ニュースピーク(1984年)

登録日:2014/04/02(水) 15:52:55
更新日:2024/04/13 Sat 10:54:41
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「正統は思考することを意味するわけではない。その意味するところは思考する必要がないこと。正統とは意識の無いことなのだ。」

「グッド・グッダー・グッデスト!!」


ニュースピーク(Newspeak)とは、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に登場する言語のことである。



概要

超大国オセアニアが国民に広めている(強制している)新言語。
本作の世界観については『1984年』の項目を参照。




全体主義国家のオセアニアは党が独裁権力を振るっており、
階級制度による意図的な不平等、テレスクリーンを通じたプロパガンダなどで国を支配している。
しかし言葉というものが存在する限り、幾らでも体制に反抗する主張はまくしたてることが可能。
そこで政府と党が考えついたのは、国民を言語の面からコントロールする事であった。

そうして生まれたのが新たな英語・・・「ニュースピーク(新語法)」である。


ニュースピークは我々が知る英語(作中では「オールドスピーク」)を元にした言語である。
だが、文法や語彙の幅は大きく狭められており、更に改訂版が出るたび単語の数は減少していく。
何故なら国民の発想が単純化し、党のイデオロギーに基づいた管理が可能となるため。
これに二重思考が組み合わさることで、反体制的な思想を表現することは限りなく不可能に近い。
言葉はともかく、文字ではどう足掻いても思い通りの表現が果たせない・・・恐ろしい限りである。
極端な話、全てがニュースピークに切り替わってしまえば、今我々が話している内容の殆どは誰も理解することができなくなる。
可能なことと言えば、体制を礼賛する全く違う言葉にすり替えられてしまうか、
全文をたった一言「crimethink」(犯罪思考)と訳されることぐらいである。

とはいっても、作中では完全に広まっている訳ではない。
徹底されているのは党が発行する新聞ぐらいで、人々はまだニュースピークだけで読み書きが出来ないため
一応オールドスピークは健在というのが実情である。
全てがニュースピークに切り替わるのは、作中時間で2050年を予定している。気の長い話だ。

『1984年』の巻末には、作中の何者かが書いたとされるニュースピークの説明が過去形の記述で載っている。
(何者かは最後まで明かされない)


原理

基本は英語からの発展系である(発展と呼べるかは正直怪しいが)。
ニュースピークの語彙は全部で3種類に分けることが可能で、
種類に関わらずイデオロギーに反するような意味は制限・排除されている。


A語彙群

日常用語。
英語と違うのは曖昧な意味を排除し、1つの明白な意味に固定していること。


「free」を例に挙げる。
通常なら“自由”という意味で、文章によっては「自由に発言する」「この支配からの卒業」
等、書き手の表現次第で意図した表現をすることが出来るはず。
しかし、ニュースピークではそのような曖昧性や政治的意味は排除され、
~が無い」という概念的な意味しか持たなくなっている。
例:彼女からfreeである(彼女がいない)、乳からfreeである(乳がない、くっ)


※余談だが、オセアニアでは国民の性的感情すら抑制されている。



B語彙群

英語にはない造語、および合成語群。
おもに政治的目的のために生み出された。


大半は婉曲的な意味を含んでおり、また正反対な意味の語を用いていることが多い。
これはオセアニア国民の二重思考を支えるためのもので、
あえて実態との矛盾を引き起こす事により、両方を意識的に信じることを可能にするため。
まるで意味がわからんぞ!という人は二重思考の項目で。


単語の一部
Ingsoc イングランド社会主義(党のイデオロギー) thinkpol 思想警察
goodthink 正統性・正統的に考える oldthink 邪悪な旧思想(客観性・合理主義など)
crimethink 思想犯罪(反体制的なすべての思想) crimestop 犯罪中止(思想犯罪につながる思考を止める)
goodsex 健全な性・純潔 joycamp 歓喜キャンプ(強制収容所)
ownlife 個人主義的な逸脱した行為 doublethink 二重思考
prole プロレ・労働者 Prolefeed プロレの餌(人畜無害な娯楽作品)
Minipax 平和省(オセアニア軍) Miniplenty 豊富省(食料・物資の配給と統制を行う)
Minitrue 真理省(プロパガンダ・改竄を行う) Miniluv 愛情省(反体制分子の逮捕・拷問・処刑を行う)



