SCP-820-JP

登録日:2017/01/16 (月) 13:05:00
更新日:2024/04/09 Tue 22:16:27
所要時間:約 8 分で読めます




SCP-820-JPとは、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」の日本支部によって生み出されたオブジェクトの一つである。
項目名は『血のおかげ』。オブジェクトクラスは「Euclid」に指定されている。

SCP-820-JPは、何種類もの異常な特性を兼ね備えた石で作られたナイフである。
古代アステカ文明に見られた、柄から刃の部分にかけて柄を囲むように這い上がっていく蛇の意匠が施されており、柄の部分には『如来観光 観光促進課 謹製』と言う文字が日本語で彫り込まれている。

さて、このナイフの異常特性であるが、第1の異常性はこのナイフを手に取った人間に「なんでもいいからこのナイフで人を刺してみたい、傷つけたい」という歪んだ欲望を抱かせてしまうというものである。

――なんだか怪談話に出てくる妖刀みたいな特性であるが、このナイフの場合は人を刺してみたくなるという衝動に加え、「とにかく目立つ場所で人を殺したい」という余計な衝動まで抱かせる事になってしまう。

その結果、ナイフを手にしてしまった人物はイベント会場や人通りの多い道のど真ん中など公衆の面前で凄惨な犯行に及ぶようになってしまうのだ。

このナイフのせいで、どの様な事件が起きてしまったかは下記の一覧表を参照していただきたい。
番号 犯行現場 被害者 加害者 犯行
1 某市の観光地の近く 警備員 当時13歳の少年 刺殺
2 首都圏にある歩行者天国 死者三名・重軽傷者16名 不明 通り魔殺人
3 村祭りの会場 名古屋からゲスト参加していた芸人さん 女子中学生 刺殺
4 某市の住宅街 一人暮らしのご老人 不明 バラバラ殺人。死体を路上にまき散らすおまけつき

この最後の事例で、財団は犯人の家に突入、無事にナイフを確保するに至ったのである。


そうだ、犯行現場を見に行こう

『アフガニスタンのバーミヤン渓谷』に『マーシャル諸島のビキニ環礁』、そして『ポーランドのアウシュヴィッツ』。
この三か所には、ある共通点があるのをご存じだろうか?

その答えは、三か所ともに『負の世界遺産』として知られているというものである。

これらの史跡に共通しているのは、記憶から風化させてはならない大災害や、反省すべき人類の愚行の舞台となってしまった場所をあえて後世に残す事で、訪れた人々に過去に起きた様々な惨劇を忘れないでいて欲しいという祈りが込められているというものだ。

そして、この様な史跡をめぐる行為は『ダークツーリズム』と呼ばれている。

一方、ダークツーリズムには「悲劇を金儲けの道具に使いやがって!」なんていう反対意見も存在している。
これらの情報を前提として、このオブジェクトの次なる異常性について検証してみよう。

このナイフが元凶となって引き起こされた重大事件の存在を認識すると、「犯罪現場を見に行きたい」と思ってしまうのである。

悲劇の現場を見に行く、という点では前述した『ダークツーリズム』と似た要素がある様に見えるこの異常性であるが、この異常性には『ダークツーリズム』の様な鎮魂の念はなく、人々はあたかも花見か何かに行く様な物見遊山のかる〜い気持ちで犯行現場に押しかける様になってしまうのだ。

そして、ナイフの異常性は犯行現場そのものにも影響を与えてしまう。
なんと、犯行現場の周辺住民が事件を肯定的に捉えた上で積極的に利用し、町興し・村興しをしようとし始めてしまうのである。

前述したように、『ダークツーリズム』にすら金儲けに繋がりかねないという観点から批判の声が出ているのに、ナイフの影響を受けた犯行現場の周辺住民は積極的に悲劇が起きたことをアピールし、観光に有効活用しようとしてしまう。

その結果、【◯×犯行記念館】なんていうものが建造されたり、犯人をマスコットキャラクター化して宣伝しようとするなど、普通では考えられないことが起こってしまうのである。
そして、それらの情報を知った人間もまた影響を受けしまい、重大犯罪を利用した観光は際限なく増加することになってしまうのだ。

因みに、財団はこのナイフの影響によって一躍観光地と化してしまった犯行現場にエージェントを送り込んで実地調査を行なったことがあるのだが、その笑うに笑えない結果は…是非元記事を参照していただきたい。

なお、この異常性はナイフに起因した犯罪が世に知れ渡るよりも早く、財団の持つ記憶処理や情報改ざん技術などを駆使して事件そのものを隠蔽してしまえば完封することが可能


因みに

残念ながら、現実にも凄惨な犯罪を観光に利用しようとした不届き者は存在している。

例えば、1954年にロバート・ブロックの傑作小説『サイコ』のモデルとなったことでも知られる殺人犯、エド・ゲインが逮捕された際、【遺産】とも呼べる彼の愛車が見世物にされているのだ。
しかも、運転席にゲインを模した蝋人形を置き、バックシートには女性の死体を模した人形を血のりをたっぷりと掛けた状態でばらまくという悪趣味極まりない代物だったそうである。

