SCP-2442

登録日:2016/11/25 Fri 15:03:28
更新日:2024/02/23 Fri 22:07:26
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治療は終わらない。終わるようなことがあってはならない。それが私たちを必要とする限り



SCP-2442はシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクト(SCiP)である。
オブジェクトクラスはKeter。
多分初見でのわけわからなさはSCP-001SCP-2719などにも匹敵するオブジェクトである。

なお、この項目を読む上では、改めて言っておくことがある。


「SCP Foundation世界はカノンを取捨選択できる」ということである。


つまり、なにを自分の設定の中で選ぶか(ヘッドカノン)を自由に決められるのがこのシェアード・ワールドであり、
故に以下の内容は財団世界の「公式設定」ではないということである。
あなたの設定でもちろん、以下のものをヘッドカノンにしてもいいのだが。



――オーケイ?



概要

SCP-2442は人型実体であり、知能は高い。
このSCP-2442なのだが、「何でもものを消滅させられる」異常に(財団の理念的に)敵対的なオブジェクト。
なんと他のSCPオブジェクトを触れると12時間以内に消滅させてしまう。
多分このあたりでSCPオブジェクト記事を読みまくった人はあれとかこれとか頭によぎったと思うけどちょっと待って。

このSCP-2442だが話しかけられたことに応答する声を産みだす(それはテレパシーみたいなもんと扱ってはいけないのだろうか?)を含む現実改変能力を持ち、
かなり話すことに説得力があるらしい。
よって彼の発言を長く聞いていると、彼のことを取り扱う職員たちも彼を仲間として見てしまう。
わかりやすく言えば、「実力が伴っているSCP-1973-JP」だろうか。

SCP-2442が行うどんな主張も徹底的に無視しなさい。根拠が全くなく、妄想なのだと考えなさい。 - O5-10

メアリー・スー的な特性を有しながら実力も伴うとなると、正直辟易してしまいそうな人もいるかもしれないが、
このSCP-2442の肝はそこではないのでもう少しお付き合い願いたい。

さて、こいつは現在、光も音も減少させられた部屋を3つのサイトに1つずつ用意し、
SCP-2442が移動した場合はその中に住まわせることになっている。
SCP-2442を見張っている職員が二名ほどいるが、いずれも声を聞いただけで記憶処理の対象になる。
またSCP-2442に時間経過の概念を与えうるいかなる行動も実施しないかランダムに実施する。
つまり時計はおろか、多分飯の間隔とかも乱しまくるんだろう。

事案

このSCP-2442だが一度収容違反を犯している。
こいつは財団職員に対しては非常に好意的で(まあ味方に引きこもうとしたんだからそらそうやな)
エージェントが一人こいつに消失させられている。
その後、別の職員に話しかけながら(現在データが消失している)SCPの収容室に入り、それを包み込むようなしぐさをする。
そのSCPはSCP-2442が退室してから3時間後に消滅した。

大丈夫ですよ。私を信じて下さい。私達は一緒にやり遂げられます、だから私を信じて。

このインシデントレポートなのだが、何故か一部抜粋の状態でしか載っておらず、
全文を見るためにはセキュリティクリアランスが5でないと見れない。

その後、再び収容違反を犯した。
またSCPが消滅させられると考えたサイト管理官のドゥアルテは、
「ならまだマシなSCPの情報を流そう」と、致命的なものにアクセスさせることを防いだ。
これによって収容手順は若干更新された。

だがこの時重要なのが、ドゥアルテとSCP-2442の会話である。

[抜粋記録開始]

<9:21> サイト管理者ドゥアルテはSCP-2442を面談室に導いているように見える。彼はテーブルの一端に座り、SCP-2442は反対の側に座る。オンライン状態の録音装置とマイクが据えられている。

<9:21> ドゥアルテ: "さてSCP-2442。今日のご用件は何かな?何が知りたい?この施設が収容するどんな情報でも教えてやろう。"

<9:22> SCP-2442: "貴方達には人々がいますよね?まず最初に彼らの事を伺いたいと思います。彼らについて知りたいだろう誰かが私にはいるんです。"壁の一枚を背に簡素な人影が現れる。その人物は室内のソファーに座っているように見える。シルエットとソファーは0.5秒後に消失。サイト管理者ドゥアルテはこの事に気付いたようには見えない。