C語彙群

科学用語・技術用語。
上記の2群を補うための用語だが、例によって政治的意味は排除されている。
更に「科学」という用語は既に存在しておらず、
それどころか科学的な思考を行うこと自体が思想犯罪に定められている始末。



簡略・代用

ニュースピークは現代英語を最小限まで簡略化することを目指しているため、
所々で単語の簡略化や代用が行われ、結果的に統合が進んでいる。
以下にその一部を挙げていく。


  • 単語は動詞にも名詞にも転用可能
例えば「thought」(思想[名詞])は、「think」(考える[動詞])で代用が利くため存在しない。

  • 接尾語による代用
「speed」(速さ[名詞])は後ろに形容詞の「-ful」、副詞の「-wise」をつけることでそれぞれの品詞になれる。

  • 接頭語の「un―」で反対語を表現
「good」(良い)の反対である「bad」(悪い)は「ungood」(非良い)で代用できるため存在しない。
一見「unlucky」と似たようなものだが、こっちは更に代用範囲が拡大している。
また、強意表現は「plus-」(超)「doubleplus-」(倍超)が使われる。
例えば「good」を強調するときは「plusgood」チョーイイネ超良い)、「doubleplusgood」(倍超良い)といった具合。

  • 単語はすべて二節音、三節音の略語に纏める
前述した「Minipax」(ミニパクス)「Minitrue」(ミニトゥルー)などもその一部。
そのため歯切れよくスマートに発言ができる。
(実際は発する言葉の語源を深く考えさせず「正しいこと」だけを喋らせるためなのだが)

なおこれは、共産圏の国家が「コミンテルン」(共産主義インターナショナル)、「コミンフォルム」(共産党および労働者党情報局)といった具合に、
組織の名前に思想性を感じさせないよう歯切れのいい略語でカモフラージュしたという事実を参考にしている。

二重語法(ダブルスピーク、Doublespeak)

権力による都合のいい言葉の言い換えやイメージ操作のことを指す俗語。
作中で言うと「duckspeak」(アヒル語)という言葉がある。
これは「アヒルのようにガーガーまくしたてる」という意味だが、
敵に対して使うと悪口になり、党員に対して使うと「正統的な言動をしている」という意味の褒め言葉になる。
この言葉自体は作品の中に出てこないが、この作品にちなんだ用語である。
現実で言うと「リストラ」や「青少年保護育成」などの言葉が(ry

余談

ニュースピークの創作に辺り、オーウェルは実際の人工言語(ベーシック・イングリッシュ)や軍隊の用語を参考にしたとされる。

前述の通り、『1984年』の最後には附録として「ニュースピークの諸原理」なるエッセイ過去形で描かれている。
このエッセイ、全てが過去形で書かれており、しかも当然普通の言語(オールドスピーク)で書かれている。
ぶっちゃけるとこの項目の記述の大半はそれが出典である。

ニュースピークが過去形で、しかもオールドスピークで評論されているということから、ある推測が浮かび上がる。
つまり、この後何らかの理由でイングソックが破綻し、
このエッセイが未来の誰かによって「ニュースピークとはなんだったのか」という形で書かれているというものである。

ただし、作中にそれを裏付ける証拠はない。
むしろ作中に救いがあまりにもなさすぎるので、そうでも思わないと辛すぎるというのもなくはない。

なお、この「ニュースピークの諸原理」は作品とは独立した章なのだが、
オーウェルは英国の読書人クラブと大揉めしてまでこの章をねじ込んだということを付け加えておく。


項目全部方式倍超馬鹿馬鹿シク犯罪思考ノ域ニ達シ超全部追記修正ピリオド

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最終更新:2024年04月13日 10:54