REAL RIDERS 駆紋戒斗外伝

登録日:2014/05/25 (日) 00:05:16
更新日:2022/09/14 Wed 16:14:43
所要時間:約 18 分で読めます




彼はまだ、何者でもない――。


これはチームバロン、始まりの物語。



仮面ライダー鎧武』の公式スピンオフストーリー。
星海社の「仮面ライダー鎧武ザ・ガイド」(2014年3月20日刊行)に書き下ろし小説として収録された。
全30ページ(文章は1ページに上下の構成)で4つの章およびエピローグに分けられる。

別表記:『Real Riders 駆紋戒斗外伝』
監修:虚淵玄
文章:江波光則
表紙:serori



本作では、ライバルキャラクターである駆紋戒斗の過去、彼の高校時代の様子やチームバロンのリーダーに至るまでの道のりが明かされる。
本編において度々見られるコミカルな描写は影を潜め、周囲に翻弄される人々の哀愁や悲哀が描かれている。
時期としては、ロックシードインベス・アーマードライダーといった要素が表に現れる前なので、それらに関する記述は出てこない。

テレビ放送中にスピンオフ小説が発表される例はあまりないという。
(過去の作品としては『劇場版 仮面ライダーW』の『Nのはじまり/血と夢』等が当てはまる)
また、東映の英断に応えるべく、最高の小説を作るという思いで取り組んだとのこと。

TVシリーズ完結後に制作されたVシネマ『鎧武外伝 仮面ライダーバロン』でも断片的に戒斗の過去を扱っているが、
こちらの小説とは描写に明確な齟齬があるため、実質的なパラレルの関係となっている。
(ちなみに『Nのはじまり/血と夢』と『W』のVシネマ作品も同様)



【登場人物】


本作の主人公。
聡明な青年で、平均を遥かに凌駕する能力を持ち合わせて生まれ育った。
脚が長くファッションモデルでもやれそうなスタイルで、美原武史からはビジュアル系と言われている。

学校にはろくに通っておらず教師からは扱いにくい生徒と思われているが、他の生徒たちからは慕われ頼りにされている。
同級生や下級生は敬語混じりで「駆紋さん」「戒斗さん」と呼び、上級生は自分が好かれる先輩であろうと振る舞う。
その環境から、長い間それが「友達」としての姿だと思っていた。

一方で彼を妬んだり、自尊心を傷つけられるような劣等感を抱いていた「敵」も何人かいたが、この頃は自身が優れているという自覚があまり無かったため、
そのような裏側の感情までには意識が及ばず、それが自身の中にも存在していることにまだ気づいていなかった。
また、「名のあるバカ」を数人叩きのめしたことがきっかけとなり、他のろくでもない連中にも注目されている。

自分の立ち位置にまだ慣れておらず居心地の悪さを感じたり、自分が恵まれすぎていることに不安にもなっているが、周囲との繋がりを否定して一人でいたいとは思っていない。
「仲間」のことも嫌いな訳ではなく、どれだけ下で弱い人間でも面倒を見るのは上に立つ人間として当然と考えている。
自分が「友情」を欲しがっているのか、どんな形が「友情」なのか分かっておらず、それを探るため「仲間」を出来る限り守ろうとするが、
それは「友情」ではないと思っており、「ある企業」のビルを眺めた時に「支配」という考え方に至っている。

たまたま出席した日本史の授業で教師が話した坂本龍馬の陰謀論に興味をそそられ、図書室や本屋に足を運び歴史についての怪しげな本を愛読するようになる。
ちなみにその陰謀論における坂本龍馬は「好き」なのではなく「気に入った」らしい。
それ以来は日本史の授業だけはよく出席するようになったが、教師の解説は無視して教科書の好きなところを読んで過ごしている(しかし頭が良いので内容をすぐに覚えられる)。

創作ダンスの授業には楽しいので出席している。
生まれつきの突出した技術による動きは周囲を圧倒しており、他の生徒たちは必然的にバックダンサーになる。
多数のチームから上に立つよう誘いを受けているが、「気が乗らない」として断っており、「勿体ぶってる」「高く売ろうとしている」と陰口も叩かれている。
そして、流されるままチームに入るのではなく、やるなら自分でチームを立ち上げると宣言する。

オートバイにはそれほど興味がなかったが武史のバイクは中々良いと思っており、それが免許を取ろうと思った理由でもある。


◇美原武史 (みはら たけし)