<9:25> ドゥアルテ: "ああ、これを"サイト管理者ドゥアルテは、タブレット型コンピュータ内のSCP-[データ消失]のファイルをSCP-2442に見せる。"SCP-[データ消失]だ。西棟に収容されている。"SCP-2442はタブレット型コンピュータを読んでいる。

<9:27> SCP-2442: "ふむ、面白い。彼はとても若いですね?彼の名は何と言いました?"女性の声がSCP-2442に答える。マイクが一時停止したため、名前は確認できない。

<9:28> SCP-2442: "分かりました。彼はあなたの古い友人でしたね?事故の前の。彼が今どこに居るか知っていますね。恐らくあなたは彼に会いに行かなければならないでしょう。心配しないで。大丈夫。私が一緒に居ます。"SCP-2442は片手を伸ばし空気を握る。手と前腕の影が握るように空気中に現れる。0.9秒後に影は消失。凡そ25分後にSCP-[データ消失]は消失する。

<9:34> ドゥアルテ: "他に何か知りたいことは?"

<9:35> SCP-2442: "是非にも。説明の必要なしに協力してくれてどうもありがとう。貴方はとても大切な誰かを助けてますよ。"

[抜粋記録終了]

二人共話が噛み合ってないのがわかるだろうか。
SCP-2442は「貴方達には人々がいますよね?」と聞いたのにドゥアルテはなぜかSCPのレポートを見せ、
そしてなぜかそれに「彼はあなたの古い友人でしたね?」と答えている。そしてそれは消える。
まあ友人が人型実体になっちゃったとかならありそうだけどそれを消す理由ってなんだ?

さて、ひとつ目の事案に続き、やはりインシデントレポートが抜粋状態で全部見るためには許可が必要になる。

ひとつ目の事案もふたつ目の事案も、何故か
事件の完全な記録は事件記録2442-0Xとして見つかるかもしれません。』(X=1,2)
とのみ書いてあり、外宇宙の住人たる我々はまず一切読めない。メタ的に言えば、どこにも完全な記録とやらは存在していない。
財団世界の住人しか読めず、彼らもまた制限がされている。一体全体どうしてそこまで隠さなければならないのか?

そしてもうひとつ事案があるのだが…なんとこちらはO5の指示で概要すら除去されている。
概要すらないってどういうことなの?

で、このO5のうちのひとり、O5-9が
「サイト管理官カンナがSCP-2442に質問をしている記録の抜粋なんだが、あまりに不安にさせる、コメント希望(要約)」
とつけて意見を求めている。

もとから抜粋済みなので、それをベタッと貼る。注意として、「サイト管理官カンナ」は男である。

+ 長いので折りたたみ
[抜粋記録開始]

<22:09> カンナ: "なあ、SCP-2442。きみが我々の所有するオブジェクト達についてざっと目を通してる間に、少し質問してもいいか?"

<22:09> SCP-2442: "何でもお尋ねください、サイト管理者さん。可能な限り正直にお答えしましょう。"

<22:10> カンナ: "きみは誰と話してるんだ?何故彼らが重要なんだ?きみは何をしているんだ?きみは何故しているんだ?"

<22:10> SCP-2442: "何てことだ、好奇心で一杯ですね?"SCP-2442は笑う。"私からは一つの質問で応じましょうか。ここは何処です?"

<22:11> カンナ: "ここはサイトと呼ばれていて、財団の中の―"

<22:11> SCP-2442: "何の土台ですか?"("The foundation of what?")

<22:11> カンナ: "なに?いや違う、それは財団―"

<22:11> SCP-2442: "ここにある唯一の土台は我々の足元にあるそれだけですよ。土台。何のか、正確に?それは何の土台ですか?あるいは恐らくこう尋ねなければならないのでしょう、それは誰の土台ですか?"

