1984年(小説)

登録日:2014/04/02(水) 16:06:14
更新日:2024/03/02 Sat 08:34:34
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1984年*1とは、1949年にイギリスで出版されたディストピア小説のことである。
作者は『動物農場』で有名なジョージ・オーウェル。

●目次

概要

全体主義国家によって支配された近未来世界の恐怖を描いた作品。
作中の国家はオーウェルが1948年に執筆した当時の、スターリン体制下のソ連などを参考にしている。
1984年というタイトルは執筆年の4と8を並べ替えたもので、この作品世界が現実と地続きであることを示している。

当時は米英陣営とソ連陣営が冷戦下にあり、その最中に出版された本作は爆発的にヒット。
特に反集産主義者にとってはその道のバイブルとも言うべき存在になった。
オーウェル自身は批判の意図をこめて執筆したわけではないといわれているが、実際には「共産主義やファシズムで実現している部分を倒錯的に暴露する」という目論見があったことを本人が1949年に明かしている*2
また、後に露米が冷戦に突入した時も反共産主義には好んで読まれていた。

当作品の魅力的な独自設定は語彙にすら影響を与えており、日本でも平沢進の「Big Brother」や、コナミの「METAL GEAR SOLID V THE PHANTOM PAIN」などでこのwikiを読むような年齢層にも知れ渡ったことから、この作品に由来する言葉がたまに使われる。
大体覚えやすい「二分間憎悪」や「2+2=5」あたりをもじったものや、1984年をその作品と強引に結びつけるなどの大喜利にも用いられる。というかそういう素朴な使い方以外だと大体政治議論になっちゃうので……。

なお割と勘違いされがちだが、本作はディストピア小説というジャンルの「代表作」ではあるが「元祖」ではない。
実際の元祖には諸説あるが、一般的には1895年のウェルズの「タイム・マシン」や、未発表作品も含めれば更に遡って1865に執筆されたヴェルヌの「20世紀のパリ」がその草分けとされる事が多い。ビジョナリアムコンビ
当時の共産主義国はその内情が秘密であり、そういった「胡散臭い見えない敵」を悪の帝国として描いてほしかったという市民感情にも実にマッチしたことで大変有名になった本という位置づけ。
当作品の執筆にあたって練りこまれた複雑な設定は、そういうのを語りたがるオタク気質の人々を昔から魅了し、設定語り系の項目が洋の東西を問わず世界各地のwikiで立てられているほど。
ちなみに中華人民共和国でも現在は禁書に指定されていない。


あらすじ


第三次世界大戦を経て、1984年には世界が3つの超大国に分割統治されていた。
ユーラシア、イースタシア、そしてオセアニア。
それぞれの超大国は一党独裁体制を敷き、社会や権力を維持するために戦争を繰り返している。


オセアニアの一部「エアストリップ・ワン」・・・かつてイギリスであった区域。
ロンドンに住む主人公ウィンストン・スミスは、真理省の役人としてオセアニアの歴史改竄の作業を遂行していた。
オセアニアは常に党とそのリーダー「ビッグ・ブラザー」の意に沿って記録が書き換えられるため、
本当の過去や歴史は誰にも分からない。
スミスはそんな今の体制に疑問を持ち、ノートに自分の考えを記し始めるようになる。
このような行為はオセアニアにとって極刑同然の犯罪であった。


やがて疑問が確信に変わったある日。
スミスは同僚の若い女性、ジューリアとの出会いを通じて愛に目覚めた。
性にまで抑圧をかけるこの国において、二人が心から愛し合うには時間が掛からなかった。
しかし、街は常に「テレスクリーン」が内外を監視し、禁じた行為を決して許さない。
二人はチャリントンという老人の協力を得て、古い店を隠れ家にして身を移すことにした。


更にスミスは、党の高級官僚オブライエンと接触する。
彼から渡されたエマニュエル・ゴールドスタインの禁書を読み、この国と党の恐るべき裏側を知っていく。

だが、既に何者かが密告していたことをスミス達は知らなかった。スミスは思想警察に逮捕され、尋問と拷問の末に愛情省の「101号室」で思想を矯正させられる。
自分の信念を徹底的に打ち砕かれて党の思想を受け入れた彼は、最終的には心から党を愛すようになる。


大筋の物語はここまでであり、非常に後味の悪いバッドエンドとして名高い。
ただしラストシーンに付録としてついている「ニュースピークの諸原理」で、論文の体裁を取った文章によってこの作中世界の複雑な設定を明かしつつ、
その文章の表記の方法によって「この論文が書かれている未来には党の支配が崩壊したのではないか?」となんとなく読者が感じ取れるような仕掛けが施されている。



