アレックス・キャゼルヌ

登録日:2016/06/14 (火) 21:54:13
更新日:2024/02/18 Sun 13:27:23
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よくまあ、あんなしょうもないゲームに熱中できるもんだ
……しかし、まあ、笑い声のほうが、泣き声よりずっとましではあるがね




アレックス・キャゼルヌは、『銀河英雄伝説』の登場人物。
物語全編に渡って主人公ヤン・ウェンリーとユリアン・ミンツを支え続けた「史上最強のデスクワーカー」である。
CV:キートン山田(石黒版)、川島得愛(Die Neue These)


略歴


※巻数表記は本編10巻構成のものに準拠※

宇宙暦761年5月1日:自由惑星同盟領にて出生(道浦版コミック)
776~780年頃:同盟軍士官学校に入学、卒業。主に後方勤務を行う
783~787年頃:士官学校に事務次長として赴任。ヤンと出会う
788年(外伝・螺旋迷宮):統合作戦本部参事官として、ヤンにアッシュビー元帥暗殺未遂の調査を命じる。階級は中佐
789年2月25日:オルタンス・ミルベールと結婚
794年(外伝・我が往くは星の大海):第6次イゼルローン要塞攻略戦の後方参謀を務める。階級は准将
796年(本編第1巻):統合作戦本部長シトレ元帥の次席副官を務める。階級は少将
同年10月:帝国領侵攻作戦に後方主任参謀として従軍。責任を取らされたシトレ元帥に連座する形で第14補給基地司令官に左遷される
797年1月16日(2巻):イゼルローン要塞指揮官となったヤンに要塞事務監として召還される
798年3月~5月(3巻):ヤンのハイネセン出立に伴い要塞指揮官代理に。第8次イゼルローン攻防戦ではヤン帰還まで指揮を執る
799年1月~2月(5巻):帝国軍の同盟領侵入に伴い、イゼルローン要塞からの撤退作戦を実施。惑星ハイネセン帰着後に中将に昇進
同年2月~5月:辞令が有耶無耶なのを利用してヤン艦隊司令部に勝手に居座り、バーミリオン星域会戦までの戦いを見届ける
同年6月:辞表を却下され後方勤務本部長代理に就任
同年7月25日(6巻):ヤン一党がハイネセンを脱出することを知り、急遽職を捨てて合流
800年1月(7巻):イゼルローン要塞再奪取作戦。要塞事務監に復帰
同年6月(8巻):ヤンの死に伴い、後継者としてユリアンを推挙。以後、彼をサポートする
801年6月(10巻):シヴァ星域会戦。戦闘後、ハイネセンへ出発するユリアン達を見送る


人物


自由惑星同盟軍の軍人であり、軍官僚。物語登場当初は35歳。
キャリアエリートのテクノオフィサーで、補給や事務関連等、後方勤務を主に担当してきた。
OVA版では金色寄りの茶髪の落ち着いた白人男性として描かれている。
藤崎竜版コミックでは、オレンジ~赤色のつんつん髪を二つに分け、四角い眼鏡をかけている。35歳にしてはかなり若い。
DNTはフジリュー版から髪色が焦茶になって額を隠し、あと丸眼鏡になった感じ。

官僚とかお役人とかのステレオタイプにありがちな「上にへつらい下には強く当たる」とか「何事も前例重視で旧態依然」とか「自己保身に汲々」とかといった面は全く無い、いい意味で全くエリートらしくない好人物。
ただかなりの毒舌家で上司にもオブラートを平気で外して噛みつくため、(無能な)上層部からの受けは悪い。一方で部下や後輩たちへの面倒見は良く、適切な配慮を行うため、彼を慕う者は多い。
特に士官学校で彼の世話になったヤンとダスティ・アッテンボローは全く頭が上がらず、「キャゼルヌ先輩」と慕って奥さんの飯をタカリにいったり、遠慮なく毒舌をぶつけたり、事務仕事をマルナゲしたり、補給面で無理難題を吹っかけたりしている。2人は先輩を強く慕っているのである
ヤンの被保護者のユリアンも、亡くなった自分の部下だった男の息子で、施設からヤンの下に送ったこともあって偉く気に入っており、頻繁に娘婿にしようと画策していた(が、後にカリン嬢が現れたときは流石に諦めたようだ)。

