ジョーカー・ゲーム(柳広司の小説)

登録日:2016/06/18 Sat 00:38:39
更新日:2024/01/03 Wed 23:08:34
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ジョーカー・ゲームとは、柳広司による日本の小説作品で、著者の代表作とでも言うべき作品。
D機関シリーズ』の第一作でもあり、本項ではそれらも含めた作品群を取り扱う。
西村京太郎にも『D機関情報』というスパイ小説があるがおそらく関係はない。

2007年に角川書店の雑誌「野生時代」にて、小説第1巻の表題作でもある短編「ジョーカー・ゲーム」が掲載される。
その後、同誌掲載の『ロビンソン』と、書下ろし3篇を含めた単行本が、シリーズ第1巻『ジョーカー・ゲーム』として2008年に発売された。
結果、著者の作品群でも屈指の人気を博する結果となり、以降も雑誌掲載と単行本書下ろしの両方の形で新作が執筆され、
2009年に第2巻『ダブル・ジョーカー』、2012年に第3巻『パラダイス・ロスト』、2015年に第4巻『ラスト・ワルツ』が
D機関シリーズの枠組みで刊行されている。

2009年には漫画、2015年には実写映画、2016年にはTVアニメの媒体でそれぞれメディアミックス展開がなされた。
映画版はいくつかの短編をまとめて長編に作り直してあるが、ツッコミどころも多め。
アニメ版はおおむね忠実な展開だがアレンジの加わった話も目立つ。またD機関の諜報員は8人のみになっている。
区別のつきにくいキャラデザはスパイらしい隠匿感を出すためである。
実写映画準拠の漫画、アニメ準拠の漫画版もそれぞれ連載された。

概要

物語の舞台は、第二次世界大戦が今まさに勃発せんと国家間の謀略と思惑が渦巻く、昭和10年代の国際社会。
玉砕精神を尊いものと標榜し、諜報活動を卑怯な手段と忌み嫌った当時の日本陸軍中枢部の反対意見を制して設立されたスパイ養成機関「D機関」。
“魔王”の異名を持つ経歴負傷の陸軍将校・結城中佐によって召集された“地方人”による候補生のうち、
厳しい試験を乗り越えた末に晴れてD機関の正式なスパイ第1期生となったのは、僅か12人(アニメでは8人)の男達のみであった。
互いの本名すら知らず、ただ諜報活動に必要な信念と技術だけを習得したスパイ達は、「死ぬな、殺すな」の精神のもと
彼らの理念を忌む陸軍中枢の思惑すら弄ぶかのように、次々と世界各国で手柄を立ててゆく……
というのがD機関シリーズ全体を通しての大まかな粗筋である。

作品の区分としては「スパイ・ミステリー」というべきものであり、所謂007等に代表されるスパイアクションの活劇的な要素は皆無で、
むしろ「WW2前夜の国際社会における諜報活動」という場を背景とし、国際政治や軍部、あるいは個人の思惑で引き起こされる
二転三転した謎解きに比重が置かれている作品でもあり、どちらかといえば「探偵小説」に近い部分があるかもしれない。
シリーズ各話は同一の世界観や情勢を舞台としながらも、それぞれが個別に独立した短編~中編として分かれており
時系列も順不同となっているなど、続き物というよりもオムニバスの作品集といった雰囲気が強い。
基本的にいずれのエピソードもD機関の諜報員が大なり小なり関わるものの、語り手はD機関のメンバーとは限らず
外国のスパイや陸軍の一士官、警察関係者など、各々の視点から事件の裏に秘められた謎を追っていくことも。


主な登場人物

結城中佐以外のD機関メンバーの名はいずれも偽名である。

  • 結城中佐(映:伊勢谷友介、アニメCV:堀内賢雄)
D機関を設立した初頭の陸軍中佐。単行本表紙はいずれも彼の座姿となっている。
常に自身の表情を顔に出すことの無い冷徹な人物で、周囲からは「魔王」の異名で知られている。
かつては自身も優秀なスパイとして、「魔術師」の暗号名で敵国に潜り込んでいたが、彼を疎んだ陸軍の内通者により情報が漏洩し、
ドイツ軍に捕られの身になってしまうも、奪った手榴弾で片腕を犠牲にしつつ逃亡を図った過去を持つ。
この際の負傷で片腕が義手となっており、現在は右手を白手袋で覆い、片脚を引きずりつつ杖を愛用している。
実は義手なのは手袋をしてない左腕の方で、脚も普通に歩けるなど、平時から味方も含めた「フェイク」を徹底している。
D機関の諜報員全員にとっての上司であり、訳あって活動を止めざるを得なかった者が、ラストで彼の顔を思い浮かべる締めも多い。

  • 三好(映:小出恵介、アニメCV:下野紘)
D機関所のメンバー。『ジョーカー・ゲーム』に登場。
陸軍との連絡係として赴任した佐久間中尉のガチガチな陸軍的思考に対し冷笑的な態度を取っていたが、
ジョン・ゴードンのスパイ嫌疑の一件を経て、実直ながらも自身のヒントに気付いた彼を評価する一面も。