<22:12> カンナ: "理解できないな。それは財団と呼ばれる組織だ。それは何かの土台ではない。要するに…"

<22:13> SCP-2442: "ああ、閃きました。すみませんが、全てを説明してもよいですか?覚悟はよろしいですか?"SCP-2442は部屋の片隅の観賞植物がある場所に向けて話しかけているように見える。植物が動く。木の葉の音は女性の囁くような'はい'という声のように漠然と聞こえる。

<22:14> SCP-2442: "聞いてください、レヴァントさん。貴方に見せたいものがあります。ええ、私は貴方の名を知っています。しかし、貴方も既に私の名前を知っていますよね。"SCP-2442はコートのポケットから一枚の写真を取り出す。そのような写真は収容違反前にはSCP-2442の身辺からは記録されていなかった。写真は女性の肖像で、茶色の髪と茶色の目をした中年女性と推測される。"この女性の顔を覚えていますか?"

<22:14> カンナ: "いいや分か…はい。ええ。彼女を知っています。彼女が幼かった頃に私が家庭教師として教えました。しかしそれは…それは遠い昔の事、私が…私が今の年齢と同じだった時の。そんな事は―"

<22:15> SCP-2442: "レヴァントさん。私を見てください。私の顔を覚えていますか?私はだれです?貴方が知っているものと確信しています、貴方が彼女の事を良く知っているのですから。"

<22:16> カンナ: "…フェスターガード先せ―いや、トーマスと呼んでくださいと仰っていましたね。トーマスさん。以前の面会はとても困難なものだったのでこうしているのでしたね、思い出しました。"サイト管理者カンナの声がアメリカ人女性のそれに変わり、以降の会談の間そのままとなる。サイト管理者カンナはパンジャブ人男性である。

<22:17> SCP-2442: "その通り、私はトーマスです、あなたの友人の。最初の面会が失敗に終わった時、私はあなたの精神がそれ自体をどのようにして構築したかより深く観察しなければなりませんでした。様々な対処メカニズムを教えるという以前の試みが何故上手くいかなかったのか、今やかなり明らかになりました。それらはここの分派になってしまったのです、競合したのですね。思うに、職員は彼らの事を―"

<22:18> カンナ: "要注意団体。"サイト管理者カンナは泣き始める。"トーマスさん、ごめんなさい。ここには大勢の人がいるんです、とても多くの…私が仕舞い込んだ記憶が、あるんです。私が制御できなかったために。出来るかどうか分かりません。とても難しいんです。"

<22:19> SCP-2442: "大丈夫ですよ、ステーシー。私達はちょっとずつですが、そこに近づいています。あなたと私、一緒にです。もはや一人でこれら全てに立ち向かう必要はないんです。既にどれだけあなたが手放す術を学んだかを、どれだけ遠くまで来れたかを確かめて下さい。"SCP-2442は手を伸ばし、サイト管理者カンナの左手を握る。"私達の始めた時のことを、私が話した事を覚えていてください。私は彼らを見つける事が出来るだけですが、あなたなら―"

<22:20> カンナ: "彼らを手放すことを、遠くへ行くことを学びました。分かってます。あなたと共に、トーマスさん。そろそろ―そろそろ面会を終わらせましょうか?"エージェント・█████と████がSCP-2442を収容室に戻すために現場に到着し、ドアをガンガン叩く。

<22:21> SCP-2442: "もちろんです。どうやら時間は尽きたようです、いずれにせよ。また会いましょう、ステーシー。必要ならば、私を呼べることを覚えていてください。"エージェント・█████と████はドアを壊し、SCP-2442は抵抗なく鎮静された。

[抜粋記録終了]


要約は以下の通り。
  • カンナはSCP-2442に「ここはどこか」と質問された。
  • カンナは「ここはFoundation(財団)だ」と答えたが、SCP-2442は「なんの土台?(Foundation of what?)」と答えた*1
  • 途中からカンナは「サイト管理官カンナ」ではなく、「ステーシー=レヴァント」なる謎の人物になっている。声も男性から女性のそれになった。
  • SCP-2442は「トーマス=フェスターガード」と名乗っているらしい。
  • そのトーマスことSCP-2442はレヴァント(カンナ)の過去の教え子についてなにかを知っているらしい。
  • レヴァント(カンナ)に何らかの試みをとった者がSCP-2442以外にいるらしいがそれを財団は「要注意団体」と認定している。
  • レヴァント(カンナ)とSCP-2442は協力してSCPに立ち向かおうとしている。

