SCP-439-JP

登録日:2017/01/07 Sat 22:28:01
更新日:2024/02/02 Fri 21:40:49
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「ボール」の定義は、どこまでなのだろうか。



SCP-439-JPとは、シェアードワールド「SCP Foundation」に登場するSCPオブジェクト(超常物)である。
項目名は「ホームラン量産法」。


概要

サッカーの華がハットトリック、バスケットボールの華がダンクシュートだとすれば、
野球における「華」は当然ホームランであろう。
快音とともに打ち返された白球が空高く飛んでいく姿は見ている方も痛快であり、
例え野球というスポーツに詳しくなくともホームランは最高に盛り上がるシーンである。
ましてや自分が「打った」としたら類稀なる達成感を実感できる。
ホームランとは野球に於ける一つの到達点であり、ある種の男のロマンとも言える。

そんなホームランを確実に打てる方法があるとしたら、どう思うだろうか?
誰だって実践してみたいだろう。
そんな方法がSCP世界にはあるのだ。
その方法こそがこのSCPオブジェクト、「SCP-439-JP ホームラン量産法」である。


特別収容プロトコル

毎度おなじみの特別収容プロトコル。
よくわからない人は要するに「SCPというなんだかよくわからないモノ・生物・現象・etc...との付き合い方」くらいに思っておけばいい。
まず最初にこいつのオブジェクトクラス、つまり『取り扱いやすさ』だけど、
以前はEuclidだったが今では堂々のKeter

Euclidは「扱えなくはないが油断大敵・目を離すな」、Keterは「扱いが難易度Very Hardで、尚且つ放って置いたら世界をガチで滅ぼしかねないYAVAI代物」くらいの意味である。
Keterといっても何故Keterかは様々であり、
単純に「強いし暴れだしたら手がつけられないし簡単に収容違反(脱走)するもの」(例:SCP-682SCP-076等)、
有効範囲が広すぎて手がつけられないもの」(例:SCP-003-JP)、
変わったところでは「本人にもそのYAVAI要素が制御できないし、しかもそれで社会をめちゃくちゃにしてしまうもの」(SCP-2662)なんてのもある。
また「世界を滅ぼせそうな要素は特に無いが単純に『捕まえられない』という理由でKeter認定」(例:SCP-1831SCP-1010-JP)なんて珍しいものもある。
どっちにしろ「KeterはKeter、よほどのへそ曲がりでない限りは一見どんなに人畜無害に見えても簡単に財団の制御下から抜け出して世界をぶっ壊す危険性を秘めている」くらいに考えておけばいい。

が、こいつの場合は「捕まえられないから」とかそんな生易しい理由ではなく、「ガチで世界を滅ぼす危険性を秘めている」という意味でKeter(に格上げ)。
単に絶対ホームラン打てる方法なのになんでそんな危険物扱いなのか?
それは後ほど。

次に特別収容プロトコル、つまり本題である「お付き合いの方法」。
SCP-439-JPの特別収容プロトコルはこうなっている。

SCP-439-JP-aを記録したファイルがサイト-81██のドキュメント保存庫に保管されます。
全世界の野球団体にSCP-439-JP-a-3およびSCP-439-JP-a-7に当たる行為をルール上禁止させ、打者がそれらの動作を行った場合は試合を一時中断させるように通達し、SCP-439-JPの発生を防いでください。
██選手の打席が映った一般向けの映像媒体は発見次第編集・破棄する必要があります。現在SCP-439-JPに関する実験は禁止されています。

ここでいう「██選手」とは、SCP-439-JPを使ってホームランを打ちまくった名プレイヤー(故人)のこと。
この選手と財団の某エージェントによりこのオブジェクトが発見されたのである。
それにしてもただ「ホームランを絶対に打てる方法」程度で各国の野球団体に『禁止令』を出さなければいけないとは、こいつは相当物騒なオブジェクトなのだろう。
が、その話はやはり後ほど。


説明

ここでようやくこの「SCP-439-JP」とはなんぞや?ということに対する説明に入る。
SCP-439-JPは10段階のアクション(SCP-430-JP-a-1 → SCP-439-JP-a-10)で構成された一連の動作であり、
これを完全にこなした後でボールを打つと「必ず」ホームランになるという、野球というスポーツを愛するものに取ってはまさに垂涎もののアクションである。

