プラスチックマン(水木しげる版)

登録日:2016/12/02 Fri 23:07:40
更新日:2023/02/23 Thu 20:29:38
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故・水木しげる……この名前を知らない日本漫画読者はいないと断言して過言でないだろう。
2015年に93歳で急逝するまで、実に半世紀以上もの執筆活動で『ゲゲゲの鬼太郎』に『悪魔くん』など、
アニメ実写化もされた超有名作をはじめとする数々の名作を発表した大漫画家である。

そんな水木氏だが、『鬼太郎』『悪魔くん』辺りのイメージから、その創作活動は妖怪云々を題材とした漫画が中心だったと
考えている読者も決して少なくないと思われるが、実のところそういう訳ではない。
実際に凄惨な戦地に赴いた体験談を根底とする数々の戦記モノ、『劇画ヒットラー』のような歴史モノ、等々
手がけたジャンルでいえば結構多作にわたるバリエーション豊かな作品を輩出してきた作家であるのだ。
そして本作はそんな氏の執筆活動の中でも、デビュー黎明期に描かれたのが本項で紹介する『プラスチックマン』である。

『プラスチックマン』とは、1941年よりアメリカのクオリティ・コミックスよりデビューを果たし、
現在も版権をDCコミックスに移しながらDCユニバースで活躍を続けている歴史あるアメコミヒーローの一人である。
それを水木しげるがコミカライズした……と仰天するかもしれないが、当時の水木はまだデビューから一年も経っていない新人漫画家。
当時はスーパーマンバットマンといったアメコミヒーローも日本のお茶の間で人気を博しており、
コミカライズの題材として選ばれたのも当然の帰結だったと言えるだろう。
(そもそも水木のデビュー作は、主人公がスーパーマンのコスプレをする『ロケットマン』なる作品である)

当の内容は、水木が後に発表した『地底の足音』(H.P.ラヴクラフトの『ダンウィッチの怪』翻案作品)同様に
舞台を日本に移しつつ、ヒーロー活劇としての面白さはそのままに漫画を展開する……というものではあるが、
伸縮自在のボディを有したヒーローという題材は水木しげるとも思いのほか相性が良かったのか、
漫画全体を通しての主人公の珍妙な活躍など、むしろ後年の『鬼太郎』などの杵柄となったのでは?と思わせる部分もチラホラ。

当時の単行本は当然ながら激プレミアで、長らくコアなファンでも中々お目にかかれない一作だったが、
2013年より刊行開始された「水木しげる漫画大全集」にて、記念すべき第1巻『貸本漫画集1 ロケットマン他』に念願の収録が果たされた。
同書籍には水木氏のデビュー作『ロケットマン』、プレ・デビュー作『赤電話』等と言った初期の貴重な名作が併録されているため
水木ファンなら是非とも手元に置きたい一冊である。


あらすじ

水木博士が「人間」を科学の力で作り出すことに成功した……そう報じる新聞を読み、面白くなさそうな顔をする不吉博士。
人造人間の研究は自分の縄張だと言って憚らない不吉博士は、自分自身をもう一人作ることで犯罪に役立てようとする悪人であった。
水木博士が自身の野望にとって邪魔ものだと判じた不吉博士は、彼を呼び出して決闘と称し、風船ガムにを仕込んで殺害する。
悲しみに暮れる水木博士の一人息子・三吉だったが、父親の遺言に従い、託された「新人類」を育てることを決意。
発見された新人類は博士の助手・デブさんに寄生、男ながらも妊娠してしまったデブさんを甲斐甲斐しく世話する三吉、
果たして十ヶ月後に産み落とされたのは、正義の人・プラスチックマンであった……


登場人物

  • プラスチックマン
本作の主役。不吉博士に殺された水木博士が遺した「新人類」。
最初は掌に収まるサイズのヒトガタ微生物だったが、デブさんに寄生して彼の腹を借り、
十ヶ月もの間デブさんが食べ続けたプラスチック製品を栄養源として、無事出産されるという、なんとも歪みねぇ経緯で誕生。
ちなみに胎児の頃から知性はあったようで、デブさんを聴診した医師に「当分出るつもりはない」とわざわざ返答している。

