マウンテンピーナッツ

登録日:2015/03/05 Thu 00:45:45
更新日:2024/03/23 Sat 00:45:26
所要時間:約 9 分で読めます




『マウンテンピーナッツ』とは『S-Fマガジン』2015年1月号に掲載された、
ウルトラマンギンガS』の外伝短編小説、および劇中に登場する過激な環境保護団体。
著者は『玩具修理者』『大きな森の小さな密室』『アリス殺し』等で有名な小林泰三
イラストは鷲尾直広。


円谷プロとS-Fマガジンのタイアップ企画による作品群共々、2015年7月23日発売の書籍『多々良島ふたたび ウルトラ怪獣アンソロジー』に収録された。


概要

ハッキリ言って本作は非常にシリアスである。
元々小林氏は第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞するなど、ホラーやSF等で活躍する作家なため本作はその影響を受けている。
無印のどこかコメディ色の強い作風や、
ギンガSのアクション性やガンQの涙の様な話を本作に求めるとおそらく後悔する事になる。

内容も『ウルトラマンコスモス』のアンチテーゼを『ウルトラマンネクサス』の作風でやりました、といった感じでギンガの世界観からかなりかけ離れており、
本作のテーマがテーマなだけに、マックスメビウスでやれば良かったのに、という声も少なからずある。
一方で、ギンガSでヒカルが言ったようにスパークドールズに善悪は無い、という事がある意味大事だったりと、ギンガに適しているとも言える。

本編は『ギンガS』の一年ほど前が舞台なのだが、所々原作と異なる設定がある。
『ギンガ』の地球シェパードンが出現するまで現地産の怪獣がおらず、
それ以外の怪獣やウルトラマン達は1000年前にスパークドールズとして地球に飛来し、
無印の時点で認知されたのにもかかわらず、数年前から法的に自衛隊が怪獣と戦えるのか議論されていたり、
メテオールが都市伝説としてあったり、各国はメテオールを通して怪獣データベースを手に入れていたり、友也……。
そもそもマウンテンピーナッツがメテオールを所持していたりと、
ギンガが登場する前から怪獣とウルトラマンが戦っていた雰囲気がある。

小林氏はツイッタ―で「千草が無事オーディションに合格し、アイドルデビューした後の物語です」と、
「君に会うために」の放送回で呟いており、作品自体も一応は『ギンガS』の前日談という形式をとってはいるものの、
後述するように、作中施設の立地、スパークドールズ化したウルトラマンの状態など映像作品との相違点は多く、
そのため本作はパラレルマルチバースの一つと解釈した方が正しいだろう。

小林氏はあとがきで、
「我々ウルトラマンは決してでは無い」「地球と言う星の異なる文明同士の争いに私は加担できない」、
ウルトラマンやマックスが言うとおり、ウルトラマン達は有限の力を持つ異なる価値観を持った超人だ。
けれどそれが文明同士の争いに介入したら?
ウルトラマンが絶対的な善では無いのなら容認出来る事と出来ない事があるし、地球の支配者になるかもしれない。
選ばれた変身者が皆を守るために力を使う事を躊躇う必要はないが、それも結局の所個人の思い上がりな所もある。
絶対的な正義は存在しない以上、皆が満足できる正義は無い。だから軋轢の中でゆっくりと合意を形成するしかない。
ウルトラヒーローは真の勇者だから自らの行動を制限しているのだ。
と発言している(かなり意訳した)。

つまり本作は異なる価値観同士の対立や、
『マックス』で触れられた、ウルトラマンの同一の星の文明同士の争いへの対応等がテーマだったと思われる。
ただ短編という事もあって詰め込み過ぎな部分や、千草のキャラが少し違うような気がしてしまうのが本作の惜しい所。
またテレビシリーズのウルトラマン達には、地球人相手に力を使わない事を絶対視する描写は特に無く、殺さない範囲で力を行使する例もあったため*1
小説内でのウルトラマンの頑なで融通の利かない態度に違和感を感じるという指摘もある。サン=ダスト団
そして、敵役であるマウンテンピーナッツの描写が、価値観が違うだけの相手にしては外道然としすぎている点、
そして彼らの露骨な外道行為を社会が取り締まる事ができないという不自然さも問題点として指摘されがちで、
著者が言わんとしていたテーマと、実際の小説の内容をそのまま同一視して作品を読み解くのはいささか危険かもしれない。

ちなみに『S-Fマガジン』初掲載時には、「降星町」が時々「星降町」と間違えて記載されていた。
語感が良いと言う罪は重い……。



登場人物

  • 久野千草
本作のヒロイン
『ギンガ』の一年後で『ギンガS』の一年前なのでまだアイドルでは無い。
そのためオーディションを受けようとバスに乗ろうとした事からマウンテンピーナッツに関わってしまう事に。
タロウに教わったため怪獣に結構詳しい。
手足が複雑骨折して筋肉が断裂しても泣き言一つ言わない、もの凄い鋼メンタルの持ち主。

