カッタ君物語

登録日:2016/08/25 (木) 01:07:00
更新日:2023/03/08 Wed 09:31:08
所要時間:約 10 分で読めます




カッタ君物語とは、山口県宇部市を舞台に、実在のペリカン「カッタ君」をテーマとして作成されたアニメーション映画である。
制作には宇部市も関わっており、自治体の公式作品であることをまずは念頭に置いておこう。

基本的には典型的な「ご当地アニメ」であり、ほのぼのした雰囲気の中に「動物と人間の共存」というテーマを織り込んだ真面目なアニメである。



……はずなのだが、中盤における超展開により、今に至るまで伝説的カルト映画として語り継がれている。


カッタ君とは?


今となっては知らない人も多いだろうが、カッタ君は1990年代前半に社会的に大きな話題を集めたオスのモモイロペリカン。
山口県宇部市のときわ公園で、1985年7月15日、国内初の人工孵化ペリカンとして生まれた。
名前はモモイロペリカンの本来の生息地であるインドのカルカッタから。なお、後にカルカッタの日本語表記が「コルカタ」に変更されたため、時期が20年くらい違ったらカタ君だったかも知れない。

人工孵化で生まれたためか非常に人懐っこく、特に近隣の某保育園に定期的に飛来して幼児らと楽しそうにお遊戯する姿が全国的に話題になった。

2008年7月16日に死去。享年23(人間で言えばおよそ40歳)。
現在でも地元では深く愛されている。
鳥類と人間の間にも絆が生まれることを知らしめてくれたその功績は計り知れない。





以下、本編のネタバレにご注意ください

































あらすじ


映画はというと、ときわ公園で働く柴田さん(実在の人物)の尽力によってカッタ君が誕生したところから始まる。
序盤はカッタ君の生い立ちを実話に即して描いており、なるほど真面目な教育アニメだと思わせる。


が、カッタ君の初飛行を大声で応援する翔君(おそらく架空の人物)という少年が登場した辺りから何かがおかしくなる


翔君はまだ幼稚園にも通っていない*1幼い少年であるが、彼の両親は会社の都合でアラビアに赴任することになり、翔君はおばあちゃんの家に預けられることになる。
園児未満の子供を一人残して揃って海外に行く夫婦というのも珍しい気がするが(普通子供も連れて行くか、どちらかが子供と一緒に残るだろう)。

生来動物好きで犬や猫も好きだった翔君は、寂しさを埋め合わせるようにカッタ君を溺愛するようになり、カッタ君のほうも翔君に大いになつく。

ある日、周囲が薄暗くなるまでカッタ君と遊んでいた翔君は、その帰路でカッタ君からのテレパシーらしきなにかをキャッチする。
(ここのシーンの演出が本当に大げさ)
急ぎカッタ君の所に駆け戻ると、カッタ君は多数の猫に囲まれていた。

翔君は、落ちていた木の枝も駆使して猫どもをどつきまわして打ちのめす。
元と学会会長の山本弘氏曰く、「ペリカンはかわいがるけど猫は虐待していいんかい」
てか翔君猫も大好きだったって言ってたじゃん。

そして猫をぶちのめした後の翔君のセリフ
「駄目じゃないか、こんな時間まで一人で出歩いて!!」

いや、じゃあ自分はどうなんだ


そして次のシーンでは突如2年後まで話が飛ぶ(この展開が本当に唐突なので初見だとかなり面食らう)。
翔君は幼稚園に入園したため、以前ほどは公園に来なくなった。
寂しくなったカッタ君は、はるばる翔君を探して町を飛び回り、翔君の幼稚園までやってくる。
(リアル世界では謎としか言いようがなかった「なぜカッタ君は幼稚園に通うようになったのか」という問題に、
一応納得のいく理由を提示しているのは評価すべきであろう)

翔君の通う幼稚園に通うようになったカッタ君は、お遊戯に参加したり(史実)、すっかり人間生活に溶け込む。
柴田さん曰く、「カッタ君は自分を人間だと思い込んでいる」。

運動会の日には、「ご家族の方と参加」するルールである二人三脚に翔君と共に参加
いや、いくら何でも……

まあ、あくまで作中ではカッタ君は「翔君のかけがえのない友人であり、人語も解する賢いペリカン」と描かれており、
考えてみればご高齢のおばあちゃんを出場させるよりは妥当な人選(鳥選)だとは言える(作中設定的には)。