普段はシマシマ模様のコスチュームにサングラスをかけた変人成人男性の風貌をしているが、
原典作品同様にその身体は自由自在に変化させることが可能で、出産時点ではロープ状の姿だったのがすぐさま束ねて人間体となった他、
ブルドーザーに轢かれてノシイカの如くペラペラにされた挙句トタンの代わりにされてクギを打たれながらも復帰したり、
腕や首など身体の一部分だけを伸ばしたり、カバンに変形して不吉博士にアンブッシュを食らわせたりと、まさに自由自在。
自動車で逃走する相手に対しては、パンジャンドラムを彷彿とさせる形態をとって追跡するなど、総合的なポテンシャルは極めて高い。
全体的に色物っぽいが、プラスチックマン本人は正義感あふれる真っ当なヒーローとしての高潔な人格を有している。

反面、クギや包丁に対して痛がったり、また不吉博士の棘針攻撃に怯む一幕もあるなど、痛覚はちゃんと存在する模様。
またプラスチック故ににも弱いが、燃え盛る檻に閉じ込められた際には自分自身の勇気でこれを克服している。
実際、不吉博士の策略で缶詰にされて身動きすら取れない状況に追い込まれてしまった際には
紆余曲折を経てカマボコに加工されながらも生還したものの、この時は流石に自身の甘さを反省するに至り、
このマンガがおわるまでに白黒をつけるよ」とメタく宣言、その通り不吉博士と決着をつけた。
その後は活躍を聞きつけたTV会社からスーパーマンとのタイトルマッチを持ち掛けられ、
今日はつかれていますからこれで終りにしてください」と断った……ところで漫画は終幕する。

シマシマ模様のコスチューム、平べったくなったり加工されたりしても生還する不死身性など、
全体的に後々作者が執筆する『ゲゲゲの鬼太郎』のプロトタイプ的な側面が散見されるのが特徴。
デザイン自体は、クオリティ・コミックス当時のジャック・コール版プラスチックマンそのまま。

  • 三吉
水木博士の遺児である少年。の淵に追いやられた水木博士から新人類プラスチックマンを託され、
それに妊娠……もとい寄生されたデブさんを甲斐甲斐しく世話し、無事プラスチックマンを成長させる。
プラスチックマンに対しては自分が育ての親だと威張るも、彼からは「やけに小さな親だな」と返されてしまった。
その後はデブさんと共にプラスチックマンと共に、不吉博士の野望に立ち向かう。

  • デブさん
水木博士の助手を務めていた男性で、そのまんまなネーミング通り太っちょな見た目。
博士の遺した新人類に寄生され、まるで妊娠してしまったかのような状態になるも、それでも三吉の世話のもと
十ヶ月間プラスチック製品を食べ続け、死ぬような思いをしながらも成長を果たしたプラスチックマンをこの世に産み落とした。
その後は三吉ともどもプラスチックマンをサポートするも、不吉博士に捕まって拘束されるなどこれまたエラい目に。

デザインは原典作品におけるプラスチックマンのサイドキック「Woozy Winks」のビジュアルそのままで、実質的な翻案キャラクター。

  • 水木博士
人造人間の開発に成功した科学者だが、それ故に不吉博士の妬みを買って暗殺されてしまう。
しかし、それでもなお死の間際に三吉とデブさんに新人類プラスチックマンを託し、不吉博士の野望を挫く事に貢献した。
なお、作中に出てくる水木博士の研究室では、カプセルに詰められた「開発失敗した人造人間の抜け殻」を拝めるのだが
描かれているのは一つ目小僧、巨大キノコ、縛られた中年男性……意外とマッド寄りの人だったのかもしれない。

  • 不吉博士
人造人間研究の権威を自称する悪の科学者。自身の野望の障害たる水木博士を始末した後、
棘針コートを着こんでピストル片手に銀行を次々と襲撃する「強盗博士」として悪事を繰り返していた。
また「自分と全く同じ姿・思考の人造人間」を完成させ、悪いのは人造人間で自分は善良な科学者だと嘯きプラスチックマンを騙す卑劣漢。
最終的にはプラスチックマンの縦横無尽の活躍に翻弄され、度重なる弱点を突いた戦略もプラスチックマンの勇気に克服されてしまい、
人造人間ともども捕縛され、二度と悪事をしないことを誓わされる羽目に陥った。



追記・修正はアメコミヒーローの出産経験がある方にお願いします。

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最終更新:2023年02月23日 20:29