肉食屋敷

登録日:2016/07/12 (火) 09:07:25
更新日:2023/09/08 Fri 21:25:05
所要時間:約 4 分で読めます






概要

『肉食屋敷』とは角川ホラー文庫から出版されている短編小説集、およびそれに収録されている表題作の事。
初出は『S-Fマガジン1998年9月号』
著者は『酔歩する男』『海を見る人』『キャッシュ』『AΩ 超空想科学怪奇譚』『ウルトラマンF』『停留所まで』等で有名な小林泰三

同時収録作品に『ジャンク』『妻への3通の告白』『獣の記憶』がある。

元々は『脈打つ壁』というタイトルだったそうだが改題された。

本作は編集部から『怪獣』をテーマに執筆依頼されており、子供の頃怯えながらも見ていたドラマの前半15分をイメージして執筆されている。
これは後半15分の解決編は取って付けたような感じがするかららしい。


『第10回S-Fマガジン読者賞第4位』
『第30回星雲賞日本短編部門候補』
『第1回 SF オンライン賞 SF 中短篇部門第3位』……等に選ばれている。


あらすじ

環境課に勤める主人公の元に地元の人から相談が来る。
その内容は、山の頂上付近に二台のトラックが止まっており、その荷台にはドラム缶が積んでいた。
現在は何もないが、放置されているので、その内腐敗して中身が漏れ出すと危険なので対処して欲しいというものだ。

トラックと山の持ち主を調べると、どうやら研究所に閉じこもって研究しており、現在音信不通だった。

仕方なしに直接出向くと、研究所と言うには不気味な建物がそこにあった。
インターホンが耳と口で構成されており、ドアノブは人の手だ。

気が滅入りながら家にお邪魔すると、そこには一人の男が大きな机の向こう側に座っていた。
男は言うドラム缶の中には一つはアルカリ性廃液……これは青いトラック、そして赤いトラックには有機溶剤だと。

そして男は言う――「赤いトラックに火をつけて研究所に向けて放ち、その後青いトラックを同じようにしろ」……と。


登場人物

  • 主人公
都会に合わず田舎の生活を選んだ男。
村役場の環境課に勤めており、日頃は不法投棄されたゴミの処分や苦情に対処しており、
今回もその延長だと考えていたが……。

  • 小戸
田舎の大地主の家系に生まれ、先代が残した製薬会社の社長をしている。
昔見たジュラシック・パークに憧れを持っており、自分も恐竜を復元したいと思っている。
そのため現在は経営権を他人に任せ、故郷に『小戸生命科学研究所』を作って、利益に結びつかない個人的な研究をしている。
しかし最近音信不通になっていて……。

用語

  • 恐竜の復元
化石は恐竜の骨そのものだと思っている人もいるが、
あれは骨の成分が鉱物と入れ替わる事で骨の形が残っているのである。
それ故細胞を採取することは難しいし、仮に採取しても細胞を取り込む近縁種がいない。

そこで小戸は化石や琥珀に拘るのを止め、化石がある地層に注目した。
恐竜の絶滅は一説にはイリジウムが含まれる隕石によって引き起こされたという。
実際イリジウムが含まれる地層以後の地層に恐竜の化石は存在しない。
そして絶滅した瞬間こそ、地球上に恐竜の死骸が一番多かった時期であり、その死骸が腐敗して地面に吸収されたに違いない。

正直化石からDNAを採取するより難しい事だが、小戸は我慢強く作業をする事でとあるDNAを採取する。
それは4種類のヌクレオチドからなる二重螺旋を形成していた。しかし奇妙なことにイリジウム原子がDNAに含まれていた。
しかし採取された場所がイリジウムを含んだ地表、時間の中で置換されていても不思議ではなく、存在を無視する事にした。

しかしコンピュータでDNAの欠けている所を補完しようとしたが、それでも70パーセントしか復元出来なかった。
残りを現存の生物から使うことを決める。
実は人と魚の遺伝子は65パーセントも共通なので、「たいていの生物は恐竜と一緒なのでは?」と考えたのだ。

小戸が上記のDNAから復活させた生命体。
軟体動物のようにぐにゃぐにゃの体で、人の手や鳥の翼のような無数の肢が生えていた。
口は目とは無関係の複数の個所に存在し、肉食らしく鋭い牙がある。
適応能力が半端ではなく、生れた直後から-40度や100度の環境に耐え、
周囲の成分や圧力に影響を受けず、真空ですら動けなくなる程度で済む。
それでも有機生命体なので細胞が破壊されているのを確認出来るが、裏返せばその程度のダメージなのだ。

夜行性であり成長速度も速く、痛覚というのも存在しない。
外骨格も内骨格も存在しないが、実はイリジウムを元に骨格を形成しているはずの生物であり、
復元の際にそれを与えなかったため骨格がなくなっていた。
そのため成長の途中で……。



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最終更新:2023年09月08日 21:25