色々書いたが、ここまでは「実話を元に膨らませたご当地アニメ」として見れば、多少強引ではあってもまだ許容範囲だといえる。
そう、ここまでは



以降、さらなるネタバレにご注意ください






























運動会のシーンの直後、突如中東戦争が勃発
この展開は本当に唐突なので、初見では面食らうこと請け合い。
なお作中では中東戦争としか言われないが、時代背景やこの後の描写からして明らかに湾岸戦争のことである。

アラビアに赴任していた翔君の両親は安否不明になり、翔君の家には取材班が押し掛ける。
翔君はおばあちゃんの目を盗んでカッタ君に会いに行く。
自分をアラビアまで連れて行ってくれと頼むために
なんだこの展開。

翔君はカッタ君に必死に訴える。
「僕、宇部の空港まで行ったんだ、でもアラビア行きの飛行機は飛んでないって!! だから港に行ったけど、子供だけじゃ船に乗せてくれないって!!」

いや、翔君幼稚園児だよね??*2
なんだその脚力。


だが、こんなのは軽いジャブであった。
翔君の願いを聞いたカッタ君は、満月に向かって翼を広げて叫び声を上げる。
次の瞬間、月からやたら太いビームが発射され、カッタ君と翔君を包み込む。

次の瞬間、なぜかカッタ君は数倍の大きさに巨大化しており、翔君を背中に乗せて飛び立った

そして、
翔君「カッタ君、喋れたの!?」
カッタ君「なぜか喋れるようになったみたい」

いや、そこなんか理由付けとかないんかい
ちなみに最後まで見ても、カッタ君が喋れるようになった理由とかさっきのビームの正体とかは全く不明である。


そんなこんなで、アラビアの砂漠までやってきたカッタ君と翔君。
そこで無事翔君の両親と再会する。
なんで民間人であろう翔君のご両親が日の丸の旗を掲げた戦車に乗ってるのかとか、戦場のど真ん中に巨大ペリカンに乗った息子がやってきたっていうのに両親の反応軽過ぎね??とか、
そんなことはもう些細な問題である。

家族の再会を見届けたカッタ君は、ここに来るまでに見た戦争難民たちの惨状を思い出し、「難民たちを助けに行く」と宣言。
翔君も「僕も連れて行って」と頼む。
それを見たお父さんは、彼らに集合場所だけ教えて息子たちを見送った
お父さん、この色んな意味での非常事態に他に言うことは無いのか。


そして難民たちを救うために翔君を背負って飛び立ったカッタ君であったが、翼に流れ弾を受けて海に不時着。
そこを野生のペリカンたちに救助され、野生ペリカンの集落に導かれる。
その集落に翼の傷が治るまで(って何日だろう)滞在し、メスペリカンのペリーナと恋愛フラグを立てる。
しかしいつまでもこうしているわけにはいかず、ペリーナの父のペリカンの長老(なんなんだそれは)に、「難民を助けるために力を貸してほしい」と頼む。

人間に散々な目に遭わされてきた長老はすげなく断るが、カッタ君は長老に訴える。


「僕は人間に育てられました。僕にとって、人間はみんな友達なんです!!」

...上記のセリフはよく覚えておくように。


長老もカッタ君の必死の懇願を聞いて心を動かす。
曰く、「満月の夜に皆で願えばとてつもない力が出る、という言い伝えがある」

その言い伝え通りに、満月の夜に長老を中心にみんなで満月に向かって叫ぶペリカンたち。



その時、不思議なことが起こった。



カッタ君を中心にペリカンたちが融合合体し、超巨大ペリカンになったのだ

上に載っている翔君の身長から比較したら、ざっと翼開長50メートルくらいだろうか。

そしてこの超巨大ペリカンが戦場に向かう。




翼で風を起こし、敵の戦車をなぎ倒し


口からビームを吐いて、敵の装備を焼き尽くし


突進によって、敵の兵士をけちらしながら。



……うん、色々と言いたいことはおありだろうが、どれも本当にあるシーンなのである。
教育アニメで。

というかどう見ても敵側の兵士は無事では済んでいないのだが、「人間はみんな友達」とはなんだったのか。



その後、その背中に難民たちを載せて救出したカッタ君は、ペリーナとのフラグをぽっきり折って翔君と共に日本に帰還する。
翌朝、ときわ公園で眠っているところを柴田さんたちに発見されるカッタ君と翔君。

