SCP-2872

登録日:2016/11/24 (木) 02:37:00
更新日:2023/05/14 Sun 23:11:56
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無茶しやがって……。


SCP-2872とは、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」に登場するオブジェクト (SCiP) の一つである。

項目名は『ある駿馬(A Fast Horse)』。オブジェクトクラスは「Keter」に指定されている。

こいつは名前通り馬のSCiPで、生物系のKeterと聞くと真っ先にあのクソトカゲが思い浮かぶだろうが、こいつは奴みたくダイレクトに人類や財団へ害意をぶつけるタイプではないのでそこはご安心を。

で、収容プロトコル。

現在SCP-2872は未収容状態です。天文部門および衛星が進路を監視し、最終的な軌道を算出しています。

何で馬を天文部門が監視せにゃならんのかが気になるだろうが。

概要

SCP-2872は、起源も血統も不明なサラブレッド種の種牡馬で、パッと見は普通の競走馬と区別がつかない。
アメリカ競馬の最高峰ケンタッキーダービーで、2:01*1という優勝馬たちの平均記録と大体同じ記録を残してはいるが、それはあくまで常識の範囲内。

確認されていた唯一の異常性は「目に見えて加齢しない」だけで、少なくとも財団が発見した1960年代のある年から約50年、衰えを見せぬまま活動しているらしい。ぶっちゃけそれくらいならSCP界隈じゃ普通の範疇だが。

そして、SCP-2872がケンタッキーダービーで優勝し、そこから5年が経過した場合、本格的にその異常性を発揮する。

普段は温厚で従順なSCP-2872は急に落ち着きを失い、大きく円を描きながら走り出す*2
この時ばかりは世話係にも餌にも水にも応じることなく、最長2日の間にSCP-2872は凄まじい速度まで加速を続け、ついには進路上の柵や壁を体当たりでぶっ壊せる速度にまで達する。だんだん雲行きが怪しくなってきた。

その速度たるや秒速320m。

進路上に人や車や建物があろうと関係なく、ほぼ音速を保ち続けたまま数百kmに及ぶ距離を楕円を描くように爆走し続けるようになるのだ。
しかもこの状態になるとSCP-2872自身の疲労や損傷による停止も望めない。




こんなのどうすりゃいいんだよ…………と思うが、実はこの状態のSCP-2872でも制止できるワードが存在するのだ。

その呼びかけは、「Whoa, boy!(どうどう、坊や!)

この言葉を聞くと、SCP-2872はその時点から50mほど走ったところでようやく停止する。なんでやねん。

ただし相手はマッハ1で駆け抜けているため、進行ルートを確認しつつタイミングを計算し、かつドップラー効果を考慮した調整をした上で呼びかけなければならないと、地味にめんどくさいのだが。


初期収容に至るまで


SCP-2872は1960年代に財団の目に留まった年のケンタッキーダービーでは2着だった。
どうやらその5年前に優勝してからずっと1着になれなかったらしく、レース終了直後に上記の異常性が発現したらしい。

異常存在のスペシャリストたる財団とはいえ、収容にかなりてこずったようで、この時は州間高速道路が3マイルに渡って破壊される等、3000万ドルにも及ぶ被害出す。

「トップスピードに乗るまで2日間は猶予がある筈じゃ…」と思うかもしれないが、2日というのはあくまでも最長
この時はたまたま調子が良かったのか何なのか、とにかくレース終了から間もなく暴走モードに移行してしまったのだ。

複数回試行した収容手順は全て失敗。最終的に飼い主らしき50代のアフリカ系アメリカ人男性が「どうどう、坊や!」したことによってようやく事態が収まったという。

そう、競走馬である以上、SCP-2872には飼い主が存在していたのだ。


財団職員は直ちにこの男性と接触、SCP-2872の引き渡しに合意を得られたのみならず、例の呼びかけや「5年ルール」についても教えてもらうことができた。
さらに詳しい話を訊こうとしたところ、飼い主は相当な速度で走り去り、その行方を捕捉できないまま現在に至っている。何モンだよこのオッサン。