「自分だけはまともだと思い込んでいる軍人が揃う」ヤン艦隊では比較的良識人、すなわち「少し常識はずれな軍人」のポジションに位置する。
平気で同僚達と毒の入った愚痴やジョークを叩きあったり、ヤンが平然と会議中に取り出した酒を平然と横取りして回し飲みする同僚に乗っかったり、
艦隊戦では特にやることがないのに戦艦に同乗したり、フェザーン商人からの軍資金の借金を「借りてしまえばこちらのものだ」と言い切ったりと、いろいろと変わっている。
後輩に階級を抜かれたり、指揮下に入ることになっても気にすることのない、よき兄貴分である。
物語後半でヤン一行がハイネセンを脱出する際、即効で家族に荷物をまとめるよう連絡を取り、さりげなく示された後方勤務本部長の椅子を「ふん!」の一言で蹴飛ばしつつ同盟軍を出奔した点にも、その人の好さが現れている。


『銀英伝』刊行当時は、まだ戦術と戦略の区別もつかない、軍事面で素人なオタク層が多数の時代だった。
アレックス・キャゼルヌは彼らに現代戦の一面――補給や後方支援の重要さを教えた名脇役でもある。


家族


ヤン艦隊では珍しい妻帯者。妻のオルタンス(旧姓ミルベール)との間に姉妹を設けている。

オルタンス・キャゼルヌ


あなたが大きくなったとき、男の人に、わたしはあのことを知ってるわよ、と言っておやりなさい。
みんなかならずぎくりとすることでしょう。これが母さんの予言よ
あのな、おい……
今日の夕食は、チーズ・フォンデュですよ。ガーリック・ブレッドとオニオン・サラダをそえますからね。
お酒はビールとワイン、どちらにします?
……ワインがいい

CV:松尾佳子
銀英伝では珍しい女性の主要登場人物。
気配りが出来て料理もうまく、子育ても過分なく行う、「良妻賢母」を絵にかいたような男の理想とする嫁さん。
ただし、根っこはアレックス以上の弁論スキルを持つ銀英伝最強の毒舌キャラ
そして、ある意味ではヤン以上の、これから先の展開を見通すことが出来る「預言」の力を持っている。
イゼルローンの支配者たるアレックスも彼女には頭が上がらないため、「イゼルローンの白い魔女」の異名で呼ばれる。
彼女の登場場面は決して多くはないが、その度にアレックスを始め、ヤンやフレデリカ、ユリアンら、多くの登場人物の力となり、その行動を支えてきた。


たまにはコニャックの一本もさげてこい。なんだ、女房の好物ばかりもってきおって
「だって、どうせ媚をうるなら、実力者にうったほうが効率的ですからね。料理をつくってくださるのは奥さんでしょう」
視野の狭いやつだ。料理の材料費をだしているのはおれだぞ。表面どう見えても真の権力を握っているのは……
「やはり奥さんでしょ」


シャルロット・フィリス・キャゼルヌ


ごきげんよう、ヤン小父ちゃま。フレデリカお姉ちゃま
「なんで僕は小父ちゃまで、君はお姉ちゃまなんだ」
「あなた私が小母ちゃまとよばれて嬉しいんですか!」


CV:天野由梨
長女。OVA版では金髪の母親似の少女として描かれている。
すくすくと育ったとても良い子で、ユリアンやカリンらにもよく懐いている。

下の娘

次女。OVA版では茶髪の父親似の幼女として描かれている。銀英伝で最も有名な名無しキャラ。
年少なのであまり出番は多くない。父親の負け惜しみをポカンとして聞くシーンが印象的。
以下は田中先生へのインタビューより。

――そういえば、次女の名前などは「シャルロット・フィリスの妹」で終わりましたしね。
田中:「ウルトラの母」や「バカボンのパパ」といい勝負ですね(笑)。
ま、オルタンスさんのほうは読者の要望に応えて名前を出しましたんで、こっちは出してやらない、という(笑)。
――いいんでしょうか(笑)。


能力


アニメや漫画ではどうしても映えないので描写を省かれたり、あるいは「後方にふんぞり返って命令だけをよこす傲慢or臆病な人物」の無能さを引き立てる地位として使われ、その結果ヲタクから軽視されがちになる「後方勤務」「事務処理」である。
実際の軍組織ではこれこそが最大の肝となり、これが出来ない軍は戦う前に負けているといっても過言ではない。

例えば100人の歩兵達に、5日以内に使える武器を配らないといけないとする。
武器はどれを選定するか? 銃とナイフを100づつの在庫を探して、自分のとこになければ他所から借りるか急遽メーカーに発注しなければならない。
それらをどうやって運ぶ? 空輸か陸か海か、そもそも自分でやるか民間に委託するのか。弾はどうする?
届けたとしてどこにどうやって保管する?どこでどうやって100人に受け渡す?
服は?飯は?包帯や薬は?その100人が怪我して後方へ下げるときの補充兵は?
それらを決めた後、調達・管理・輸送・保管・維持にかかる総費用を見積もり決済しなければいけない。
そして、それ以後もメンテナンスパーツや弾薬を安定して供給できるルートを確保できるか?

