SCP-654-JP

登録日:2016/09/16 Fri 01:27:59
更新日:2023/11/30 Thu 06:58:37
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「SCP-654-JP-1は周りの風景と合わさって、宇宙にポツンと浮かぶ地球のようだった。……場違いなことを言うかもしれないが、地球の中には地球があるんだと、そう思った」

SCP-654-JP マトリョーシカ



はじめに
SCP-654-JPとは、怪奇創作サイト「SCP Foundation」に登場するオブジェクト (SCiP) の一つ。
項目名は「マトリョーシカ」。
オブジェクトクラスは少々難解なので、まずは概要から。


概要

まず、これは何ですか? という部分から。
基底現実(いわゆる「現在の財団世界」)において、「SCP-654-JP」のアイテムナンバーが割り振られているオブジェクトは、2100年代に突如、財団日本支部に出現した、同じナンバーを持った謎のオブジェクトに関する報告書である。

これは、SCP-654-JP-補足-B、SCP-654-JP-補足-C、破損したデータ、SCP-654-JP-補足-Eの四つの報告書データから成り立っている。内容から、恐らくは基底現実とは別の、同一の世界におけるものと思われているが、内容自体の追記・修正・編集は不可能であった。この特性上、現在の財団職員による追記その他は一切行われていない。
データベース内に存在するのは、これらの報告書の内容をまんま打ち込んだ転載であり、改竄などは一切行われていない。

さて、この時点でもう疑問に思う諸兄も多いだろう。
では、その転載されたデータを、補足-Bから順番に解説していくことにしよう。


補足-B

この報告書におけるオブジェクトクラスは、「Euclides」から「Kether」を経ての「Juggernaut」。
現在の財団で使われているものとは似ているようで異なるため、恐らく基底現実におけるEuclid・Keterに相当するクラスであり、同時にこの報告書は別世界のものであることが読み取れる。

このオブジェクトは、いわゆる場所系SCiPの一つで、日本のとある県のとある市のとある山の中腹に2500年代に建設された、新興宗教の礼拝堂である。正確には、この礼拝堂の中庭の上空の、一定範囲(4mだったのが後に150mに拡大した)に存在する、肉眼で観測した瞬間に認識災害を引き起こす異常空間である。

認識災害の中身だが、大ざっぱにまとめると三段階あり、

  1. 初期:自然界に存在する雲や発生した波浪を罅割れや亀裂、星や月等の天体を穴のように認識。さらに、軽度の高所恐怖症を発症する。
  2. 中期:初期症状に加えて、異常な圧迫感を感じるようになる。インタビューには「だんだん小さくなる」とのコメント。夜間になると天体に向けて手を伸ばし、かき分けるようなしぐさを行う。曝露者は「月や星が出口であり、早く出なければ」とパニックを起こしている。鏡や水面など天体が映っているものが近くにあるとそちらに向かい、中に入ろうとする。
  3. 末期:中期の異常行動はなくなる。その代りに、曝露による影響を他者に伝えて初期症状を広げようとする。ただし、二次感染による症状は初期で止まり、直接暴露しない限り進まない。

となる。要するに、雲や波や天体がひび割れや穴に見え、その「穴」から逃げ出そうと異常な行動を起こし始め、それが出来ないと某ねこですよろしくおねがいします……じゃない、SCP-040-JPよろしく他人にその症状を伝えて感染させようとするのである。

説明自体はここまでだが、Appendix、つまり基底現実における補遺が1つある。
これによると、件の空間は拡大するらしいことが判明している。周辺地域を監視していた職員がうっかり曝露してしまったことで発覚したのだが、財団の研究者である大森博士によれば、拡大現象の発覚前に近くで起きた大きな地震の影響ではないか、とのことだ。



補足-C

オブジェクトクラスはEuclidesからMalchutを経ての、Juggernaut。
経過するクラスが変わっているが、理由は不明。

オブジェクトそのものの概要は補足-Bと同様だが、データが消えている部分が多く全貌を読み取ることは難しい。
しかし、基本的にはやはり補足-Bと変わらないようだ。礼拝堂の建設時期が100年さかのぼって2400年代になっているくらいである。
ただ、プロトコルを見ると、どうやら例の異常空間はこの報告書が書かれた時点で日本全土に広がってしまっているらしい。