登場人物

  • ウィンストン・スミス(Winston Smith)
主人公。
真理省に勤務する39歳の男性で、ネズミが苦手。
妻のキャサリンは現在別居中。
(実際は義務的な結婚に過ぎず、二人の愛情は最初から無いようなものである)
しばしば空想の世界に耽る癖がある。
ふとしたことで現体制に疑問を持ち始め、ジューリアやオブライエンとの出会いで党の裏側を知っていく。
だが最後は・・・・・・


  • ジュリア(Julia; ジューリア)
真理省に勤務する26歳の女性。
表面的には熱心な党員を装う一方、独身主義を提唱する「青年反セックス連盟」活動員としての顔を持つ。
実際は何人かの党員と肉体関係を持っており、そのおかげで内部事情に詳しい。
スミスと同じく現体制に疑問を持つが、自分自身に関係のないことには例え改竄だろうと興味がない。


  • オブライエン(O'Brien)
国の中枢権力「党内局」の一人である高級官僚。
反体制の秘密結社「兄弟同盟」の一員を名乗る男で、党に疑問を持つウィンストンに賛同するが・・・


  • トム・パーソンズ(Tom Parsons)
ウィンストンの隣人でピザ。同じく真理省に勤務。
完全に脳みそが洗脳されきった献身的な党員である。


  • パーソンズ夫人(Mrs. Parsons)
トム・パーソンズの妻。30歳くらいのはずなのにかなり老け顔。
なお、夫妻の幼い息子と娘は父親同様に洗脳されており、あろうことか親を密告する機会を狙っている。
これがホントの恐るべき子供達・・・


  • サイム(Syme)
ウィンストンの友人で饒舌な言語学者。
ニュースピークの開発スタッフの一人でもあるが、ニュースピークが「言語を破壊する」ことに興奮している変態。そんな彼自身も・・・


  • チャリントン(Charrington)
古道具屋の主人。
かつての時代に愛着を持っている老人で、ウィンストンとジューリアに隠れ家を提供した。しかし・・・


  • ビッグ・ブラザー(偉大な兄弟 Big Brother)
党のリーダー、そしてオセアニアの最高指導者。
街中の至る所に彼の肖像をあしらったポスターが貼られている。

本名は不明。そもそも、本当にそんな人物が存在するかどうかさえ不明である。
ニュースピークの下では、彼の名前さえ「B-B」と抽象的に呼ばれることが多くなっている。
実際には「神」や伝説の人物めいた、精神的存在なのかもしれない。

モデルは個人崇拝を推し進めた粛清大好きおじさんことヨシフ・スターリン。


  • エマニュエル・ゴールドスタイン(Emmanuel Goldstein)
かつてビッグ・ブラザーと同志だった老人。
しかし後に離反、反革命活動を起こして指名手配され、今は「兄弟同盟」の指揮に当たっているらしい。
毎日テレスクリーンの「二分間憎悪」で党員の憎しみと恐怖の対象にされる。というか彼もビッグ・ブラザー同様「共通の敵」として生み出された虚像という可能性もある。
彼の書いた禁書「寡頭制集産主義の理論と実践」は党の裏側について暴露した貴重な書物。

モデルはソ連の政治家レフ・トロツキー。



設定・用語

地理

第三次世界大戦を経て1984年現在、世界はオセアニア、ユーラシア、イースタシアの巨大な三国に分かれている。
オセアニアは南北アメリカ+イギリス。
ユーラシアは残りのヨーロッパ諸国。
イースタシアは中国・日本・インドなどのアジア全域を占める。

残りのオーストラリアなどは、三国が日々奪い合う「係争地帯」となっている。

分かりやすく言うとオセアニアがユニオン、ユーラシアがAEU、イースタシアが人類革新連盟の範囲。
各国間では同盟や敵対が繰り返され、世界征服のために戦争が続いている。

だがこれは表向きの名目。
実際は戦争による消耗で富のバランスを保ち、階級社会と権力を維持するための永久戦争に過ぎない。
また、地理的な環境・経済規模からそれぞれの国を物理的に滅ぼすことも不可能である。