戒斗の同級生。
全身に筋肉のついた身体に丸坊主が特徴の、粗暴で気まぐれな男。
学校にはしっかり通うものの授業には殆ど出席せず、出たとしても漫画を読んだり音楽を聴いたりして過ごし、教師に質問されても「知りません」としか答えない。
周囲との繋がり方が分からないため、いつも一人でいる。

戒斗とはあらゆる点で対極に位置しており、外見や頭の良さ、周囲との関係ではまず敵わないが、殴り合いなら負けない自信がある。
2人の関係は険悪という訳ではないものの、戒斗にとっては分かりやすい「敵」であり、「友達」にはなれないし「友情」も生まれないと思っている。

年齢の序列に拘りがあり、同級生から下級生に対してのいじめや使い走りは気にしないが、
それが同級生に対しての場合は決して許さず、弱い物いじめにも等しい暴力で遠慮なく両方とも叩きのめす。
そんな彼も年上には従順な態度を取っており、教師に注意されたら素直に謝り、上級生からの頼みにはどんな内容であっても応えようとする。

その力強さは、戒斗と違って生まれつき恵まれたものではない。
頭部には子供の頃に事故で出来た大きな痣が残っており、幼年時代にそのことでからかわれいじめられた経験からこのような人間に変わった。
痣そのものは髪を伸ばせば隠せるものだが、そうはせずに丸坊主でいることを選んでいる。
周囲によって屈辱を受けつつ、過酷な環境の中で自分を鍛え育てたことで、「勲章」とでも言うべき強い身体能力と威圧感を身につけた。
彼には冗談も本気もなく、次の瞬間に殴りかかるか飽きて帰るかは気まぐれであり、戒斗ですら「無意識の用心」を引き出されるほど。

坂本龍馬のことは教科書の知識ばかりか、誰しも一度は聞くであろうその名前すら知らなかった(一応、そのことについて恥じる素振りは見せている)。

上手く踊れずバックダンサーにすらなれないので、創作ダンスの授業にも出席していない。
「蒼天」というダンスチームの跡目にするという言葉を信じ、「先輩」に媚びを売って言いなりになっていたが、
結局は踊れないことが原因で継げないことになり、その腹いせとして最近はいつも以上に暴力を振るっていた。
他のチームからも「腕力バカに用事はない」と言われ続けている。

「先輩」から「買わされた」「ハスラー」というペットネームが付いた古くさいオフロードバイクを所有している。


◇戒斗の身内・仲間

戒斗を慕って付き従う取り巻きグループ。
小さい規模とはいえ10~20人はいる様子。
褒めて貰うためにいいところを見せようとする彼らを、戒斗は無邪気で幼い子供のように思っている。

校舎裏での騒ぎでは4人が戒斗に駆け寄り、武史に容赦なく「ハゲ」「バカ」といった攻撃的な罵詈雑言を浴びせ煽った。
それに対して武史は特に反応することもなく「5人」を眺めていたが、戒斗は自分もその数の中にいることに不満を覚えている。
彼は武史の起こした騒ぎを覗いていただけで戦意そのものが無く、周囲から戦いを煽られることに苛立っていた。
結局は面倒くさくなった武史が帰ったことで身内が勝ち誇ることになったが、気が乗らないという彼の意思は誰も汲み取ってくれなかった。
ちなみに武史は自分のことを「戦隊モノの怪人」と例えている。

戒斗は身内のことを一人ひとりでは武史に敵わず、一対一では絶対に「弱い」と判断している。
四体一という数字は圧倒的に有利であり、その上に彼がいることが、「弱い」はずの人間を「強い」人間に変えている。
身内は武史のことを「正気じゃない」と思っているが、戒斗は何も考えず自分に付いてきて勝手に喧嘩をしかける彼らを、本当に「正気」と言えるのか答えを出せていない。



【用語】


歴史上の人物で、一般的な解釈では英雄視され非業の死を遂げた理想の革命家とされている。
しかし、陰謀論によると日本を内戦状態にして武器を売り捌きたい諸外国の武器商人たちの手先だったという。
戒斗が興味を持ったのは、どんな背景や動機であっても国の統治システムを打ち壊して結果的に世界を変えた、という点である。
日本はその後、世界規模の戦争に敗北したことで再びシステムの変化が起きており、「争いが世界を変革する」ということの意義も彼の興味を引いている。
また、正しいか間違っているかを決めるのは勝った者であり、それは革命ではなく支配権とシステムの譲渡が行われたに過ぎないと考えている。