そして新たに判明した事実として、例の空間は、位置に関わらず、マグニチュード3以上の地震が起きるたびに拡大し、現在はなんと1800Kmにまで広がってしまい、日本どころか中国からも観測可能になっていた。
ヤバいってレベルじゃない。
しかも、何と礼拝堂以外からの観測でも曝露するようになってしまっており、財団は対処に追われている。

が、報告書の執筆時点で日本人のうち1億人以上が既に曝露してしまっている。ダメだこりゃ。
これについて、財団の研究者である中林博士は何らかの提言を行ったようだが、データが消えてしまっている。
このまま異常空間の拡大が続いた場合、EK-クラス:世界終焉シナリオは避けられないとして、「アンカー計画」なるプロジェクトを実行に移す用意が成されているようだ。

そして、もう一つ。
空間が半径1500kmを超えたところで、とある沖合にSCP-654-JP-1と分類される、半径1000Km以上の青い球体が出現した。
この球体は自身を中心とした半径10km以内の全てのものを未知の手段で消し去りながら浮上し、現在上空2.3kmで止まっている。

だが、球体が浮上活動を停止した瞬間、上空に長さ約250km・幅約30kmに渡る裂け目が出現。その裂け目の左右に細かい亀裂が発生、現在も範囲が拡大している状態である。
さらに亀裂の他に、SCP-654-JP-1を始点に海面及び「おおぞら」に異常現象が発生、地球上の全海域が宇宙空間のようになってしまったらしい。

財団はこれに対し、SCP-654-JP-1を調査するため機動部隊-や“杞憂”を派遣し、調査に参加したエージェントにインタビューを行っている。


[データ破損]

恐らく、補足-Dであろうここでのオブジェクトクラスは、Euclidを経てのJuggernaut。
礼拝堂の建設時期はさらに100年さかのぼって2300年代になっている。
ここでは既にSCP-654-JP-1が出現し、“杞憂”が調査をしているらしい。
それ以外のデータはまるごとすっ飛んでいるが、辛うじて部隊員であるエージェント・七瀬と財団の研究者である小木博士によるインタビュー記録が残されている。

[データ消失]
小木博士: [ノイズ] それで、[編集済]に出てきたSCP-654-JP-1の様子はどうだったんだ?
エージェント・七瀬: 浮上が停止してから調査に向かったんだが、あれ [ノイズ] だ。SCP-654-JP-1の真上に、大きな裂け目が突然発生した。裂け目は縦に真っ直ぐ伸び、亀裂が左右に細かく拡がった。
小木博士: [ノイズ]
エージェント・七瀬: [ノイズ] ……裂け目を見ていたら、その中に宇宙が見えた。地球の外に宇宙があることは知っているが、普通距離的に見えるわけがないのに、確かに見えた。裂け目の中をみていると、そこに青い曲線があった。
小木博士: 曲線?
エージェント・七瀬: どう言って良いのかわからない。ただ、裂け目の向こうに青い線が見えたんだ。最初は目を凝らさなくても見ることが出来たが、時間が経過するごとに細くなっていった。……まるで水溜りに滴が落ちて波紋が広がるように、青い線は遠くに離れていったんだ。
小木博士: [ノイズ] か?
エージェント・七瀬: そうか [ノイズ] い。でも、見間違いじゃない。
小木博士: ……それで、どうなったんだ?
エージェント・七瀬: 青い線が遠ざかるにつれて辺りは夜のように……いや、宇宙のような景色に変化していった。変化したのはおおぞらだけじゃない……SCP-654-JP-1も段々変わっていった。SCP-654-JP-1は最初オーロラのような色をしていたが、海の紺碧と、空の群青を反映したかのように変色していった。
エージェント・七瀬: SCP-654-JP-1は周りの風景と合わさって、宇宙にポツンと浮かぶ地球のようだった。……場違いな事を言うかもしれないが、地球の中には地球があるんだと、そう思った。
小木博士: [ノイズ] しれない。SCP-654-JP-1の発生始点 [ノイズ] の真ん中だった。地球空洞説というのを知っているか? 地球の中核は空っぽで、空白部位に知的生命体や未知の惑星があるのではないかという説だ。
エージェント・七瀬: ……博士、空白部位に今の地球より小さな地球が入っている、ということですか? だとしたら、今起きている現象は一体……。今私達がいる地球も、かつては大きな星の中に入っていたと言うのですか?
小木博士: もしそれが当たりだったら今起きているSCP-654-JPの影響は、地球が破壊され中身が出ている段階……そうだな、卵の殻がおおぞらで、白身が宇宙、黄身が地球……イヤイヤ、バカなことを言った。忘れてくれ。
エージェント・七瀬: お疲れですか?
小木博士: ちょっと疲れているが何ともない。そう言うきみこそ大丈夫か? 目に何かが入ったと聞いたが。
エージェント・七瀬: 大丈夫です。上を見ていたら、おおぞらの破片が入っただけ……[ノイズ]