「なるほど、夢オチか」と誰もが思うだろう。

が、テレビでは「巨大なペリカンが難民たちを救助したという目撃報告が多数挙がっている」と報道されていた。
どうやら夢オチではなかったらしい




余りの超展開にぽかーんとするしか無いが、この映画においてこの戦闘パートはあくまで中盤の盛り上げどころに過ぎず、まだまだ物語は続く。
しかし、この後はアラビア編以前の日常パートに戻ってしまうため、違和感は半端ない。

アラビア決戦もいい思い出となったある日、いつものように翔君の幼稚園にやってきたカッタ君は、鏡に映った自身の姿に驚愕する。
そこにいたのは翔君のような人間ではなく、まぎれもないペリカンの姿。
自分のことを人間だと思い込んでいたカッタ君は深い衝撃を受ける……



……いや、ちょっと待て。
アンタ、アラビア編でペリカン族の一員の立場として長老に話してたやろ



真面目に見れば、人間と深く関わり過ぎて生きてきた野生動物が本来の自分のあるべき姿を思い出すという、重いシーンである。
アラビア編がなければな。

その後、カッタ君を迎えに来た柴田さんのセリフも胸を打つ。
「カッタは、人間に育てられたから、恋の仕方も巣の作り方も知らないんだよ」
いつかは来るとわかっていた「その時」を、視聴者に認識させる深いセリフである。
アラビア編が(ry


その後、カッタ君は無事ペリカンのお嫁さんをもらい、今度は両親とともに引っ越すことになった翔君と別れを交わすシーンでラストとなる。









まあいろいろ書いたが、作画は乱れないし、戦闘シーンは結構迫力があるし、「人間と動物の関わり」というテーマも真正面から書いているし、決して見どころがないアニメではない。
問題は、それらの要素が水と油どころではないレベルでかみ合っていないということである。
もっともそのおかげで、本作はこの手のアニメでは珍しく今に至るまで語り継がれる伝説的カルトアニメになったのであるが。


余談


  • キャストはカッタ君役がクレヨンしんちゃんのボーちゃんや妖怪ウォッチのカンチでお馴染みの佐藤智恵、翔君役は成長後もハイキュー!!の田中龍之介役などで活躍中の林勇、
    そしてペリーナが西村知美、ペリカンの長老が大滝秀治とやたら豪華。

  • テロップによると、全国市長会、日本鳥類保護連盟、日本動物園水族館協会、全国子ども会連合会、全国保育協議会、山口県観光協会、山口県町村会、山口県市長会、河川整備基金が推薦している。
    だが内容がこの通りであるため、「本当に見た上で推薦したのか」などと言われる始末。というか試写会はどんな空気だったのだろうか……


  • なお、製作費1億円は全額市民からの寄付だったという。


  • カッタ君は2001年7~9月山口県きらら浜で開催された「山口きらら博」宇部市館の絵コンテ:破李拳竜、特技監督川北紘一のアトラクション『スペースカッタ2001未来の種子』でも、西村知美演じるかぐや姫により、花咲かじいさん、一休さんと共に破李拳竜演じる超星神グランセイザーのトロイアス似の暗黒魔王と戦う戦士として選ばれ、最終的にかぐや姫の祈りで花咲かじいさんと一休さんと合体して火の鳥となっての体当たりで暗黒魔王を倒している。



追記・修正は巨大ペリカンを召喚してからお願いします。


この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • カッタ君物語
  • ペリカン
  • カッタ君
  • モモイロペリカン
  • 山口県
  • 宇部市
  • ツッコミどころ満載
  • カオスアニメ
  • ペリカン砲
  • 英霊カッタ君(アーチャー)
  • 実在の動物
  • ご当地アニメ
  • 劇場版アニメ

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年03月08日 09:31

*1 90年代前半の話なので、待機児童ということはあるまい

*2 翔君がときわ公園近辺に住んでいると仮定して、宇部の空港までは約3km。港がどこかはわからないが最寄りの坊府市三田尻港まででも48kmある。車でも1時間はかかる