但し10段階のアクションであるSCP-439-JP-aシリーズを途中で中断したりすると成立せず、ホームランは打てなくなってしまう。
まあ要するに格闘ゲームのコマンドみたいなもんだと思えばいいかもしれない。
またアクションを連続して完璧にこなしたとしても、そもそもバットにボールが当たらなければ発動しない。当たり前であるが。
さらに「バットを当てる」のではなく、「強く振る」ことでようやく発動する。
バットを横にして構えていてもダメなのだ。

打つ前のアクションの中には「紳士的でない行動」、まあ要するに下品だったりそういうことだろうなものも含まれており、実際のゲーム中には意図しない限りは発生する可能性は低い。

まとめると、「ある10段階の予備動作を」「中断なしに完璧にこなしたあとで」「バットを強く振ってボールを打ち返すと」SCP-439-JP発動…つまり確実にホームランになる、そういうことである。

尚、野球以外のスポーツでもSCP-439-JP-aが成立すれば発生することが確認されているが、
首の角度などの細かい指定もあるため「極稀に起こりうる」程度でしか無い。
まあそんなんでも「可能性は0ではない、起こる可能性がごく稀に存在する」という点で厄介なのだが。

SCP-439-JPが発動した際の「ボール」の飛距離は、おおよそ1kgにつき1000m。「ボール」の重さに飛距離は比例する。
1gにつき1m飛距離が伸びるとも言える。
ちなみに、公認野球規則により定められている硬球の重さは141.7~148.8g。球場の広さは両翼99.1~100m、中堅122mを基準としている。
この飛距離はボールの重さのみに比例し、バッターの筋力やフォーム、投球速度などの他の影響は一切受けない。
このため傍から見れば「強く打ったからボールがよく飛んだ、当たり前のこと」くらいにしか見えないが、
ハイスピードカメラで確認すると打たれたボールが物理的にありえない方向と速度で飛んでいることが確認できる。
普通、ボールが最もよく飛ぶ角度は斜め上40~45度程度なので、この角度に飛ばすならばボールの中心よりもやや下を打つ必要がある。
しかしSCP-439-JPが発動している状態で打った場合、例えボールの上端をかすり、普通だったら真下にバウンドするようなコースでも、それを無視して真っ直ぐ斜め上前方に飛ぶ。

SCP-439-JPが初めて確認されたのは、19██/7/21の████対██████戦における██選手の第4打席。
件の██選手は「チャンスに強いプレーヤー」と評されており、得点圏にランナーがいるときには高確率でホームランをぶっぱするプレーヤーとして知られていた。
が。
後年になって映像を確認したところ、彼はチャンス時にホームランをぶっぱする際には必ずSCP-439-JP-aを実行していたことが確認された。
これに関しては「全打席で行っているわけではない」ことから、これがチャンス時の彼の癖であったのか、或いはSCP-439-JP-aの存在に気づいておりチャンス時以外は使わないようにしていたのかは不明である。

で、こいつが晴れてSCPオブジェクトに認定されたのは、19██年に行われたサイト-81██のレクリエーションである野球大会。
この大会でとあるエージェントがホームランを打ちまくったのである。
「おいなんでこいつさっきからホームラン打ちまくってんだ?」「アイツって確か野球やったこと無いはずじゃん?」と気になった研究員が調べてみたところ、
なんと██選手の動きをDVDで参考にしていたのである。
彼は他人の動作を模倣することが上手いため、当然のごとくSCP-439-JP-aも「完璧に再現」してしまったらしい。
その後、某博士の調査によりSCP-439-JPと、それを発動させるためのアクションであるSCP-439-JP-aが確認され、SCPオブジェクトに認定され今に至る。


実験記録

まあこいつもSCPオブジェクトの一つということで、色々と実験が行われている。

実験記録439-06 - 日付19██/4/25

対象: D-45345、D-45370

実施方法: 屋外実験場にてD-45345にSCP-439-JP-aを行わせた後、D-45370の投げた硬球を打たせる。

結果: 打球は例外を除き全て140~151mを記録。打球の軌道はフライ性からライナー性と様々だった。例外としてD-45370に当たったボールはそのまま落球し、D-45370は腕に全治2週間の打撲を負った。}

分析: これまでの実験から予想される通りの結果となった。打球が障害物に妨げられた場合は例外となるようだ。飛距離の誤差はボールの重量差だけでなく風の影響などを受けているためと考えられる。