エージェントも博士も半信半疑状態だが、この時点で既に答えは出ていた。



補足-E

ここでのオブジェクトクラスは「Eukleides」……だが、「Juggernaut」の文字が白塗りで隠されている。
こちらでは件の異常現象は起きておらず、SCP-654-JPのナンバーは、本来財団がこのナンバーを振ったオブジェクトの報告書を登録した途端、上書きされる形で出現した上記三つの報告書に与えられている。

プロトコルはこれらの報告書と、元々のオブジェクトについて調査することになっている。また、この時点では礼拝堂上空に変化は起きていないらしい。

このデータベースは一切の改変を拒否するが、アクセスそのものは可能であった。
なお、データの中身はA、B、C、[データ破損](間違いなくDだろうが)、E、Fの六文字で形成されている。が、何と一文字につき2GBというとんでもない容量を持っており、さらにあらゆる電子機器に補足-B、C、[データ破損]という形で表示されるという特性がある。

別世界の財団が何らかの形で飛ばしてきた情報だと考えられているが、認識障害の疑いも捨てきれない、として調査が進められている。
なお、礼拝堂でDクラスを用いて実験を行ったところ、何も起きなかった。しかし、当日は曇天だったにも関わらず礼拝堂中庭の上空は快晴であったため、Anomalousアイテムに分類して警備を配置。

さらに改変されたデータをもとに沖合を捜索したところ、SCP-654-JP-1らしきどデカい球体が海底に発見された。
これについて、財団の研究者である梨枝博士が研究レポートをまとめている。



梨枝博士によるネタバレ

さて、難解極まるこのオブジェクトだが、実は梨枝博士の報告書という形で、筆者によるネタバレへのリンクが貼られている。
それによれば、このオブジェクトは地球空洞説の中でも、人類の居住している地球表面は、実は無限に続く岩塊の中に存在する、泡状の球体の内部であり、太陽や月や星は、空間内部に浮かぶ雲のようなものである、という「凹面地球説」に基づいたものである。

一体何が起きているのか? それは、このカノンにおける財団世界そのものの構造に関わってくる。
簡単に言うと、この世界は[データ破損]におけるエージェント・七瀬と小木博士の推測通り、何層も連なるタマゴのような構造になっているのである。
断面図を作るとだいたいこんな感じと思われる。

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⬛︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎A層⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬛︎
⬛︎⬜︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬜︎⬛︎
⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎B層⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎
⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎
⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎C層⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎
⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎
⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎D層⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎
⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎
⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬜︎E層⬜︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎
⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎
⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎F層⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎
⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎
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⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎
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⬛︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬛︎
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

⬜︎の線一本一本が地球、青空、宇宙を内包する岩塊であり、線と線の間に満ちている⬛︎は何もない虚無である。
そして、起きている現象の正体は、地球の崩壊と次の地球の出現である。


解説しよう。
まず何層も重なる地球のうち、A層は一番最初の地球であるが、外側には何も存在していない。そしてこの地球においては、他の世界は存在しないと考えられていた。

この、「前の層」が崩壊し始め、中に入っている次の層が表に出てくる。これを本能的に察した人々は、何とかこの破滅的な状態から逃れようと暴れ始める。これが、例の認識災害とSCP-654-JP-1の正体である。
エージェント・七瀬の見た「遠ざかる青い線」は、宇宙空間に取り残されたこの世界の空であり、遠ざかったある。

