ハチクマ

登録日: 2013/12/27(金) 14:26:33
更新日:2024/02/04 Sun 09:30:25
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 日本で毎年最も多くの人々を死に至らせている、世界最大級のスズメバチの仲間「オオスズメバチ」。バイクより早いスピードでその獰猛かつ凶暴な性格で様々な獲物を容赦なく捕え、一度襲撃を受ければどんなハチの巣も幼虫やさなぎを根こそぎ奪われ壊滅させられてしまう。まさにその姿は、世界一恐ろしい昆虫とギネスブックが認めるにふさわしいものだろう。

 ……だが、この大自然はそう簡単に「最強」の座を与える事は無い。どんな存在にも、何をやっても絶対に勝てない「天敵」と言う物が存在するのである。そして、それはオオスズメバチも例外ではない。その「天敵」の前には猛毒の針も強力な顎も集団戦法も何もかも通じず、ただおどおどと逃げまどうしか取る手段は無いのである。


その天敵の名前は「ハチクマ(Pernis ptilorhyncus)」。

ワシやタカなど猛禽類の一種で、名前の由来はハチを食べ、かつ姿がクマタカに類似していることから。

◆概要


 ハチクマの主な生息域はユーラシア大陸の東部で、ロシアからインドまで幅広い地域に分布する。ロシアや中国、日本など北に巣を作る者たちは、冬になると暖かい場所に移動する渡り鳥の生活を送っている。

 日本には夏になると東南アジアから子育てのためにやって来て、九州より北側の日本各地で暮らす。毎年冬になると日本を離れて東南アジアへ帰っていくのだが、毎年同じ縄張りを利用しており、巣も毎年使い続けているため。そのため、古い巣ではかなり大きいものもあると言う。またトイレ代わりにいつも巣の下に糞を落としているためにその部分の土は非常に栄養に富んだ場所になっている。そこを目当てにすくすくと育つ甲虫(アカマダラコガネ)の赤ちゃんもいるほどだとか。
 ただ、他の猛禽類が行動範囲を巣の周りなどに留めているのに対し、ハチクマは数十キロ先まで飛び回る事が知られている。餌であるハチの巣を探すのはやっぱり大変なのである。

 首が長く、翼も体と比べて長いのが外見上の特徴。

◆狩り


 冒頭にも述べた通りに、ハチクマが大好きな食べ物はハチ、特にスズメバチやアシナガバチなど群れを作る肉食性のハチの幼虫やさなぎが大好物である。
 もちろん自分も食べるのだが、それ以上に高タンパクな栄養源を子供にも与え、ぐんぐん大きくさせると言う目的も大きい。夏の間にたっぷりと子供を育て、冬が近づいた時までに長距離を飛べるようにさせると言う訳である。

 ハチクマが標的にする肉食性のハチの巣は、樹の上や軒下にあるような大きなボール状のもの以外にも、土の中の空洞にある大きな構造物をいうパターンも多い。最強のスズメバチである「オオスズメバチ」も後者のパターンであり、地下にある巣に気付かずに近づいて刺されてしまうと言う人間の被害が後を絶たないと言う。
 だが、そのようにカモフラージュをしても、ハチクマの前では全く意味を成さない。様々な虫たちが元気に動きまわる夏場には地面に空いた出入り口からたくさんのハチが獲物を探しに出入りするのだが、ハチクマの鋭い視線は、木の上からでも上空からでも決してそれを見逃す事が無いのだ。

 狙いを定めたハチクマはそのまま地面に降り立ち、大きく頑丈な両脚で巣の真上から土を掘り起こし、一気に攻め立てる。そして地表に巣が見えてきた所で、その鋭い嘴や脚を器用に使って巣の中の幼虫やさなぎを容赦無く食べ尽くしてしまう。そればかりか、ハチの巣の一部分を剥ぎ取って自分の巣に持ち帰り、そこに付着していた幼虫やさなぎを子供たちに与えてしまうのである。

 ハチクマが傍若無人に暴れまくっている間、ハチたちは何をしてるかというと、反撃するわけでも果敢に攻撃するわけでもなく、ただハチクマの周りを逃げまどうしかない*1という悲惨な状況となる。あのオオスズメバチですら、一切の手も足も出ず、ただ巣を壊され我が子を餌にされていくのを見届けるしかない。普段は他のハチの巣を壊滅させる側にいるオオスズメバチが、ハチクマの前では真逆の立場になってしまうのだ。