皆ご存じ我らがヒーロー。本作では初代と地の文で呼称されている。
攻撃を受けた際には血が流れるのではなく、体内のエネルギーがプラズマとして噴出する。
千草にウルトラマンの力を種族内の争いに向けることは、ウルトラマンが宇宙の全てを支配する事と同義だと語る。
番外編「残された仲間」で千草を助けた後宇宙に帰ったと思われていたが、
千草の事を気に入ったのか人々に危機が迫ると千草の前にギンガライトスパークと共に現れ、ウルトライブして来たらしい。
つまり未だスパークドールズのまま。まぁギンガSでタロウも事実上そうだったが。
1000年の間、人形のままだったから一年くらい大した事ではないのだろう。
何故かタロウ同様、ウルトラマンの意識も残っており千草に語りかけてきた。
ギンガに意識だけでも解放されたのだろうか……。

本作では登場しない。
しかし千草が友達にはギンガやティガがいると独白した事から、
ウルトラマンと同じく今も健太に力を貸しているのかもしれない。
その場合、ティガの意識は一体、誰なのだろうか……。

  • 原動隆一郎
『マウンテンピーナッツ』の日本支部総司令官。
環境を愛しており怪獣とは言え例外では無い。それを殺そうとするウルトラマンを敵と認識し攻撃してくる。
ある意味被害者と言えなくもないが、実質全ての元凶。少なくとも被害範囲を恐ろしいくらいに拡大させた。
その因果応報は身をもって受けることに。

テレスドン。デットンというのは個獣名らしい。
作中最初にモンスライブされた怪獣で、この話がどういうものか読者に教えてくれた。

かつて「故郷は地球」に登場した悲しい復讐者。
本作で再びウルトラマンと戦う事になるが、意思はないのでどう思ったか不明。
ウルトラマンもジャミラに対して特に言及はしなかった。
原動は正体を知っており、怪獣とは言え人の心を残すジャミラに対する態度が外道だったため、
タロウに出自を教えてもらっていた千草はウルトラマンを辞めたいと思うほどに追いつめられてしまう。

良い意味でも悪い意味でも本作最大の功労者。子供番組では無く小説と言う媒体を利用して本編以上に暴れ回る。その姿はまさに水を得た魚。
特に再生能力の高さを生かしてウルトラマンと互角の戦いを繰り広げる。

本作の黒幕。ノスフェルにモンスライブして暴れた。
他二体も彼女のモンスライブだと思われるが、チブロイドかもしれないしエージェントの様に怪獣本人の意思があったのかもしれない。
後に写真集を出す事になるとは信じられないほどに恐ろしい数の人々を虐殺して来たが、目的が何だったのかは不明なままである。これが本作をより怖くしている。
実際のところ、本作を映像作品の正史と見做してしまうことの一番の問題が、後に味方になる彼女の処遇と心象である。
少なくともこちらの世界線の彼女は「マナ」にはならないのかもしれない。

  • 2つの謎のスパークドールズ
一つは特徴の無い顔と、幼児が持っているクレヨンで画用紙に塗りたくったような髪をし、
布で覆われているが、見えている手足と顔はぬめぬめと脂ぎったスパークドールズ。
おそらくは小林氏のデビュー作『玩具修理者』に出てきた玩具修理者本人。

もう一つはボロボロになった黄衣を纏った、痩せた肉体が垣間見えるスパークドールズ。
おそらくは黄衣の王ではないかと推測されている。

どちらもどうして「ダークスパークウォーズ」に参加したかは定かではないが、多分ファンサービスで深い意味はないだろう。


  • マウンテンピーナッツ
環境保護NPGのイエローピーナッツとマウンテンコリーが合併した組織。
総勢一万人はいるらしい。日本を特に敵視している。
SRCTEAM EYESが怪獣と人の共存を目指していたのに対し、こちらはを環境の一部に入れていないのか、
環境を守るという名目で人を殺す事に躊躇いを持たない。

環境保護の為にメテオールやスペシウム弾頭弾を装備した戦闘機を所有している。
この事はウルトラマンから、環境を大切にしていると言いいながら自分たちの戦闘行為で環境を壊していると指摘されている。

虫取りをしていた少年と助けようとした老人に硫酸入りのビンを投げつけるほど非常に過激で、
その行動をビデオに撮りスポンサーをしている番組でヒーロー行為に演出した映像を全世界に流したりしている。
この番組含む宣伝工作によって日本は世界的な環境破壊国として世界に認知されてしまい、払拭が簡単には出来なくなっている。
工作の結果、国際世論を味方にしているので傷害事件では警察は動けず、死亡事件に発展しても起訴猶予が限界と言う厄介な団体。

さらに彼らの活動は国際条約に基づいており機動隊も止めることは出来ず、国家でもテロリストでも無く、
あくまでも今回の目的は怪獣保護のためなので、自衛隊も交戦する事は許されず一方的に攻撃されてしまう。


とはいえ、本作で彼らが巻き起こした事態の規模を考えれば、その本性が国際社会に露呈するのも時間の問題だと思われるが……。



追記・修正は価値観の意味を履き違えず、お互いの価値観の相違を認め、合意を模索してゆく人がお願いします。

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最終更新:2024年03月23日 00:45

*1 初代ウルトラマンは人間と同じ地球の知的生命体である地底人やケロニアに積極的に立ち向かっているし、ウルトラセブン宇宙人に操られた人間を気絶させた事がある。またコスモスはムゲラの事件で無駄な争いを起こしかけた防衛軍に対し、砲弾を突き返して怯ませた事がある。