戒斗は坂本龍馬が他の歴史上の人物と持っていた関係を、「友情」とは違うと解釈している。
そして、上の人間である自分と周囲の関係も「友情」ではないことに気がついた。

坂本龍馬という人物は、今よりも未来に英雄の一人として姿を現すことになる。


◇ダンスパフォーマンス

沢芽市において、「ある企業」が巨大なビルの建設を始めた頃から流行りだした。

若者の間で主に建前として広まり、田舎街の沢芽市における縄張り争いはただの暴力からダンスに少しずつシフトしていった。
表向きはダンスサークルとして活動しつつ、悪さをしたければ裏に回り、揉め事はダンスによる対決で解決するという形は、警察の目を欺くことにも効果的だった。
また、本当は誰も殴り合いなど望んでおらず、楽しくもあるダンスで決着を付けることは彼らにとって都合が良かったという事情や、
時代の移り変わりと共に暴力は違法行為という認識が強まり影を潜めていったという背景もある。

これまで「チーム」という言葉はギャングや不良という意味で用いられ、不真面目な若者が何処のチームに入るのかも学校ごとに決められていた。
かつての沢芽市は、「若者はそういう物だ」「どうしたらいいか分からなかった」「いなくなる筈がなかった」という理由で、若者たちの反社会的行為を容認してきた。
そして、いつしかダンスサークルを意味する言葉に変えられ、次第に平和で健全な存在になっていった。
多くの住民にとって歓迎すべきことだったが、戒斗は「何処か性急で、不自然で、他意を勘ぐれる流れ」にも見えたという。
治安を乱されるのは街を思い通りにしたい連中にとって不都合であり、そういった暴力的な動きは排除され矯正されていったのである。

学校の授業にも創作ダンスが組み込まれている。
このことから、比喩的に「全員が踊ることを強要されている」と言われている。
また、戒斗は今の自分の境遇について「何かに踊らされている」と感じている。
創作ダンスはソロよりもグループが主流で、難しいことを考えずに「みんな」の動きに合わせて同じようにしていればいいのだが、
それすらできないのなら、沢芽市においては武史のように「みんな」から弾き出されるのも仕方がなかった。


◇ユグドラシル・コーポレーション

世界に名立たる外資系の医薬品メーカー。
およそ10年前、戒斗が物心ついた頃に、沢芽市を丸ごと買い取って再開発し、この街に唯一の日本支部を打ち立てた。

地方都市である沢芽市は土地を持て余し、大した観光資源もない赤字経営の行政区画であり、かろうじて国からの補助金で賄っていた。
更には大きな港もなく、新幹線すら停まらず、一番広い道路でも片側二車線が1本で、高速道路が延ばされ、お情け程度のインターチェンジが建てられる街である。
手間の少ない大都市ではなく何もない田舎街を選んだ理由はよく分かっていないが、
ユグドラシルは既存のインフラを必要としておらず、人々の間では「自分たちの思うがままににしたかったのだろう」といった評判が広まっていた。

買い上げた土地の大部分を容赦なく潰し、放射状に6本もの片側三車線道路を広げ、更に2本の同心円上の道路で連携させる。
そこに自分たちの所有する倉庫やオフィスビルを、既存の賃貸ではなく自前で建設し配置する。
これらの都市開発は、中心部の巨大な建造物を基準にして進められた。
公道を始めとしていくつかは沢芽市が自ら行った開発もあり、表向きは大規模な公共事業としているものの、誰がどう見てもすべてユグドラシルの都合で決められている。

ユグドラシル・コーポレーションは地元意識の残る住民にも一切遠慮せず、価値観もルールもシステムも、何もかも「作り替えた」
中には反対運動を起こす者もいたが、それは一時の郷愁や反発心などから来るもので再開発計画の支障にはならず、
同じ沢芽市の住民でさえもそうした人々のことを「変わり者」「頑固」「神経質」と評していた。
この変化がもっと緩やかなものであれば不安になり混乱する者はもっと少なずに済んだのでは、とも言われている。
何れにせよ、環境の「良い」変化に適応できず破滅するというのなら、それは仕方のないことであり、ユグドラシルにとっては「どうでもいい事」でしかなかったという。
持て余していた土地にはかつて神社や公園といった施設があり、とりあえず配置されたとはいえ地元住民にとっては自分たちの記憶そのものだったはずが、
今ではそれに目を向けることもなくなり、当時を知らない者も増えていることから完全に過去の物に変わってしまっている。