そして、次の層の出現と共に、崩壊しきった前の層は消滅。その層もいずれ崩壊し、また空だけを取り残して次の層が現れ……と、繰り返されているのだ。
補足-Cで言及されている「アンカー計画」とは、この現象に関するデータを次の地球に送るプロジェクトである。補足-A、つまりA層の世界の情報がないのは、前述した通りA層では他に世界がないと考えられていたため、計画自体が立ち上がらなかったからである。

補足-Eのあのアルファベットはそれぞれ、Aから順に最初の地球、二度目の地球、三度目の地球、四度目の地球、五度目の地球(報告書の時点での現在)、現在の地球(基底現実)を示している。
礼拝堂が建設された時期がどんどん前倒しされているのは、地球が最初と比べて小さくなることにより、破滅の周期がどんどん短くなっているからである。

さらに、SCP-654-JP-1とされる球体は、要するに次の層、次の地球なのだが、F層、つまり基底現実の地球にはこれが存在しない。

地球のサイズがだんだん小さくなっている、というのは実は、世界をまたいだ同一存在である博士たちの名前にも反映されている。
A層から順に、樹海(いづみ)博士、大森博士、中林博士、小木(こぼく)博士、梨枝博士、芽吹博士、となる。
樹海→森→林→木→枝→芽、とどんどん小さくなっている。これは恐らく「表に出ている大きさ」で表現されているのだが、流れ的に次の縮小が起きるとすると、芽の前は種、つまり地面の下=表に出ている部分がなくなる=地球がなくなる。

そして、F層、基底現実、現在の財団世界で破壊が止まる保障など、どこにもない。F層より下の地球は、存在しない。


で、結論を言ってしまうと、財団はこれに対して打てる手段は何もない。
なぜならこれは、自然発生するEK-クラス:世界終焉シナリオであり、地球そのものがそのように、自然に縮小するように出来ている以上、決して防ぐことが出来ないからである。
そして、その時は2100年代とわかっている。


かつて犠牲となった外殻の財団が最後に付けたクラスはJuggernaut、その意味は「絶対的な力」、「人を犠牲とするもの」
・・・そして「不可抗力的なもの。」


杞の国の人、土一枚の下は虚、空は書き割り、何れは壊れる物やも知れぬと憂いたり。
しかして、それは真に“杞憂”なりや?
世界が世界を内包し、外の世界の崩壊により内なる世界が表れる。
その有様はまさに、



SCP-654-JP


マトリョーシカ


と言えるだろう。


余談

  • 実はこのオブジェクト、元々はSCP-001-JP用に考案されていた。だが筆者曰く、「たくさんあるSCP-001より、たった一つの番号が欲しい」と考えて654-JPのナンバーを振ったらしい。ちなみにこのナンバー、アルファベットの数と合わせている(6・5・4・3・2・1でF~A)。

  • 「アンカー計画」の元ネタはラト・ヤートラーの「荷車の行進」における、ヒンドゥーの狂信者が救いを求めて谷に身を投げた、という記述から。つまり、下の世界に報告書をまとめて投げたということである。そしてなぜ「アンカー」なのかというと、何と碇シンジが元ネタ。劇場版エヴァにおいて初号機が量産機によって空中にあげられた際、生命の樹の陣が浮かんだシーンにあやかっているとか。

  • 各世界のオブジェクトクラスの変化を纏めると、
B層…Euclides→Kether→Juggernaut
C層…Euclides→Malchut→Juggernaut
D層…Euclid→Juggernaut
E層…Eukleides→Juggernaut(白塗り)
となっている。
BとCでの変化は2回だが、DとEでは1回に減少している。著者のto2to2氏によると、これは「オブジェクトの脅威が、ループによって学習されているから」のようだ。
なお、氏はF層における654-JPのオブジェクトクラスについて、「姿を見せた時点でいきなり、Juggernautだろう」と述べている。

追記・修正は杞憂しながらお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-654-JP - マトリョーシカ
by to2to2
http://ja.scp-wiki.net/scp-654-jp

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最終更新:2023年11月30日 06:58