このインタビュー記録を聞いたO5の他のメンバーも明らかに取り乱しており、
O5-3は「この世界を存続させるために我々は永続するのです、確保、収容、保護」と財団理念を唱え始め、
O5-4は「こいつは通常ナンバーのままにしろ、他の全職員を遠ざけるんだ」と指示を出し、
O5-5は「彼は妄想狂です。私たちは安定を維持するのです。私たちは秩序を維持するのです。私たちは危険を確保するのです。予測不能を収容するのです。知ってはならない知識から世界を保護するのです。世界は私たちを必要としています。彼女はそれは私たちを必要としています。」と話した。

いったいO5はなにに怯えているのだろう?





考察

このSCP-2442なのだが、実はある見方をするとすごくわかりやすい。

常々SCP記事を読んでいる我々は、メタ視点を持っているはずながら、ついつい財団世界基準でものを考えがちになる。
それは当然創作物ってそういうもんじゃないか、という話なのだが、ことこの報告書はメタ視点で読まなくてはならない。

すなわち、「財団なんてものはない」という視点。



SCP-2442ことトーマスは「精神科医」で、カンナことレヴァントは「統合失調症患者」と捉えるとこのSCP-2442の話が見えてくる。



すなわち、財団というものは「ステーシー=レヴァントの創りだした妄想の世界」。
SCiPは「レヴァントの持つ不安が具象化してしまった」もので、それを消して回るトーマスは「不安をひとつひとつ取り除いている」のだろう。
要注意団体とは「不安を別のアプローチで消そうとしたが、余計に酷くしてしまった」別の精神科医やセラピスト、あるいは善意の第三者か何かだろう。
そしてトーマス本人がSCP-2442なのは、レヴァントがトーマスのことを信用しつつも、どこかでは信じきれていないということになる。

この報告書には、(データ抹消済みのものを除いては)SCP-2442以外のSCiPは登場しないが、
この視点から見たら既存のSCiPはまた違って見える。
SCP-173はずっと頭から離れない不安。
SCP-096は逆に直視したくない不安。
SCP-076は一度解決してもまた気になってしまう不安。
SCP-682はなにをしても取り除けない不安。
SCP-871は不安から現実逃避を図ろうとする心情だろうか。

世界オカルト連合は「余計なことをして不安を深化」させ、
マナによる慈善財団は「良かれと思って無意味なアドバイスを」し、
サーキック・カルトはそんな「統合失調症の彼女を嘲笑し差別」している連中。

O5が取り乱したのも、統合失調症がどういう病気かを考えればわかる。
統合失調症の患者は、常々「自分は本当は病気などではなく、社会的な強大な力を持つ何者かが、
私の知る真実から他者の耳目を遠ざけるために病気ということにしているのではないか?」と考えがちであり、
実際「ガスライティング」とか「集団ストーカー」で調べるとそのようなことがたくさん出てくる。
そしてそのせいでしばしば他者と諍いを起こしやすく、事件になってしまうこともある。

レヴァントを待っている人が家族なのか、途中で出てきた教え子の少女なのか、
あるいはその前のかつての友人なのか、それはわからないが、
「統合失調症の患者の創りだした世界」であるSCP財団にとって、
「統合失調症が治る」事自体がKeterクラスの災害である。
故に、これはKeterであるのだろう。
特別なナンバーとやらもSCP-001提言のことを指し、
「これはSCP-001提言にしてはいけない、通常ナンバーとして絶対に不審に思われないようにしろ」ということなのではないか。

そしてトーマスがKeterオブジェクト扱いということは、
レヴァントの治癒はまだまだ遠い話ということになる。

レヴァントははたして再び幸せをつかめるのだろうか?





SCP-2442 - Sometimes Therapy Is Merely Painful Truths(時として治療は唯の痛々しき真実に過ぎず)







SCP-2442 - Sometimes Therapy Is Merely Painful Truths
by SoullessSingularity
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最終更新:2024年02月23日 22:07

*1 Foundationには「財団」「土台」の2つの意味がある