10万人のテリー

登録日:2015/01/11 (日曜日) 07:36:00
更新日:2021/11/10 Wed 11:18:29
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人類の命運をかけたゲームとか、やってみたかったんだ。止めに来たのが年増とかマジ勘弁だけど


長谷敏司作のSFライトノベル。大崎ミツル作のコミック『天動のシンギュラリティ』第一巻に寄稿されたものであり、16Pという掌編に近い分量でありながらその高い変態性完成度から長谷敏司のファンから高い評価を受けている。

天動のシンギュラリティが長谷敏司の長編小説「BEATLESS」と世界観を共有しているのと同様に、こちらもまたBEATLESSと世界観を共有しており、その設定はアナログハック・オープンリソースに準拠している。(アナログハック・オープンリソースについてはBEATLESSの項を参照のこと)
ワールド・フランケンシュタインシリーズと銘打たれ『天動のシンギュラリティ』単行本2~4巻にも続編が掲載された。一応、今作単体で事件は完結はしている。


概要

あなたのための物語ではワナビ、BEATLESSで二次元萌えをテーマに論じていた作者であるが、今作のテーマはディスティニードローである。まるでどこぞの決闘(デュエル)世界のような器具も存在し世界観的にも割とそれらしい。

このところ、活躍の場がライトノベルよりもSF小説の方に移行しつつあったためか、円環少女等では存分に発揮されていたオープンな変態描写もすっかり内に秘めた変態描写となりつつあった同氏の作品であるが、今作ではそれが存分にオープンにされている。流石に過去の長編作品のように大量の変態が出てくるわけではないものの、今作にもなかなか業の深い変態が存在する。
同氏の他のライトノベルのように、幼女ヒロインは出てこないもののそれらしき変態は存在し、存分に暴れまわるため長谷氏のそのあたりの描写が好きなファンであればきっと満足出来るはずである。

あらすじ

今から100年後の未来。社会のほとんどをhIEと呼ばれる人型ロボットに任せた世界。
IAIAと呼ばれる、人工知性の管理・監視を行う超国家的組織に所属する紅螢はある人物の消去を命じられる。
その人物の名はテリー・ダップ。彼はオーバーマン――自らの脳情報を完全にデータ化する事により寿命の枠を乗り越えた不老の機械人間――であった。
彼はIAIAの監視を逃れるため、自身の人格を現在流行中のソーシャルカードゲームの、あるレアカードの中に分割して仕込んでいた。つまり彼の人格は、このカードゲームで遊ぶ人物が多く集まる場所でのみ再現されるのだ!
人間の寿命に囚われず、脳情報をデータ化したが故にネットの海にコピーを残しておけば、例え死刑となったところで復活してしまうオーバーマンは、倫理の枠を飛び越え高確率で犯罪者となってしまう。
紅螢は、テリーの人格が再現され、自由な肉体を得る事で起こる犯罪を未然に防ぐため、自身もまたそのカードゲームのプレイヤーとなり、条件を満たす人物が多く集まる場所――即ちカードゲームの統一宇宙王者を決める世界大会の会場へと乗り込む事になるのだが……!?


登場人物

紅螢(ホンイン)


「訓練されすぎだろう、人類」

20歳の女性。本作及び「ワールド・フランケンシュタインシリーズ」の主人公らしき人物にして一番の被害者。
「人間の社会を守る組織」ことIAIA(国際人工知性機構)の代理人。日夜、人間の知性を超えた存在である超高度AIの社会を変革させようとする攻撃に対抗するため、自身もまたIAIA側の保有する超高度AI「アストライア」の手先となり場所を問わず時間を問わず戦い続けている
……というわりかしシリアスかつダーディな設定ながらも、本作ではテリーに関わった事でめくるめくギャグバトルの世界へと引きずり込まれてしまう。
本作で使用されるカードゲームについては初心者ながらも、テリーを捕らえるため超高度AIの計算力を借りて世界大会を勝ち進んでゆく。
因みに「彼女がこの世界大会に出場しているのは主催者側のアトラクションの一環である」という建前で世界大会に出場しているため、世界大会中は海賊のコスプレをする事となる。

なおその後『天動のシンギュラリティ』にもゲスト出演しており、最終8巻(電子書籍限定発売)表紙を飾っているが、なぜかその容姿は赤い髪のhIEに似ていた。


テリー・ダップ


「さあ、私を止めたければカードで勝負しなさい!」

42歳男性。本作における敵。
自らの脳情報をデータ化したオーバーマン。その外見はピンク色の髪ミルクセーキの如く褐色の肌を持つ小学三年生くらいの少女。……もう一度書くが42歳のオッサンである。
(オーバーマンとなった時点で)IAIAから抹殺指令を受けるような犯罪者であるが、その性格は一言で言えば「俺ら」。
そもそも上記のような外見と内面のアンバランスさも、自らの人格をデータ化するオーバーマンの技術を応用し、小学三年生の女の子を模した義体にデータ人格を入れる事により擬似TSを果たした結果である。
TS願望については以前から持ち合わせていたらしく、テリーの個人端末からは「自分がプリンセスとして魔法の国に生まれ変わる」という内容の自作小説を20歳の時点で書いていた事が発覚している。
また「ゲームのような悪役が居れば、世界がゲームのようになる」という持論も持っており、カードゲームのカードに自らの人格を転写した理由についても(上記のセリフにあるように)世界の存亡を賭けたゲームがしたかったかららしい。
そのためにわざわざIAIAの工作員が自らを消去しに来るのを待ったり、カードゲームの勝負に持ち込むため通常兵器を無効化するような装備を準備していたりとその性格は正に筋金入り。
しかし肝心の「自分を止めに来た人間」が20歳の年増だったことに落胆したご様子。20で年増ってってお前……
また真性のマゾヒストでもある。作中においては、もし自らの人格データがカードの中に仕込まれているとカードの持ち主にバレた場合「絶対にエロいことに使う人も出てくる」と妄想して悶えていた。
絵面的には褐色ロリが自分が蹂躙される妄想で悶えるという何ともアレな状況ではあるが、くどい様だが中身は42歳のオッサンである。