――素人知恵でもざっとこれくらいの懸念事項が浮かんでくる(もちろん実際にはもっと多い)。そして実際の部隊は1000人以上の規模がザラである。
いささか失礼な極論ではあるが、後方勤務を主体とする事務官、とりわけ複数の事務官を統括し、実際に部隊を動かせる幹部級の事務官は、当人の才覚も必要となってくる分、歩兵やパイロットより遥かに育成が難しいのである。
(別サイトだが、興味がある人はニコニコ大百科の「兵站」のページを覗いてみるといい。発狂したくなること請け合いである


キャゼルヌはこうした兵站マネジメント能力が非常に高い。士官学校時代に書いた組織工学に関する論文が大企業の経営陣に認められてスカウトされかけ、軍から止められたという逸話もある。
イゼルローン要塞事務監という事実上の市長職に就いていた時には、施設、装備、通信、生産、流通という、要塞のハードウェアとソフトウェア両面を有機的に機能させるという大役を見事に果たしていた。1週間ほど急性胃炎で病欠した際には事務全般が前例処理に終始し、「無能!非効率!お役所仕事!」という苦情が殺到したという。
司令官席で茶を飲んだりふんぞり返って昼寝したり読書したりしているヤンの傍で、黙々と事務仕事をするアレックスとフレデリカの姿は一種の名物となっていた。

第7次イゼルローン要塞攻略戦では、ヤンの頼みを受けて、以前に鹵獲した帝国軍艦と帝国軍の軍服200着を3日で調達している(普通に考えたら2週間から1ヶ月はかかる)。
イゼルローン要塞脱出作戦では506万8224人を脱出させるべく、要塞中から輸送艦をかき集めてきたが、500隻程をアッテンボローの囮作戦に勝手に使われて喪失し、責任者のヤンにぶちギレた(OVAだと立案者のアッテンは指令室で吼えるアレックスを見た瞬間回れ右、逃亡)。最後は民間人を軍艦に押し込んで退避させる非常手段をとり、大過なく終了させている。

ヤン艦隊が同盟軍から離反した後も、エル・ファシル革命政府との物資面での仲介を担当し、イゼルローン共和政府樹立後は一国の大臣的な立場として敏腕を振るった。
この頃になると「おい、金がないぞ」と頻繁にヤンの尻を叩き、人気取り(スポンサー集め)のための人身御供(革命政府の英雄)になれと暗に強要していた。

地味な裏方故にどうしても目立たないが、その実『銀英伝』屈指の「内政チート」。
銀英伝世界では戦時中と言うのもあって戦果さえ挙げればホイホイ昇進できるのだが、ほぼ後方勤務だけしかしていないのに33歳で准将まで昇進している辺り、異常とも言える実力が覗える。
恐らく、軍上層部では将来の後方勤務部長候補として本腰を入れて育成する決定が出ていたのだろう。


一方、戦闘指揮官としての技量は経験不足のせいか低い。ヤンに代理をまかされた第8次イゼルローン要塞攻防戦ではほぼ完全に防戦一方だった。
ただ、本人もそれを自覚、現実を直視しておりパトリチェフはヤン提督にすぐ戻ってきてもらわないと、というのを進んで快諾し(本来なら「俺では不安か?」と不機嫌になるのが普通)ムライやメルカッツ提督シェーンコップ
「戦いの専門家」に遠慮なく意見を求め、指揮権を委譲した結果、後にヤン艦隊の来援まで持たせる事に成功し勝利するが、
無論キャゼルヌの防御指針もあった事や、技量が低いなりに彼の柔軟な姿勢があってこその事でもある。
なおヤンの死後も、事務方に偏りすぎている自分はリーダーに相応しくないことを感じていたのか、積極的にユリアンを擁立した。



