秋田八幡平クマ牧場事件

登録日:2016/07/15 (金) 11:08:15
更新日:2024/02/05 Mon 14:12:52
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※この項目では実際に起こった凄惨な獣害事件を明記しています。閲覧には注意してください。


2012年4月20日、秋田県鹿角市の八幡平クマ牧場で発生したヒグマによる襲撃事件。
飼育員2名が死亡し、国内に於けるクマ牧場での獣害事件としては最大被害となった。
原因は人災であり、適切な対応が取られていればこれらの被害は発生しなかったであろう。


【背景】

4月20日の午前8時頃、冬期閉鎖中の八幡平クマ牧場では、春の営業再開に向けて、3名の従業員が作業中だった。
男性従業員は除雪作業を行い、女性従業員は餌場に餌を置き、クマを運動場に放つべく冬眠房を開放していた。

運動場は地下に掘られる形で高さ4.5メートルのコンクリートで囲まれた構造になっている。
この時、2日前の除雪作業で雪を運動場へと投棄していたために、壁際の一角には雪山ができていたが、その事態に従業員達は気付いていなかった。


【脱走】

午前9時頃、運動場に放たれたヒグマの内の6頭が、高く積み上がった雪山を利用して堀外へと脱走。
餌場で作業中だった女性従業員・館花タケさん(75歳)はヒグマの脱走に気付き、急いで外通路に飛び出し、
「クマが逃げ出した!」と、付近で雪を水で洗い落とす作業をしていた男性従業員に叫び知らせた。

男性従業員は、タケさんの叫び声に気付き、瞬時に事態を把握したが、その叫び声に気付いたのは男性従業員だけではなかった。
男性従業員が目を向けた先では、逃げ走るタケさんにヒグマが襲いかかり、噛み付いていた。
また、奥通路で作業中のはずである、もう一名の女性従業員・館花タチさん(69歳)からは何の応答も無く、最悪の事態も想定された。

男性従業員は、急いでクマ牧場経営者に電話連絡し、その足で近隣の鹿角市猟友会会員の青澤さん宅にも事態を知らせに向かった。


【射殺】

午前10時頃、牧場経営者から緊急要請を受けた警察、及び救急隊が牧場出入口に到着。
暫く後、男性従業員と青澤さんも現地に到着。
国道側から牧場を見下ろせるため、青澤さんが上に上がってみると、牧場内での凄惨な光景が目に飛び込んできた。
タケさんなのか、タチさんなのが判別が付かないが、横たわっている人物がおり、更に2頭のヒグマがその人物を餌でも奪い合うかのように引っ張りあっていたのだ。
青澤さんは警察からの緊急召集要請が猟友会に掛けられる事を予測し、自宅に戻って銃器の準備に取り掛かった。
その後、まもなく警察隊は自分達だけでは手に負えないと判断し、猟友会に緊急救助要請を発令し、関連施設に於けるヒグマの射殺許可要請を発令する事となった。

午前11時半頃、猟友会のツキノワグマ撃ちの名人・斉藤良悦さん(57歳)も要請を受け、現地に到着。
正午頃には、射殺許可も発令され、斉藤さんを含む猟友会の会員は、次々とヒグマを射殺していく事になる。

1頭目は、脱走原因になったとされる雪山近くの外通路におり、体長は約1.5メートル、体重は約250キロ程の大きさだった。
ヒグマを撃った経験が無かっただけに不安な部分もあったが、見事に頭部を撃ち抜き、射殺した。

最初に発見したヒグマを射殺後、「こっちにもいるぞ!」との猟友会の他会員の声を耳にし、声元の方に移動すると、
1頭目よりも明らかに大きく、体長約2メートル、体重約300キロ近くと見られるヒグマが2頭いたので、付近の手摺で銃身を支えながら銃弾を放ち、その片方の射殺に成功する。

すると、もう片方のヒグマが突如立ち上り、仁王立ちの態勢で威嚇してきた。
急いて斉藤さんは弾を装弾し、頭部を一撃の下、3頭目の射殺の成功。

餌場付近に4頭目のヒグマが彷徨いている事を確認し、目眩などが発生するリスクを考慮し、合図と共に、数人が一拍置きに銃弾をヒグマの体に浴びせて射殺。

その後、5頭目のヒグマも発見したので、4頭目を射殺した時と同じく、合図と共に一拍置きに銃弾を浴びせたが、
ヒグマはくるりと後ろを向き、近くの餌場内にもう1匹のヒグマと共に隠れた。
そこで、斉藤さん含め皆で餌場を包囲したが、ヒグマが出て来ない為、斉藤さんがショベルカーに乗込み、
餌場のトタンの外壁を強引に剥がして中の様子を確認すると、5頭目のヒグマは既に絶命していた。

その亡骸の近くに、6頭目のヒグマがおり、斉藤さんとの距離は5メートル程だった。
ヒグマは斉藤さん目掛けて、飛び掛かろうとする仕草を見せたが、斉藤さんが目を見開き睨み付けると、後ずさりを始めたので、
直ぐに飛び掛かっては来ないと判断し、斉藤さんは急いでショベルカーに乗込み、半身を車外から出す姿勢でライフルの照準をヒグマの頭部に定め一撃で射殺。
脱走した6頭全てを射殺した頃には、午後4時近くとなっていた。


【被害と解剖】

襲われた2名の女性従業員は既に絶命しており、亡骸は病院に搬送された。
射殺されたヒグマらは22日に解体解剖され、胃内からは握り拳程度のくすんだ赤色の肉片、毛髪、捲れた皮膚、胃液で黄色に変色したタイツなどが発見された。


【原因】

運動場に除雪した雪をそのまま投棄した事が原因と判断された。
また、クマ牧場は経営難で施設の老朽化が目立っていた点を以前から問題視されていた事も後に分かった。


【結果】

クマ牧場の経営者と除雪を担当していた従業員1名がオリなどの安全管理を怠ったとして、業務上過失致死容疑で6月9日に逮捕され、罰金50万の略式命令が下された。
このクマ牧場は赤字経営となっており、もともと2012年秋には廃園する予定であったが、死亡事故に伴い休園、そのまま6月に閉鎖された。閉鎖に伴い行政処分は見送られた。


【その後】

閉園に伴い、残された27頭のクマ達は、与える餌の量を減らして熊同士の抗争による自然淘汰で個体数を減らし、最終的には餓死させる計画であった。*1
しかし、観光に影響する事を嫌った秋田県は、県主導による殺処分決定を引き伸ばした。
その後、日本熊森協会、地球生物会議ALIVEなどからの支援金及び支援物資があり、県から非常勤職員も派遣され、クマの飼育を続けることになった。

現在は、北秋田市立阿仁クマ牧場「くまくま園」で終生保護飼育されている。
動物福祉に配慮して繁殖は一切行われていないが、同じ理由で去勢手術も行われていない。

2014年7月19日にオープンした「くまくま園」であるが、1年目は黒字経営だった。
入場料は大人700円、中学生以下300円。


【余談】

クマ牧場の観光客のみでの黒字経営はなかなか難しく、熊肉や熊の胆(くまのい)目当ての運営も世間には多い。



追記・修正の前に、除雪は正しく行いましょう。

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最終更新:2024年02月05日 14:12

*1 海外の13の動物愛護団体の要望書には「クマの引き受け先はできるだけクマが自然な状態で生活できるような施設にし、継続的にクマのケアを行うことなどを求め、それができない場合は安楽死させることを検討するべきだ」と訴えている。