D-45370カワイソス。

実験記録439-07 - 日付19██/4/27

対象: D-45345

実施方法: 屋外実験場にてD-45345にSCP-439-JP-aを行わせた後、ティーバッティングをするように指示。

結果: 前回の実験と同様の結果となった。

分析: どうやら投げられたボールでなくても問題ないようだ。今後は特記しない場合は同様の方法で実験を行うこととする。

誰かが投げた「ボール」でなくても、SCP-439-JP-aをこなした後で「打てば」ホームラン確定らしい。

実験記録439-08 - 日付19██/4/29

対象: D-45345

実施方法: D-45345にラグビーボールを打つように指示。

結果: ボールは約400m飛翔。木製バットは二つに折れ、D-45345は腕の痺れを訴えた。

分析: 野球ボール以外でもSCP-439-JPが発生することを確認。被験者にかかる負荷は軽減されるわけではないのか?次の実験で確認したい。

どうやら「野球用のボール」でなくても打てば発動するようだ。
但し打者にはそれなりの負荷も跳ね返ってくるらしい。無条件でかっとばせるほど甘くもない様子。

そんでもって。
D-45345「え?またやるの?ってかまた俺に打てって???」

実験記録439-09 - 日付19██/5/5

対象:D-45345

実施方法: D-45345に合金を埋め込んだ重さ約5.0kgの野球ボールを打つように指示。なお、コンクリートブロックを緩衝材として設置。

結果: コンクリートブロックは破壊され、ボールは停止した。木製バットは粉砕され、D-45345の腕は衝撃に耐えきれず[編集済]。

分析: 仮説は正しかったようだ。予想される被害と人員の喪失を考慮すれば、SCP-439-JPの限界重量の調査は不要であるだろう。

「編集済」とあるが、何が起こったかは我々のような素人にも想像がつくだろう。
コンクリートブロックがなければ5kgの「ボール」を約5000mも「ホームラン」するとなれば、バッターたるD-45345の腕にもそれなりの反動は跳ね返ってくるのだから。

限界重量の調査は中止となったようだが、それでいい、やめとけ。色んな意味で。

そして……


ついに起こってしまった。


事故記録439-01 - 日付19██/5/7

事故内容: D-45370に並べられた野球ボールを2球同時に打つように指示したところ、D-45370は空振りをしバットを放してしまいました。バットは実験の補助として参加していた別のDクラス職員の頭部に直撃し、Dクラス職員の頭部は[編集済]*1
本実験ではD-45370に新たな負傷は見られませんでした。D-45370にインタビューを行ったところ、故意ではなく先日の負傷により腕の感覚が鈍かったためであると主張。D-45370は別のSCP任務に割り当てられ、同席していた研究員にはBクラス記憶処置を行いました。

分析: ボールではなくとも球体に近ければ影響が及ぶと予想される。また、バットがコントロールから離れてもSCP-439-JPは発生するようだ。

こいつは「ボール」でなくても「丸いモノ」ならなんでも「ホームラン」してしまうアクションと現象である。
それが今回の事故ではっきりとしたのだ。
その上バットが手から離れる、或いは腕ごと引きちぎられる…などで打者のコントロールを外れても発動する。
SCP-439-JP-aを終えたあとでフルスイングを行ったが、その時に勢い余ってバットを手放してしまっても「発動」する。
………。

この事故の発生後、サイト-81██責任者が実験の凍結とオブジェクトクラスの見直しを申請。
O5評議会より承認され、SCP-439-JPはKeterにクラスが引き上げられた。

Dクラス職員の頭部に当たったのは幸運だったと言える。楕円形でも、表面に凹凸があろうと問題なくSCP-439-JPは発生し、そして重量物ほど飛距離がでる。そこに例外があるという希望的観測はするべきではないだろう。 -サイト-81██責任者 ████

え、何故こいつがKeter認定されたかまだわからない?
さっきも書いたとおり、こいつは要するに「特定のアクションを行った後で」「バットをフルスイングすると」「丸いものなら何でも"ホームラン"する」現象。

野球ボールじゃなくてもいいのである。
例えそれがラグビーボールでも、鉄球でも、或いは人の頭部でも。

しかもラグビーボールやDクラス職員の頭で分かる通り「厳密な球体をしている必要はない」
ついでに言うなら「バットが手を離れていても何かの球体に当たれば発動する」
もひとつおまけに「打ち返す『ボール』が重けりゃ重いほどよく飛ぶ」

………。

我々の一番身近にある「球体/ボール」とは?