…もちろん、周辺住民の猛抗議を受け、数日も経たないうちに取りやめになったそうなのであるが。


如来観光について

日本で暗躍している要注意団体の一つであり、その名の通り観光開発に特化した異常な特性を持った物品を取り扱う企業である。
アニオタwikiに掲載されているSCP-458(通称・はてしないピザボックス)の記事にて、比較対象として登場したSCP-454-JP(通称・ぬか“美味しかった”漬け)の製造販売元もこの企業である。


追記・修正は流行に流されない方にお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-820-JP - 血のおかげ
by boatOB
http://ja.scp-wiki.net/scp-820-jp

この項目の内容は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。






















2010年6月某日。SCP-820-JPを収容している財団施設の前に一台のタクシーが停車した。
中から降りてきたのは財団とは縁もゆかりもない民間人の男性であり、慌てたエージェントが男性を確保してインタビューを行なったところ…。

エージェント・木村「では質問を開始します。まず…なぜここに来たのですか?」

男性「いんや、ここにな、あんだろ。あれだよ、あれ。ナイフ。あれが見たくてな」

エージェント・木村「ナイフ? そりゃ…ナイフくらいあるかもしれませんが…なんでまた」

男性「物珍しさだよ。なんかあるって噂を聞きつけてさ、いっぺん見て見たいなあ、と。観光ってそういうもんだろ。なんで見に行くのって言われても、なあ」

エージェント・木村「…どなたかから、その噂を聞いたのですか?」

男性「うーん、覚えてねえなあ。たまたま近くまで来てよ、そういえばそんなもんがあったなーって、来て見たんだけどここはいいとこだね」

なんと、【途轍もなく珍しいナイフが保管されている施設】として財団施設が観光名所になり掛けていたのである。

しかも、物見遊山の民間人はその後も増加し、ついには財団施設に対するマスコミによる取材申し込みまで舞い込むようになってしまったのだ。

このままでは、物見遊山の民間人に対処する過程で、何かの手違いにより財団の存在が明るみになりかねない。
焦った財団は、ナイフに発信器を装着した状態で無人で動く潜水艦に乗せ、海の底をツーリングさせ続けるという収容手順をとるに至ったのであった。

やっぱり面倒ごとしか生み出さないオブジェクトだな。



何が何でも観光開発

すでにお分かりの方も多いと思われるが、このナイフの持つ最後の異常性は、ナイフが同じ場所に長時間保管されていた場合、その保管場所を新たな観光地として集客を始めてしまうというものである。

その結果、財団は常に動き続ける収容施設を新たに開発する必要に迫られてしまったのであるが…記事をお読みになった方の中にはもっと簡単な収容手順があるのでは無いかとお考えになった方もおられたのでは無いだろうか。

例えば、いくつかの財団施設を循環するベルトコンベアーを地中深くに建造してその上を流したり(これは、記事のディスカッションで発案されたアイディアである)、人工衛星に搭載して大気圏外で管理するとか。

しかし、このオブジェクトの生みの親であるboatOB氏曰く、このナイフの異常性を完封するには以下の三つの条件が必須となるのだそうである。

  1. 常に移動し続ける
  2. 人が容易に近づけない
  3. 万が一、ナイフの存在がバレても人が押し寄せる前に逃げ出すことができる

前述した案のように、ナイフの保管場所が一定のルートを巡回していた場合、必ずそのルートが観光地化してしまい「そうだ、観に行こう」ツアーが何処かで企画されることになってしまうそうなのだ。

その点、潜水艦ならそう簡単にたどり着けないし、万が一見に行ってやろうという人間が現れたとしても、向こうが準備に追われている間に場所を変えることができる…という訳である。

本当に面倒ごとしか…。


類似したオブジェクト

他ならぬオブジェクト自身が秘めていた予想外の特性により、財団の存続が危機にさらされてしまった事例は他にも存在している。

SCP-2137(トゥパック・シャクールの断罪霊)
ヒップホップ界の抗争に巻き込まれて命を落とした今は亡き大物ミュージシャン、トゥパック・シャクールが1995年に発表したシングルアルバムのコピー品。
再生すると、トゥパックの声で過去に起きた殺人などの重大事件の犯人と、事件を解決させるのに必要な物証のありかなどを歌に乗せて教えてくれる。
当初、財団はデータ収集も兼ねてCDから得られた情報を警察に密告していのだが、情報漏れのリスクを回避する為に実験を終了したところ、「俺の仕事を邪魔するんじゃねぇ!」とばかりにYouTube等を通じて財団の極秘情報をばら撒き出してしまった。


追記・修正はナイフの現在位置を探しながらお願いします。

CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-820-JP - 血のおかげ
by boatOB
http://ja.scp-wiki.net/scp-820-jp

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最終更新:2024年04月09日 22:16