 何故オオスズメバチですら攻撃をしないのかと言う理由はまだよく分かっていない。現在の所考えられる理由は大きく分けて二つあり……

  • 体や羽を覆っている羽毛が非常に頑丈で、オオスズメバチの鋭い毒針でも刺す事が出来ない
  • ハチクマから漂う体臭やフェロモンがハチにとって凄まじく嫌な匂いとなっており、近寄る事すら出来ない
 ……と言う感じである。
 ともかく、日本のスズメバチやアシナガバチに対する最大の脅威の一つであるのは間違いないだろう。

 しかも、ただでさえ強力なこのハチクマ、他の猛禽類と違ってそこまで餌を独占する性質ではないため、複数のハチクマが一つの蜂の巣に対して連携して襲撃をかけることもあるそうで、ハチにしてみたら、一体でも全く敵わないというのに、それが複数で集団リンチしてくるというたまったものではない事態である。

 ちなみにハチが減ってしまう秋や冬にかけては昆虫やカエル、トカゲ、ネズミなども獲物にする。


 親が持ってきたハチの子や様々な肉をたっぷり食べて大きく育ったハチクマの子供は生後一カ月ほどで巣から旅立ち、その後二カ月後に親から独立して一人で東南アジアへ渡っていく。そして夏になると再び日本に舞い戻り、新たな縄張りを作る事となる。

 実は若い頃はまだ羽毛などが未発達のため、スズメバチの猛烈な逆襲を受けてしまう事もあると言う。しかしそれを乗り切れば、ハチクマはスズメバチが手も足も出ない最強の天敵として君臨するのである。

◆天敵


 ……ただ、そんなハチクマにもやはり天敵は存在する。

 特に苦手としているのは、イヌワシやオオタカ、クマタカなどの同じ猛禽類の仲間。彼らはハチクマより体が大きく、空から襲われればひとたまりも無い。特にオオタカは餌としてハチクマの巣にいる子供たちを狙う事があり、親は必死になって恐ろしい捕食者から子供を守り続ける。
 また、他の鳥たち同様にカラスやヘビも卵や子供を狙う厄介な相手である。


 また、ハチクマ自身は非常に警戒心が強い鳥であり、人間がうっかり不用意に近づいてしまうと子育て中でも巣を放棄してしまい、最悪の場合次の年から一切その場を訪れる事が無くなってしまうと言う。

 皆様も優秀なハンターたちの仕事を邪魔しないようにして頂きたい。


◆余談

  • 養蜂場では、ミツバチの巣を襲うこともあるので、嫌われていると思いきや、巣箱が頑丈で自力で破壊が困難らしく、遺棄された雄巣をチマチマと食べている様子が観察されており、また、非常に警戒心が高く、人の姿を見るだけで逃げていくのでそこまで被害はないとのこと。むしろ人間は勿論、ミツバチが全滅しかねないスズメバチを積極的に襲っているためか、助かっているとの意見も。

  • ゲーム「ドラゴンズクラウン」内でも、ワスプの天敵としてハチクマが登場している。しかし個体数がオークによる乱獲で減少しており、それを防ぐための依頼が舞い込んでくる、と言う内容となっている。

  • ヨーロッパにも「ヨーロッパハチクマ」と言う近い種類のハチクマが存在しており、同じ種類じゃないかと言う見方もあるとか。

  • ちなみに他にもスズメバチを狙う捕食者や、スズメバチを専門にする寄生虫は結構存在する。
 詳細はこちらを参照。

  • どちらかというとマイナーな生物にもかかわらず、NHKの動物番組「ダーウィンが来た」では三回もメイン回を持っている(他にはライオンなど人気の動物しか複数回はメインを張っていない)。スタッフのお気に入りなのだろうか。

  • 横山光輝の漫画『殷周伝説』で、蜂使いの高継能対策に樵の武吉の進言でおそらくハチクマと思われる鳥が駆り出されている。
    この作品では蜂に攻撃されないのは匂いによるものとされており、高継能自身もその匂いを利用しているのではないかと言われている。
    (蜂の群れがハチクマに蹴散らされたとき、高継能はハチクマを知らないようなそぶりを見せているので実際は不明)


追記・修正はスズメバチを蹴散らしてからお願いします。


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最終更新:2024年02月04日 09:30

*1 一応必死に毒針を突き立て、ハチクマを追い払おうとする蜂もいるが、後述の通り数時間もすれば無駄だとわかって諦めてしまう。