・・・とは言ったが、作中では殆どテレスクリーンと禁書を通じた情報なのでぶっちゃけ真偽のほどは不明。
もしかしたら戦争など無いのかも知れないし、そもそも他の国なんて無かったのかもしれない。
それこそどっかのパラノイアよろしくオセアニア以外全部滅びていた、なんて憶測も立てられてしまう。
あるいはもうエアストリップ・ワンしか存在しないのかもしれない。いやむしろ(ry
いずれにせよ、改竄された歴史の前において真相は闇の中である。

掲げているスローガンは

  • オセアニア
イングソック(INGSOC)」 ― イングランド社会主義(English Socialism)

  • ユーラシア
ネオ・ボルシェビズム(Neo-Bolshevism)」 ― 新・超急進的社会主義

  • イースタシア
死の崇拝(Death-Worship)」 ― 滅私[自己滅却](Obliteration of the Self)

である。が、基本的な性質はどこもそんなに変わりないようである。
例えば、イデオロギーの字面だけ読む限りでは、イースタシアだけ他の二国に比べて情緒的に見える。
しかし、ビッグ・ブラザーは「愛情あふれる胸(the loving breast)」で国民を包んでいるとされており、
オセアニアの土台にも感情主義や個人崇拝があることは窺える。


ビッグ・ブラザーが率いる唯一の政党。
イデオロギーとして掲げる「イングソック(イングランド社会主義)」は一種の社会主義であるが、
例によってその正確な歴史は誰も知らない。
ハッキリしているのは、社会主義を名乗りながら実際の原理は根本から異なっていることである。


テレスクリーン等を通じて、国民の生活のすべてを統制・監視している。
その範囲は思想・言語・結婚などなど・・・・・・中でも性に関しては特にヒドイ。
心理学的に性本能を抹殺し、性行為から快楽を除去しようとしている程
ゆえに党員にとっての結婚~繁殖行為は義務的な儀式に過ぎず、そこに肉欲は一切認められない。
地獄じゃね?


党のスローガン
  • 戦争は平和である(WAR IS PEACE)
  • 自由は屈従である(FREEDOM IS SLAVERY)
  • 無知は力である(IGNORANCE IS STRENGTH)


省庁

  • 平和省(Minipax)
オセアニアの平和維持に貢献する省庁。
実際は軍隊としてよその国に戦争を仕掛けている。


  • 豊富省(Miniplenty)
食料や物資の配給・統制を行う省庁。
実際はロクに行き届いておらず、常に欠乏状態。
しかし党はそれでも「供給は増えた」ことにしている。

  • 真理省(Minitrue)
スミスの職場にして主要な舞台。
オセアニアの正しい歴史と党の情報を提供する省庁。
実際は党のプロパガンダを務めており、党の発表に合わせて記録を改竄し続けている。
恐らく4つの省庁で(現実的に見て)一番ろくでもない組織。


  • 愛情省(Miniluv)
国民にビッグ・ブラザーを心から愛してもらうための省庁。
他の省とは一線を画した徹底的な秘密主義と権力を持ち、その実体は謎に包まれている。
実際は反逆分子を尋問・拷問するための場。
だが、拷問を経て反逆者は最終的にビッグ・ブラザーを心から愛するようになるため
皮肉にもこの省庁だけ名前通りの機能を果たしていることになる。



テレスクリーン

国民を監視するために設置されたテレビ型装置。
内蔵されたカメラが常にテレビの前の視聴者を監視しており、不穏な企みを未然に阻止する。
詳しくはリンク先で。


ニュースピーク

党が国民の思考を統制するために生み出した新言語。
簡単に言えば「都合の悪い表現が奪われた英語」。
詳しくはリンク先で。


二重思考(ダブルシンク)

党が国民に実践させている思考能力。
簡単に言えば「矛盾を受け入れる思考」。
本作の重要な概念であり、けっこう難解なので詳しくはリンク先で。


階級

オセアニアの権力階級は以下の通りになる。


  • 党内局
党の中枢を担う上層階級。要は官僚や貴族と似たようなものである。
後ろ2つの階級に比べると生活水準が非常に高い。


  • 党外局
党の実務を担う中層階級。国の仕事はほとんど彼らが行っている。
同じ党員なのに後述のプロレ並に生活水準が低い。むしろ彼らこそが最も監視・管理すべき対象。


  • プロール(プロレ)
労働力を担う下層階級。人口の大半を占める。
プロールは新版からの日本語版の呼称でそれまではプロレと訳されていた。
まともに教育を受けることなく、10代の頃から労働を強いられる過酷な運命にある。
党を転覆させる力など無いと見くびられているようで、彼らだけ生活・性ともに監視の対象外。
一般的な娯楽(小説・歌謡曲・スポーツ新聞・宝くじ・ポルノなど)は普通に提供されているが、
党が提供するものはどうしようもなく人畜無害である。
通称「プロレフィード」(プロールのエサ)。



