている。
これ自体はフェミニストを批判する文脈の発言だったのだが、この発言にはまったく出典が存在しない
さらに実はこのツイートは、英訳ではなく「英語の校正を頼まれたが断った」というものであり、英訳ではない。
英訳そのものを断ったという情報は、遺憾なことだが当wikiが出典ということになってしまう。

そもそも津田梅子は6歳(7歳とする資料も)で渡米したということもあり、
18歳で日本に帰国した頃には完全に日本語を忘れており、「日本人同士なのに通訳が必要だった」という逸話すら残っている。
そんな人物がどのようなタイミングで英訳を持ち掛けられたのか、という疑問点がまず浮かぶ。まさか6歳で源氏物語に精通しているわけもないだろう。
仮に精通していたとしても、それこそ紫の上を評した光源氏のごとく色恋沙汰なんて分からない年頃の子供がどうやってそれを理解したのかという疑問が残る。
そして江戸時代の学者も研究材料にしていたような話であり、先述したようにエロエロしい濡れ場があるような話ではない。
ただし「津田梅子は源氏物語が嫌いだった」という風説に関しては、2010年ごろから流れているものだったという。これも出典なし。
つまり津田梅子と源氏物語を関連づけること自体が眉唾物と言わざるを得ないのだ。


源氏物語は知名度が高く、現代の倫理観とはまったく異なる観点から恋愛が描かれているせいで本当にあることないこと言われやすい。
しかし雑談の種として面白いからといって、いくらアニヲタwikiでもガセネタを広めるのはあまりよろしくない。
最後にこれらの検証を精力的に行い、源氏物語の誤解を解くことに腐心している杉村喜光氏の発言を引用させていただき、この項目の結びとしたい。

面白いガセはアッという間に広がるというガセパンデミックの瞬間に立ちあっているワケですが、
1400のRT,23000のいいねをされているってことは、それの100倍ぐらいの人がそれを読んでいると思われるので、マジにこれ止めておかないと。
津田梅子と源氏物語の名誉のために。
(出典:https://twitter.com/tisensugimura/status/1117928869128859648)




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最終更新:2024年04月15日 17:24

*1 夢に現れた女性の霊の祟りとも取れるが、性行為が激しすぎたせいという説もある。

*2 装備の一つで様々な登場人物の力をカードに込めたもの、直接は戦わないが巨人を召喚し味方をサポートしてくれる

*3 これ自体はフェミニズムの観点からも批判されるものである。

*4 当時の男性はよく泣いた、むしろ泣くのが美男子の条件だった、なんて話もある。平中説話に残されている笑い話として、平貞文は色好み(プレイボーイ)として名高く、女性に恋をしかけるのに小壷に水を仕込んでおき、その壷の水を目の周りにつけてニセの涙を流してみせるのを常としていた。しかしある時その壷の中身を墨とすり替えられてしまい、泣き真似をして女を落とそうとしたら目のまわりが黒くなってしまって大失敗した……というものがある。つまり昔の男性は泣くことが美男子の条件であり、今の観点からするとなよなよした感じになってしまうのだ。

*5 これ自体は単に「文化の違い」としか言えないため、それが正しいとか間違いという話ではない。たとえば日本の時間停止AVは海外の人からは「死姦に見えて不気味である」という意見もある(最近はそうでもなくなってきたらしいが)。マジでその次元の話。

*6 Wikipediaのあらすじが若干ミスリードを誘う点に注意。

*7 和食の発達は鎌倉時代以降と言われている。

*8 かなり古い言い方になるが「朝チュン」「黒く塗りつぶす」みたいなもん。そもそもエロに対する検閲は昔の方が厳しい。もし本当に濃厚な濡れ場があるなら、少なくとも大正~昭和時代あたりに検閲が入っていたことが話題になるはずだ。

*9 アンサイクロペディアの名記事として有名な「要出典」は、この時期に出典を過剰に気にするウィキペディアンを揶揄したものである。現在の価値観だとむしろ出典を出してくれなきゃ困るだろう。

*10 沖縄の話が毎回出てくるが、たとえば本土の一般的なコンビニではお釣りに使うことを禁じている。

*11 ただし名越氏の本にはそのような「歯に衣を着せない粗野な人間として人気を博した」という文脈で取り上げられている。