少なくとも5年に1回、ケンタッキーダービー*3で1着を取れば異常性は発揮されないので、無事に財団の厩舎でお世話収容される運びとなったSCP-2872を如何にレースで勝たせるかに焦点を合わせた収容手順が設定されている。

常駐スタッフによる適切な管理、医療職員による的確な定期診断、更には優秀な騎手を用意して、ケンタッキーダービー優勝へ向けて日々訓練。まさに至れり尽くせり。

この手順が確立されて以降SCP-2872はレースに勝ち続けており、5年ルールによる異常性の発現を見事に防いできている。

最終手段として「どうどう、坊や!」もあるとはいえ、予期せぬ脱走等に備えてかひとまずEuclidとしてオブジェクト登録がなされ、SCP-2872の収容は完了した。





はずだった。



Keterに指定されるまで

2000年代初頭、とある博士によって次のような提言がなされた。

現在の収容プロトコルは、異常性発現の実際的な阻止ではなく、SCP-2872を宥和するためのものでしかないように感じられます ― SCP:ホテルに非ず参照。
このため、SCP-2872を財団の施設へと再配置し、収容プロトコルは異常性の中和へと書き換えられます。- J█████博士、200█年


「SCP:ホテルに非ず」の詳細は不明だが、とにかくこの提言でSCP-2872の収容手順は大幅に変更されてサイト-12の地下50mにある収容室へ移される。

SCP-2872が走行するのに不十分なこの収容面積は、暴走モードに入る前段階に当たる2日以内の助走期間に満足に走れなくさせる狙いがあった。

レースに備えて最高級の養成環境を整える初期手順に結構コストがかかりそうなのは事実で、損傷に対する耐性と音速持久走はトップスピードまで加速完了した段階から発現する。
少なくともあらゆる障害物を破壊するような状態にはならないと思われるが…




そして案の定事件は起きた。


SCP-2872がケンタッキーダービーに勝利した5年後の201█年、SCP-2872は収容室内を走行・歩行できないことに動揺の兆しを見せ始めました。鎮静剤の投与や、以前のフェイルセーフであった「どうどう、坊や!」には効果がありませんでした。
苦痛を見せ始めてから5時間後、SCP-2872は収容室から地上のサイト-12に向けて荒々しく突発し、███名の負傷者と██名の死者を出しました。収容違反後、SCP-2872は脱出速度に達し、こうま座方面への軌道に乗りました。


結果、SCP-2872は財団の収容を離れ、まさかの宇宙へと進出したのだった。
収容手順を変更した博士の処分については不明。
現在は太陽系から10光年離れたところで、推進力を失ったまま旋回し続けているという分析がなされている。






特異性を封じようとしたらまさかのイレギュラーが発現したパターンで、いわゆる「収容できていないからKeter」というタイプのSCiPなのだ。

結果的には藪蛇となったわけだが、最後の事案からSCP-2872は「望むように走行できないこと」も嫌う可能性も浮かび上がるので、万一レースに5年以上負け続けた場合は「どうどう、坊や!」に従っていたかどうかは怪しい。
レースを買収して八百長を図る手もあるが、アメリカ競馬の最高峰を買収するのにかかるコストとどちらが安上がりなのか、そもそも本気ではない試合にSCP-2872が満足するのか等の懸念が残る。

いずれにせよ、今の我々にできることは太陽系の遥か彼方で走り続ける一頭の名馬に思いを馳せることぐらいであろう。


それにしても飼い主のオッサンは一体何者だったのだろうか。


追記・修正はドップラー効果を考慮しながら調整をお願いします。


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最終更新:2023年05月14日 23:11

*1 2:01:00より早く走った馬は近年だと2001年のモナーコス。2:01台に絞るとここ10年で4頭しかいない

*2 ちなみに、旋回癖を持つサイレンススズカは馬房内でひたすら左回りにぐるぐるしていたりした。…もしかしてサイレンススズカはSCPだった可能性が?

*3 3歳馬にしか出走できない特別なレースだから経歴や血統情報のロンダリングが大変そうである…