名言


とんだ贅沢だ。30歳をすぎて独身だなんて、許しがたい反社会的行為だと思わんか
「生涯、独身で社会に貢献した人物はいくらでもいますよ。4、500人リストアップしてみましょうか」
おれは、家庭をもったうえに社会に貢献した人物を、もっと多く知っているよ
ユリアンの昇進祝いとして、オルタンスの料理をご馳走になりにきたヤンとユリアン。
シャルロットに手をひかれるユリアンを見ながら、アレックスとヤンの毒舌劇場が始まる。


ひとつまじめな話をしたいんだがな、ヤン
……ヤン、お前さんは組織人としては保身に無関心すぎる。そいつはこの際、美点ではなくて欠点だぞ
真面目にヤンの身を案ずるアレックス。良き先輩である。


子供は完全な親を見ながら育ったりするものじゃないさ。むしろ、不完全な親を反面教師にして、子供は自主独立の精神を養うんだ。わかるかね、提督閣下
「ずいぶんとひどいことを言われているのはわかりますよ」
言われたくなかったら、どうだ、完全に近づけるため結婚したら?
ユリアンの昇進祝いでは他にもさまざまな毒舌が飛び出すので必見。


浮気するなよ。シャルロットが泣くぞ
フェザーンの高等弁務官事務所へ異動が決まり、イゼルローン要塞の親しい人々に挨拶をするユリアン。
アレックスは笑いながらこう声をかけた。


こいつはおせっかいと承知で言うんだがな、恋愛にかぎらず、人の心のメカニズムは数字じゃとけない。方程式などたちやしないんだ。
お前さんの場合はあこがれですむ段階だから、まあ、きれいな想いというやつで消化される。
ところがもっと深刻になると、ひとつのものにたいする愛情が、ほかのものへの愛情も尊敬も失わせてしまう。
善悪の問題じゃない。どうしようもなく、そうなってしまうんだ。
バーミリオン星域会戦を前に結ばれたヤンとフレデリカ。アレックスは失恋の感情を引きずるユリアンを慰める。
こうした大人の対応が出来る所こそが、キャゼルヌ先輩が深く愛される理由であろう。


そうだ、勿論いっしょに行くさ。俺がいなくてヤンのやつがやっていけるわけがないだろう。いいな。じゃ
同盟軍本部にてヤン暗殺未遂事件の顛末を知ったアレックスは、即座にオルタンスに連絡を取り、ハイネセンを脱出するヤン一党に家族まとめて合流する決意を語る。
彼はその場で同盟軍ワッペンと階級章を剥ぎ取り、家族の元へ走りだした……


「キャゼルヌ中将!待ちたまえ! ヤン・ウェンリーと一緒に行くというのは本当か?
どうだ、後方勤務本部長代理、なんなら“代理”を外してもいいと思っているんだがな、考えなおしてくれんか」
……
ふん
「キャ、キャゼルヌ中将!」
……走り出したところを、独断で動いたあげくヤン暗殺事件の収拾に失敗して後のないロックウェル本部長が呼び止める。
アレックスの返答は一言だけだったが、その眼には、ロックウェルをひるませるには十分な敵意がこもっていた。
OVAでは宇宙港へ駆けつけるキャゼルヌ一家のカットが描かれているが、タクシーから降りてブルームハルトに敬礼をするシャルロットと妹がめちゃくちゃ可愛い


なあ、ユリアン、もともとヤンの奴は順当にいけばお前さんより十五年早く死ぬ予定になっていたんだ。
だがなあ、ヤンはおれより六歳若かったんだぜ。おれがあいつを送らなきゃならないなんて、順序が逆じゃないか
ヤンの亡骸と共にイゼルローンに戻ったユリアンに対してこう語った直後、アレックスは嗚咽する。
旧同盟軍で最高級の軍官僚といわれた男が、このていどのことしか言えないという事実は、改めてユリアンを沈ませるのであった。

シェーンコップがね。あの男でも死ぬのかねぇ
シヴァ星域会戦後、発表された戦死者の中にシェーンコップの名があるのを聞いて。キャゼルヌにとっても、不良中年は大切な仲間であり同志であるのがうかがえる。








《これは、不幸の留守番電話です》
《これを見た人は、直ちに50件の家へ電話してください》
《実行した人は、更に不幸になれます。あしからず》
外伝・螺旋迷宮にて。あからさまにヤンを狙い撃ちしたメッセージに、ヤンは苦笑するしかなかった。


キャゼルヌ中将の不幸の留守番電話を聞いた方々は、追記・修正をお願いいたします。


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