D機関のメンバー。『幽霊(ゴースト)』に登場。
英国総領事アーネスト・グラハムの爆弾テロ関連容疑の真相を探るため、チェス好きの好青年を装って彼に接触を図る。
アニメ版では設定が大きく異なり、D機関に対抗して陸軍が設立した「風機関」の構成員という設定になっている。

D機関のメンバー。『ロビンソン』に登場。
英国で活動しており、情報漏洩の被害を被って英国諜報機関に捕えられ、過酷な拷問を受けるも
ロビンソン・クルーソーをディスりつつ解き明かしたヒントを活動して、内部協力者の手引きにより無事脱出した。

D機関のメンバー。『魔都』に登場。
上海で活動しており、阿片を裏社会に横流しする憲兵大尉を排除するため、事件を追っていた憲兵軍曹を真相のヒントに導いた。

D機関のメンバー。『XX ダブル・クロス』に登場。
結城中佐がスパイの禁忌とする「とらわれること」を克服する事が出来ず、物語ラストでD機関を辞する事に。
大陸の最前線に送られる処分が下されてしまうが、結城からは「死ぬなよ」の言葉を貰った。

D機関のメンバー。『ダブル・ジョーカー』に登場。
白幡樹一郎の書生として活動、「半分朝鮮人」という当時の日本ではあえて不利な経歴を隠れ蓑にし、まんまと「風機関」を出しぬいた。

  • 西村 久志
D機関のメンバー。『蠅の王』に登場。
前線の現地舞台で陸軍二等兵として活動、泳がされながらも下手を打った共産主義者を排除すべく行動を起こす。
慰問に来たプロの漫才コンビからは、舞台を見て「顔だけで笑ってない」ことを見抜かれていた。

  • ガオ
D機関のメンバー。『仏印作戦』に登場。
華僑とインド人の混血を装い、電信係の高林にD機関の名を騙った詐欺師の陰謀を暴かせた。

  • 真木 克彦(アニメ版は三好と同一)
D機関のメンバー。『柩』に登場。
ドイツ国内での諜報活動の成果を引き継ぎした後、列車事故に遭遇。死の間際に、協力者のリストを結城中佐に託せるよう手筈を整えた。

  • 仲根 晋吾
D機関のメンバー。『ブラックバード』に登場。
アメリカで妻子を作りつつ諜報活動していたが、思わぬアクシデントで日本の真珠湾攻撃の情報を知りそびれてしまい、逮捕されてしまう。

D機関のメンバー。『誤算』『シガレット・コード』に登場。
日本人留学生としてフランスで活動、アクシデントで記憶喪失に陥ってしまうも、事前準備のおかげで諜報活動の本文は果たせた。

D機関のメンバー。『暗号名ケルベロス』に登場。
英国諜報機関から離反したルイス・マクラウドを追っており、彼をクロスワード・パズルを吊り餌に引っ掛ける。
最終的にはマクラウドへの復讐を果たしたドイツの諜報員の娘を引き取り、彼もまたD機関を去ってハワイで過ごす事を選んだ。

  • 雪村 幸一
D機関のメンバー。『ワルキューレ』に登場。
日本大使館の防諜体制を整える為にドイツに赴くが、既に取り返しのつかない事態になってることを知ってしまう。
実は日本海軍のスパイ。最後は伊号潜水艦に乗って欧州海路の開拓に参加する。

D機関のメンバー。『アジア・エクスプレス』に登場。
満州特急<あじあ>号にてソ連の秘密諜報機関と対峙し、「情報は集めるよりも使う方が難しい」ということを悟る。


陸軍中尉。『ジョーカー・ゲーム』に登場。
上官の指示の下D機関に出頭。ジョン・ゴードンのスパイ捜査及びD機関/陸軍の軋轢に巻き込まれつつ諜報員たちの能力を目の当たりにする。

  • 風戸 哲正(アニメCV:黒田崇矢)
陸軍中佐。『ダブル・ジョーカー』に登場。
天保銭組たる軍人を重視せず地方人を採用する結城中佐に対抗し、別の陸軍諜報機関「風機関」を設立する。
その理念は「ためらわず殺せ。潔く死ね」であったが…

  • ハワード・マークス(演:リチャード・シェルトン、アニメCV:大塚芳忠)
英国諜報機関中佐。『ロビンソン』に登場。
伊沢を捕らえ、また施設内に脱走対策の罠を仕込むほどのスパイ・マスター。
しかし、すでに組織内に「フライデー」がいたことと伊沢の二重意識には気づかなかった。

ドイツ諜報機関アプヴェーア大佐。『柩』に登場。
かつて「魔術師」の名を持ったスパイを取り逃がし、自身も片目を負傷した。
D機関のスパイ活動の痕跡を発見し、執拗に追跡する。

  • アーロン・プライス(アニメCV:宮本充)
英国のスパイだが在日新聞記者の顔を装う。『追跡』に登場。
結城中佐の過去と思しき人物の記録を追うが、それすらも罠であり自らの情報を奪われる羽目になる。


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最終更新:2024年01月03日 23:08

*1 役名は「嘉藤次郎」。