他の企業も先を争って次々に参入し、いずれもユグドラシルの建物に重ならない場所に配置されていった。
それに伴い、たった数年の内に転入者が転出者の倍を記録し、都市人口は今でも増え続けており新興住宅地も作られ続けている。
また、医薬品メーカーらしく街を医療福祉都市として機能させ、医療・教育の面から支援して好景気を与えている。
このように、沢芽市が以前の何も無かった頃よりも遥かに住みやすくなったのは紛れもない事実である。
まともに街を盛り立てる力も無かった旧来の行政なら重税の心配もあったところを、一企業がやりたいようにやったので住民が負担を強いられることもない。
街のあちこちに翻るユグドラシルの社旗は征服者・支配者の証に例えられている。
ユグドラシル・コーポレーションは沢芽市を「征服」「支配」し、人々に「豊かでより良い街」「新しい記憶」を提供したのである。

沢芽市の変化を戒斗と武史は好んではいなかったが、最終的に戒斗は適合できた一方で、武史にはそれができなかった。
戒斗はユグドラシルのことを、政治的な交流を求める「黒船」ではなく、ルールを一新して野心と金儲けに利用する「武器商会」に近い代物とみなしている。


◇駆紋工業所

かつて戒斗の父が経営していた、工員数名の小さな街工場。
地元住民を雇用し、小さなおもちゃや工業部品を下請けで製造していた。
どのような仕事かはよく知らなかったが、父が一から築き上げた工場のことを「城」のように思っており、遊びに行くだけで自分も誇らしく思っていた。

その後、街を再開発する際にユグドラシル・コーポレーションによって土地ごと買収された。
工場が叩き壊された場所からは当時の面影が消え、替わりにユグドラシル関係の建物が建てられた。
しかし、これは「悪辣な土地売買」ではなく、「真っ当な商談」の末に決められたことであり、戒斗の父は工場を手放すことに合意している。

戒斗は、父は金銭に飛びついたのではないと考えている。
意地を張っても先細りになるのは目に見えており、「家族」のことを思い、「妥協」「屈服」し、「誇りと自負」「味気ない代物」と交換したという。

受け取った補償金のお陰で戒斗は高校に行くことができており、希望すれば大学に進むことさえできる。
(実際は、今の進路は工場を潰したことで得られた選択肢なので申し訳ないと感じつつも、高校にはろくに通っていない)
また、真面目にどこかの企業に就職して平凡な日々を過ごすのも良いとは思っているが、このような経験もあってそれを納得しきれていない。





+ 終盤において
戒斗が他のダンスチームに取られると思い焦ったどこかのチームの「先輩」は、彼を潰すよう武史に持ちかける。
成功したら次のリーダーに選ぶという言葉を真に受け、武史は躊躇いもなくそれに応じた。

戒斗の身内グループは指示も無いままに総出で武史を追い込んだが、ゲリラ戦を駆使する彼の前に少しずつ倒されていった。
しかし、沢芽市の裏通りや抜け道などを利用した戦術も、ユグドラシルが行った「改変」により多くが使い物にならず、既に限界に達していた。
移動手段だったオフロードバイクも身内によって修復のしようがないほどに叩き壊されたため、変わり果てたバイクを見に来ていた戒斗の前にもずっと現れない。

戒斗は殴り合いがしたかった訳ではなく、武史に「坂本龍馬」という名前を少しでも残したいという意欲があった。
自分に就くためにやってきた身内の一人と会話していた時、思っていた通り武史はバイクを確認するために姿を現した。
これまでの殴り合いで満身創痍だったが、そこに飛びかかった身内をあっさりと倒している。

武史曰くリーダーを継ぐというのは「おまけ」であり、命令は戒斗が二度と他人を蹴られないように膝の骨を砕くことだった。
戒斗には年上にしか蹴り飛ばす対象がおらず、「先輩」というのは彼がかつて足技で蹴り飛ばした相手と推測している。
自分が負けたらもうどこからも頼み事はして貰えず、勝ったらまたバイクを貰って街を出ると武史は宣言した。

これまで何度も相手を倒してきたはずの足技は立て続けに耐えられてしまう。
「お前は強い。強いけど、何というか……そう、『そんなに』強くはない」
この言葉によって戒斗の中に「単純な怒り」「明確な殺意」が湧き起こり、常人にはできない柔軟な動きで足技を決めた。

戒斗は中学1年の時からずっと「格上」を相手にしており、自分は不利な条件下にいると思い続けてきたが、
それは「誤解」であり、相手は自分に油断しない訳がなく、むしろ「格下」であることは彼にとって有利なことだった。
予想もしない動きができる彼に誰も勝つことはなく、その足技を無敵のものとしてきた。
しかし武史にはそれが効かず、逆に単純かつ強烈な攻撃を受けてしまう。

