レスラー(映画)

登録日:2014/04/24 (木) 01:10:42
更新日:2023/05/25 Thu 12:09:36
所要時間:約 7 分で読めます




一芸しかできない馬が草原を駆けるのを見たことがあるかい

あるなら、それは俺なんだ


一本足の犬が必死に通りを横切っていくのを見たことがあるかい

あるなら、それは俺なんだ



『レスラー』とは2008年に公開されたアメリカ映画。



監督は次回作「ブラック・スワン」を、アカデミー賞で5つの賞にノミネートさせたダーレン・アロノフスキー。


主題歌はブルース・スプリングスティーンが今作のため書き下ろした「The Wrestler」










あらすじ

80年代人気レスラーだったランディ・“ザ・ラム”・ロビンソン。しかしそれから20年たった現在、彼はスーパーのアルバイトで生計を立てながら、辛うじてプロレスを続けていた。
バイト代やファイトマネーの殆どはステイロイドや各種栄養剤に消え、住んでいたトレーラーハウスからも締め出される始末。
唯一の楽しみは思いを寄せるストリッパー、キャシディに会うためにストリップクラブへ通うだけという孤独な毎日を送っていた。

かつて歴史に残る名勝負となったジ・アヤトラー戦20周年記念興行として、ジ・アヤトラーとの再戦が決まり、メジャー団体への返り咲きもあり得ると意気込むランディだったが、ある日の試合後、突然心臓発作を起こし病院へ運ばれたランディは、医師に引退を宣告されてしまう。

引退を余儀なくされたランディはキャシディに諭され、ずっと疎遠になっていた娘のステファニーと関係を修復しようとするが…


家族を失い、仕事を失い、誇りや居場所さえも失いかけた彼は、自らの命を懸けてもう一度リングに立つ。



登場人物

☆ランディ・“ザ・ラム”・ロビンソン

80年代人気を誇ったレスラーだが、今は落ちぶれてスーパーでバイトをしながら小さな団体で細々とプロレスを続けている中年レスラー。
必殺技はコーナーポストからダイブし、相手の体に両肘を落とす『ラム・ジャム』

近所の子供と遊んだり後輩にアドバイスを送るなど、世話好きで落ち着いた性格をしているが、反面無計画でだらしなく、娘ステファニーとの復縁のチャンスをバーで知り合った行きずりの女とのドラッグ&セッ○スのせいで寝過ごしてすっぽかすなど、酷いダメ親父
プロレスでしか生きていけない不器用で哀れな男とも言えるが、どうしようもないクズだとも言えるため好き嫌いが分かれる。
この映画を好きになれるかどうかは彼に感情移入できるか否かにかかっている。





☆キャシディ

ランディが好意を寄せる年増のストリッパー。彼女自身もランディの相談に乗ったり、非番の日に娘へのプレゼントを一緒に選んであげるなどまんざらでも無かったようだが、客とは恋人になれないという信念を持っているため、一線を越える事を嫌がっている。実は子持ち

蜘蛛男の叔母ではない。



☆ステファニー

ランディの娘。母親とは死別し今は友人と一緒に住んでいる。ランディが自分と母親を捨ててプロレスを選んだ事を憎んでおり、復縁しようとするランディを拒絶する。



☆ジ・アヤトラー

20年前にランディと名勝負を演じ、20周年を記念して再戦する事になったイスラム系のレスラー。ランディとは対照的に既に引退しており、現在は中古車販売会社を経営。順調なセカンドライフを送っている。
本作公開後に彼の典型的イスラム系ヒールレスラーのキャラクターや、ランディがイラン国旗をへし折るシーンなどに抗議が殺到した。(もっともこの手のレスラーはいつの時代も一人はいる定番のキャラクターである)



★その他にも米最大のプロレス団体『WWE』のR-トゥルースことロン・キリングスやデスマッチ団体『CZW』の「デスマッチ・ジーザス」ネクロ・ブッチャーをはじめ、多数のレスラーが出演している。



評価

プロレス版『鉄道員(ぽっぽや)』とも言える一人の不器用な男の哀愁と、過酷なプロレスの実情を見事に描ききった作品と評価は高く、ヴェネツィア映画祭金獅子賞、ゴールデングローブ主演男優賞を受賞している。