思想警察

国民の思想犯罪を取り締まるための警察機構。
『1984年』のオセアニアは反体制的なことを考えるか、
自由について考えを求めること自体が犯罪行為と認定されており、それを破ったものは『蒸発』する。
蒸発した者は『非存在』として完全に存在を抹消されr・・・失礼、その人物は初めから存在していなかった。

ただし、二重思考などによってただちに考えを取り止めれば「犯罪中止」としてお咎めにはならない。
正直お咎めなんてかわいいもんじゃ済まないけどな!


兄弟同盟

ゴールドスタインの組織。
党は構成員を徹底的に探しているが、未だ壊滅させることはできていない。
オブライエン曰く、芋づる式に捕まることを防ぐために他の構成員の名前は数人しか教えられず、任務の詳しい意味なども知らされない。また、組織のためであれば祖国はもちろんのこと自身や家族や無関係な人の命までも犠牲にする覚悟が求められる。
・・・ある意味やってることは党と変わらない部分も多いし、何ならこの話も本当なのか、そもそも兄弟同盟自体も反体制派を炙り出すための作り話なのか・・・


余談

  • 実写映画
現在
  • マイケル・アンダーソン監督
  • マイケル・ラドフォード監督
による2種類の『1984年』が存在している。
このうち日本で公開されたのはラドフォード版のみである。
アンダーソン版はアメリカ公開時に結末を大幅に変えた事から
オーウェルの遺族の怒りを買い、公開差し止めをめぐって騒動に発展した。


  • Apple
また、リアルの1984年にはリドリー・スコット監督によって実写化されている。
ただし映画ではなく、Appleの初代MacintoshのCMとしてだが。
このCMはアメリカで最も注目されるスーパーボウルで放送するための大作で、
時間は一分ほどだが短編映画並みのクオリティを誇る。

その結論は、当時覇権を握っていたIBM(愛称:ビッグ・ブルー)をビッグ・ブラザーに見立て、それをぶっ壊した上で
「On January 24, Apple Computer will introduce Macintosh. And you'll see why 1984 won't be like "1984"」
つまり、Macintoshが出るから現実の1984年はここまで悲惨にならないという意味。

2020年には、ゲーム『フォートナイト』とAppleが対立した際、『フォートナイト』側がこのCMをパロディし、Appleを圧政側として描くという趣返しに出たことがある。


  • 本作に影響を受けた作品
例えば文学では『時計じかけのオレンジ』『図書館戦争』『1Q84』、映画は『華氏451』『未来世紀ブラジル』、ゲームでは『METAL GEAR SOLID V THE PHANTOM PAIN』など、影響を受けた作品は挙げればキリが無い。
特に『未来世紀ブラジル』は監督が「これは1984年版『1984年』だ」と語るほどインスパイアを受けている。*3
サブカルの類でたまに出てくる「○○ is watching you!」というポスターもこれが元ネタ。


  • 余談
「非の打ちどころのない大変な名著」のようなイメージがまかり通っているが、読み終わった人の感想は大体口をそろえて「胸糞悪い終わり方だった」だったりする。
中には他の作品の方が面白かったと実に素直な感想を述べる人も珍しくない。
そういうこともあるので、あらすじだけ読んで知った気になると本当にもったいない。図書館には絶対に置いてあるはずなのでぜひ読もう。
読む人によっては「キリスト教的すぎる」みたいな感じで結構批判したくなる点も出てくる。そういう「批判を許してもらえる」「議論を戦わせることができる」のもひっくるめて、自由な社会の味を噛み締められるということも含めて大変な名著である。


追記・修正は誠実な党員の方にお願いします。

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最終更新:2024年03月02日 08:34

*1 原題は単に「1984(Nineteen Eighty-Four)」で、邦訳版でも訳者によっては「1984」としている物もある。また、「1984年 小説」で調べると1984年に刊行された小説がヒットするという懸念や日本の文庫本の縦書き表記との整合性などもあり、利便性などを慮った「一九八四年」と表記されたものもある(ハヤカワepi文庫の新訳版など)。

*2 オーウェル自身も、ファシストよりさらにひどい全体主義を取るソ連のことを嫌っていた。

*3 公開年は1984年から1年遅れた1985年。