「お前を舐めて、こう言ってるんじゃねぇんだ、俺は。本当に驚いている。……つまりその、俺はバカだからはっきりと言えないんだが……
 『こんなに』強くても俺にゃ味方はいないのに、『そんなに』強くなくても、お前には味方がたくさんいる」
武史がユグドラシル・コーポレーションを見上げて口にしたことは、彼がもう少し賢ければ、戒斗にとって「大切な言葉」になるはずのものだった。

命令に従い戒斗の膝を砕こうと武史が近づいた時、さっきまで倒れていた戒斗の身内が武史に組み付く。
叩き壊されたバイクの上に巨体を押し倒した時、「嫌な音」がした。
折れたマフラーが武史の腹を貫き、バイクは鮮血に浸され、身内は訳も分からず動揺していた。
武史が戒斗に劣っていたのは、「味方」がいるかいないか、その一点だったのである。
彼は戒斗の為にやった身内のことを叱らないよう言った。

「お前は弱かったから、そんなに強くなった。強くならなきゃ生き残れなかった」
「……俺にも、お前みてぇに友達がたくさんいりゃあな」
戒斗は、それが「友達」「友情」ではなく、自分は武史と同じく「孤独」であると感じる。

「俺は俺のチームを立ち上げる。誰の背景も俺は必要としていない」
2人の視線は、ユグドラシル・コーポレーションに向いている。
「……無理すんなよ。お前は『そんなに』強くないんだからよ」
他人に「酷な支配者」と呼ばれようと、もっと器用に賢しく立ち回り、金では決して売り渡せない「自分の城」を築き上げる。

「駆紋戒斗の顔面を殴った。その程度の勲章でいいよ、俺は」
そう呟いたのを最後に、武史は言葉を発さなくなった。
彼らの近くでは、身内に呼ばせた警察と救急のサイレンの音が鳴っていた。
戒斗と彼の身内たちが何を聞かれたのか、何か罰せられたのか、それは明かされていない。



戒斗は武史の墓の前にいた。
言っておきたいことを思い出したので来ただけだという。
「友情」という概念は、「突出した才能」「周囲の環境」により、彼の中から既に失われていた。

墓前に坂本龍馬の三門小説を置いて呟く。
「……俺は坂本龍馬なんてのは嫌いだよ」
「お前もこれを読めば嫌いになる。きっとな。そうしたらいつか、あいつの悪口を語り合ってみたいと思う。お前が何を言うのか、俺は結構楽しみにしている。ちゃんと読め」

「チーム・ハスラー」
たった1人きりのメンバーである武史に、戒斗はチーム名を送る。
実は、彼にも自分のチームに入るよう持ちかけたい気持ちはあった。

「チーム・バロン」
戒斗はこの名前で戦っていくことを決意する。

「お前みたいなのが、そういう風にならない世界を俺はきっと望んでいる」
「……ところで、お前が強すぎたというだけで、俺は『そんなに』弱くない」
きっと「友情」ではないに違いないと、戒斗はそのように思っていた。



本作は「バッドエンド」を迎えてしまうのでは、という予想もされていた。
この結末が明るいのか、悲しいのか、それともまた違ったものか、一人ひとり解釈は異なると思われる。
ただ、少なからず「希望」の見える終わりを迎えたのは確かである。

駆紋戒斗と美原武史の間には本当に「友情」が無かったのか、それは定かではない。
しかし、両者の間には「友情」を超えた「何か」があったとも言える。
戒斗はザックやペコといったチームバロンのメンバー、そして葛葉紘汰や高司舞に対して、かつての「仲間」や武史の時と似た感情を抱いているのかもしれない。
また、彼は呉島光実のことを「敵」と断言しているが、それがかつての「敵」と同様のものかは分からない。

表紙イラストを飾ったserori氏は、戒斗の儚い青春時代、過去の話ということで、水墨画風にしたとのこと。
墓前に本を置いている左側を過去、バイクがあり「仲間」がいる右側を未来としている。
先が明るいことを暗示して花を付けた木も描かれているが、同時に不安もあり、散る花もあるイメージらしく、花びらが散っている。
また、バイクだけが未来を見ており、「今すぐにでも全力で駆け上がっていく」戒斗の気持ちを表現したという。
氏は他にも、イラストギャラリーにおいて、お気に入りだという仮面ライダー龍玄を描いている。

余談だが、文中における戒斗と武史に対する三人称は、すべて「駆紋戒斗」「美原武史」である。






それ、は「友情」ではない。

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最終更新:2022年09月14日 16:14