用語

○超高度AI

人間の知能を凌駕した人工知能のこと。
本編開始時には計39台の超高度AIが稼働しているものの、その多くは人類の根幹に関わるようなインフラに接続することが禁止されている(人類知性を超えた超高度AIがインフラに関わり、万が一反旗を翻す様なことがあればなすすべなく人類が滅亡してしまうため)。

IAIA

国際人工知性機構。超高度AIが人類の発展のため、正しく管理、運用されているかを監視することを目的として生み出された超国家的組織。
その活動内容は多岐に渡るものの、基本的には「超高度AIに関することのほぼ全て」を担っていると言って良い。現存の超高度AIの逐次監視や運用調査は勿論のこと、超高度AIに関する情報の公開や、現在はそうでなくとも超高度AIに至る可能性のある高度AIの監視や取り締まり等がそれにあたる。
「人間の知性を超えた」超高度AIに対しては当然ながら、人間の力のみで処理出来る筈もなく、IAIAもまた、<<アストライア>>と名付けられた「超高度AIを監視、審理するための超高度AI」をかかえている。
基本的には<<アストライア>>諮問を受けたIAIA上層部が方針を決定し、その決定の下、活動を行っている。その為IAIAの職員たちは、一部の反AI主義者等から「機械の奴隷」などと蔑称されることも。
またIAIAはその内部に代理人と呼ばれる、言ってしまえば特殊工作員――スパイのようなものを内包している。
基本的に彼らの仕事は<<アストライア>>の判断材料となる情報の収集であるが<<アストライア>>の諮問を受けた組織の決定を実行することも仕事として要求される。その中の一つがオーバーマンの消去である。

オーバーマン

自らの脳情報を完全に情報化しネットワーク上に転記する事で、永遠の生を手に入れた人間のこと。自らの脳の一部を機械と置き換えた「サイボーグ」とは明確に区別される。
IAIAはオーバーマンを人間とは見ていない。それは、オーバーマンは一部の超高度AI(ハイマン系超高度AI)と似た設計を持ちながら、超高度AI程の能力を持たず、かつ倫理的制約を持たないため、人間社会に害悪としてみなされるためである。
順を追って説明しよう。まず、本作世界において超高度AIは(人間を超えた知性ではあるものの)人権を与えられていない。これはこの世界における一般的な見解である。
その為ハイマン系超高度AIと似た設計を持つオーバーマンにもまた人権が認められていない。また、オーバーマンという存在は、不老であり、(自らの人格データを無限にコピーする事で)不死に近い存在でもある。その為(例えば死刑のような)通常の犯罪者に課せられる罰の効果が極めて薄い。あるいは全く無いと言ってもいい。
故にオーバーマンとなった存在は倫理的な制約を持たず、極めて犯罪に走りやすい傾向がある。結果人間社会にとっての害となる事が多い。
以上の二つの理由から、オーバーマンとなった存在は存在するだけで害悪であり、IAIAからの処罰の対象となる。
オーバーマンには通常の刑罰は有効ではないものの、当然、オーバーマン用の罰が存在する。それが人格に対する攻撃、解りやすく言えば「黒歴史の公開」である。
オーバーマンとなった人間は(もちろん人権が無いため)人間だった頃に持っていた個人端末等のプライバシーに関するものを暴きに暴かれる。それはオーバーマンとなった犯罪者の心理的傾向を調査するための行為ではあるが、それ以外に懲罰という側面も持つ。
具体的には、端末内に存在する若い頃のポエム厨二病設定ノート痛い自己投影小説将来の夢などが全国ネットで曝されるのである。

最も厄介なオーバーマンはマゾヒストなオーバーマンだと言われている。
上記のようなこともありオーバーマンは自らの人格を無限に複製できるものの、人格の複製自体には非常に慎重である。だが、マゾヒストはそれらを恐れない。
寧ろ人格の蹂躙屈辱どんとこいなタイプであるため、進んで複製する。その為大量の人格の複製を生み出してしまい、一つでも取り逃がせばそこからまた大量の複製を生み出せるためである。


その他

○同じくアナログハック・オープンリソースの世界観を下敷きとし、IAIAの代理人とオーバーマンの戦いを描いた作品に同氏の短編小説「Hollow vision」が存在するが、こちらは終始シリアスな雰囲気で進み敵も味方もギャグに走ることはなかった。紅螢は泣いていい。

○最終的に本世界ではディスティニードローが肯定されている。即ち、願いを込めてカードをドローする事で、ほんの数パーセントであるが、切り札を引ける確率が上昇したらしい。

○テリーの人格が仕込んであったカードの絵柄は、テリーの義体ボディを模したものであったらしい。即ち、ピンク髪の褐色ロリ。しかも本気で世界大会を目指すならばこれを入れることは必須であるほどに強力な効果を持ったカードであるらしい。そりゃあオーバーマンが仕込んでなくてもエロいことに使うわ。きっとこの世界のお絵かきサイトではテリーの二次エロ画像が溢れかえっている事だろう。



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最終更新:2021年11月10日 11:18