もうわかっただろう。
何故こいつがKeter、しかも「ダイレクトアタックで人類や世界を滅ぼしかねない危険性を孕んでいるタイプ」かが。
今までそうならなかったことは一つの奇跡だったかもしれない。

そして先述のDクラス、彼は文字通り自らを犠牲としてK-クラスシナリオを阻止した英雄である。
世界をそして人類を救った名も無きDクラス職員に敬礼を。

ま、とあるTaleでは財団の野球大会で日本支部がコレ持ち出していたりするんだがな!


Tale「ワールド・ベースボール・コンテイン」

で、上記のTaleの「ワールド・ベースボール・コンテイン」なのだが、
作者曰く「アストロ球団などのトンデモ野球をリスペクトして書いた」そうである。


場所はサイト-17の特設球場、財団の野球大会「ワールド・ベースボール・コンテイン」の決勝戦である、本部対日本支部の決戦。
3回を終えた時点でのスコアは34-6で日本支部の圧勝…と思いきや、
コンドラキ博士が蝶の王としての力を振るい、打者にのみ投球を見えなくすることで、
SCP-439-JPにより文字通りホームランを量産してきた日本支部への対策を行ってきた。
上記の通り、439-JPは予備動作をこなしても「バットをフルスイングさせた上でボールに当てなければならない」ので、
ボールが見えなくなるということは死活問題である。

もちろん日本支部側もコンドラキ博士の投入は予想していた…が、想像以上に登板が早かった。
しかも34-6程度では、まだ本部にも逆転の余地が残されている。
なぜなら、本部はあのイチローのクローンを8体も用意しているのだ。ちなみにクローンイチローを「動かす」のはブライト博士

しかし、それに関しても日本支部は承知の上であり、
一つ目の文字通りの「隠し玉」として統一スクラントン現実ボール…おそらくはSRAを野球ボールサイズにまで小型化したものを投入し、
コンドラキ博士を封じることに成功。
スクラントン博士とその妻たるアナはスクラントン博士自身が肉体、生命、そして存在と引き換えに完成させたSRAがこのように使われているのを見たら、どう思うのだろうか。本部も本部でスクラントン博士の理論を応用してシャンク=スクラントン因果撹乱器とか作ってるけどな*2
そしてもう一つの隠し玉は…。

バッターボックスに登板した「神山博士」を見た観客は怒号を挙げる…
なぜなら、登板した「神山博士」は、野球界の神ことベーブ・ルースの姿を取っていたのだ。
これには中継を見ていたカインも思わず声を荒げ、ケイン教授は尻尾をブンブンと振り回し、TVモニターに向かって吠えている。
…ベーブ・ルース知ってるのか、カインさん。

バッターボックスで主審であるO5-1とコンドラキ博士に向かって丁寧にお辞儀をする「神山ベーブ蔵」。
それを迎え撃つは「ブライトイチロー」。

野球界の伝説と伝説のぶつかり合いが、今始まる…!


財団が全力で野球をやると、クローン技術だのKeter級オブジェクトなどを隠し玉のノリでぶち込んでくるのは当たり前のようだ。
財団自ら収容違反をやってやがる。
財団の野球大会で世界がヤバイ


余談

すっぽ抜けたSCP-439-JPが地面にぶつかっていたら、具体的にどうなっていたのだろうか?

①地球の質量は約5.972×10^24㎏です。
②SCP-439-JPは1kgの「ボール」を1㎞飛ばします。
③このため地球は5.972×10^24㎞の距離まで飛んでいきます。

5.972×10^24㎞を変換するとだいたい6300億光年となる。
現在観測可能な宇宙の半径が約465億光年。
つまり、我らが地球は太陽系を超え、銀河系を超え、宇宙すらも超えたはるか彼方まですっ飛んでいくことになる。
事故記録439-01でDクラス一人の犠牲で済んだことはまさに僥倖と言うべきであろう。


ホームランを打った人は追記修正をお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-439-JP - ホームラン量産法
by watter12
http://ja.scp-wiki.net/scp-439-jp

ワールド・ベースボール・コンテイン
by darumaboy
http://ja.scp-wiki.net/world-baseball-contain

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最終更新:2024年02月02日 21:40

*1 人間の頭部の質量は体重の約8~10%程度と言われている。Dクラス職員が標準的な体格の成人男性だとしたら、頭部の質量は6kg程度だろう。6kgの物体を6kmもぶっ飛ばすほどの衝撃を人体が受けたら…

*2 一応このTaleもSCP-2237もSCP-3001より前に執筆されたものである。最も今後スクラントン現実錨を財団が悪用しないとも限らないのだが…