物語前半には


  • プロレスラー同士がフィニッシュまでの段取りを打ち合わせする

  • 試合中はどんなに痛めつけあってもバックステージでは互いに敬意を表す

  • 肉体を維持するためにステロイドや栄養剤などの大量の薬を飲みまくる



などの、普段は決して知られる事の無いプロレス興行の裏側を描いており、プロレスを知らない人でもプロレスファンでも楽しめる作品になっている。
また登場人物を後ろから追いかけるようなカメラワークもが多く、まるで『プロレス』を追ったドキュメンタリーにも見える作品である。

実際ミッキー・ローク自身、それまでレスラーに対しては敬意を払えなかったそうだが、今作の出演をキッカケに尊敬できるようになったと発言している。




しかし前述の通り、主人公の振る舞いなどに嫌悪感を抱く人も多く「共感できない」とする意見も多いため




どうしようも無いくらいバカで不器用な男の哀愁漂う感動のヒューマンドラマ



自業自得で体を壊した挙句に、弱った途端に娘に擦り寄ろうとする自分勝手なクズのお話




と、その評価は真っ二つ分かれる。

事実、映画評論家の町山智浩や、自身のラジオで「シネマハスラー」という映画批評コーナーを持つラッパーの宇多丸は絶賛していたが、同じく映画批評のコーナーを持っている稲垣吾郎は「最初から人生をちゃんとやっていればいいだけの話」と酷評だった。



非常に理性的で常識的な人、特に女性には拒否反応が大きいと思われるが、ランディに共感してしまった人達にとっては、不器用で悲しい男の生き様が心に刺さる至上の男泣き映画である。



余談

●演じたミッキー・ロークはプロボクサー経験もある俳優だが、この映画の出演のためにアファ・アノアイ(ザ・ロックなどを輩出したアノアイ・ファミリーの総帥)の元で約3ヶ月トレーニングを積んだ。
またミッキー自身、ランディ同様80年代スターだったがその後しばらく迷走と低迷を続けるなど、ランディと重なる点も多い

●ランディの明確なモデルについては言及されていないが、D.D.T(プロレス技)の開発者にして80年代~90年代初頭にかけてのスター選手だったジェイク・“ザ・スネーク”・ロバーツがランディのような人生を歩んでいる。彼の物語については映画「ビヨンド・ザ・マット」を見ると非常に似ている事がわかる。
また、ランディの風貌がどことなくブレット・“ヒットマン”・ハートに雰囲気が似ているが、彼もまたかつてのスターから落ちぶれてしまい、その後命に関わる大病を患ったりと似たような人生を送っている。

●本編最後の試合の入場シーンで流れる曲はGUNS N' ROSESの名曲「Sweet Child O' Mine」。この曲はミッキーがボクサー時代に入場曲としていた曲で、同バンドのリーダー、アクセル・ローズはこの曲を無償で提供している。

●上記の他にも80年代に人気のあったハードロック/ヘヴィメタルバンドの曲が作中でいくつも使用されたり、ランディとキャシディがそれらのバンドの名前を出し合いながら昔を懐かしむなど、随所で良いエッセンスとなっている。

●元々はニコラス・ケイジのような大物俳優を使う代わりに製作会社が多額の製作費を用意する予定だったが、監督がミッキー・ロークを主演とする事にこだわったため、非常に少ない予算での製作を余儀なくされた。

●監督曰く、自身の次回作「ブラックスワン」とは姉妹作らしく、元々プロレスラーとバレエダンサーの恋物語になる予定だった物を二つに分けた作品らしい。
 そして「プロレスは最も低俗な芸術だと思われており、(もしまだ芸術と呼ぶならと前置きしつつ)バレエは最も高潔な芸術と思われているが、この二つはとてもよく似ている」という旨の発言をしている。

●ミッキー・ロークは映画のプロモーションのためWWEの番組に出演。その際にミッキーやWWEのレジェンド級レスラーをバカにしたクリス・ジェリコと抗争するストーリーが組まれWWE最大の興行レッスルマニアにてクリス・ジェリコをパンチでノックアウトさせている。

●本作のDVDパッケージに「みのもんた」のコメントが載っているが、映画を観た人が読むと「こいつホントにこの映画観たのか?」と思うようなコメントを寄せている。

●ランディが病院で診察を受ける際「ラムジンスキーさん」と呼びかけられる場面がある。ランディ・ロビンソンは本名のロビン・ラムジンスキーをもじって名前を付けたものと思われる。名前から東欧系と推測されるが「イヤー・オブ・ドラゴン」や「アイアンマン2」などでもロシア・東欧系の人物を演じている。





バカで勝手でだらしなくて無計画で不器用で愚直でどうしようもないダメ親父のランディが嫌いになれない方、追記・修正お願いします。

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最終更新:2023年05月25日 12:09