さよならジュピター

登録日:2011/06/27 Mon 22:20:14
更新日:2024/03/18 Mon 11:48:07
所要時間:約 7 分で読めます





「さよならジュピター」は1984年3月17日に公開された東宝の特撮映画である。
原作、脚本、総監督を小松左京氏が務めた。
主題歌は松任谷由実の「VOYAGER〜日付のない墓標」*1。またB面の「青い船で」も挿入歌として使われた。


【概要】

話は1977年まで遡る。その頃日本では空前のSFブームが起きていた。「スター・ウォーズ」や「未知との遭遇」がアメリカ合衆国で大ヒットし、日本にも情報が伝わり、さらに国内では「宇宙戦艦ヤマト」がヒットしていた。

そして日本でも便乗企画として東宝が「惑星大戦争」、東映が「宇宙からのメッセージ」を製作し、円谷プロも「スターウルフ」を製作、全て不振に終わった
しかし、それ以外にも東宝に依頼された、SF作家の小松左京氏がある計画を進めていた。

日本でアメリカに負けない本格的SF映画を作りたい小松氏は、当時のSF界の中心にいた16名で一年間会議を行い企画を練った。
そして企画は進み1980年には初期稿が完成、ノベライズ版の連載をスタートさせた。
また、この映画を製作するためだけに株式会社イオを設立、さらなる準備を進めて1983年に製作をスタートした。

監督は「日本沈没」の森谷司郎氏を起用する予定だっが、森谷氏が亡くなったため助監督だった橋本幸治氏を起用した。
また特技では川北紘一氏を起用し、比較的若いメンバーが集められた。
邦画では初となるモーション・コントロール・カメラや本格的なCGの導入といった、アメリカのSF映画に追いつくための工夫がされた。
またメカデザインはスタジオぬえが担当し、SFファンの話題を集めた。

そうして製作が進み完成したが、予想以上に制作費が集まらず制作は難航し、また本来の脚本では3時間以上かかる超大作になるところを無理に削ったためか、評価と成績は芳しくなかったが、近年では再評価の機運も出てきている。

なおノベライズ版は評価が高く、1983年に星雲賞の日本長編部門賞を受賞している。


【作品を取り巻いた状況】

1970年代後半の特撮ファンは、自らが大人になっても作品を好きなことの免罪符として、「大人の鑑賞に耐えうる作品」であることを盛んに訴えるようになった。

60年代までの東宝特撮や第一期ウルトラの再評価が進みつつも、70年代ゴジラシリーズや第二期ウルトラシリーズが酷評されたのも主にこの時期である。
この時期のファンはこういった作品を高尚なSFと認めてもらうことで、自分達が大人になっても好きでいられるようにしたのである。

またアニメでも「ヤマト」や「ザンボット3」の登場でSF志向のファンが増え、それが「ガンダム」や「伝説巨神イデオン」に繋がっていった。

しかし、もっとも新しい勢力であるアニメファンに対して旧来のSFファンは辛口で、ヤマトやガンダムをSFとして認めない論調も多かった。

そしてそれに反発するアニメファンがスター・ウォーズと旧来の日本特撮を比較する等、泥沼の状態になった。

そんな中で「さよならジュピター」はSFファンからは特撮の希望の星、アニメファンからは特撮の底力を見せてもらう機会、さらに最古参のSFファンにとってはめったにない国産ハードSF映画として期待されていた。

そして公開されたが、公開当初はみんなが溜め息をつく結果となった。
本作の制作費は約10億だったが、配給収入は約8億(配給収入は3億、とする説もある。どちらかが興行収入なのだろうか?)。
総責任者である小松氏に残ったのは多大な借金だった。
ただ、なぜか観客動員数は不明となっている。
一方、ビデオは公開同日に販売され、そこそこの売上を記録している。

しかしながら、その創意工夫と情熱は近年になって再評価され始め、2020年には久々のオリジナル実写SF邦画「AI崩壊」が制作・公開されるなど、その魂は受け継がれているといっていいだろう。

ちなみに特撮ファンがもう1つ求めていたものとしてゴジラの復活があるが、こちらも同年公開の84版「ゴジラ」で達成された。
これも当時のファンにはコレジャナイ感が広がったらしい。ヒロインがだし
ただし「ゴジラ」は観客動員数320万、配給収入17億円、1985年邦画第2位という記録を打ち立てている。
また「さよならジュピター」で示された技術力は本物で、特撮を担当した川北組は五年後の「ガンヘッド」や「ゴジラVSビオランテ」、そして続くゴジラvsシリーズを展開していく。
実際川北監督は自伝で「さよならジュピター」「ガンヘッド」「ゴジラvsビオランテ」を80年代の三部作と表現しており、「さよならジュピター」は同期の「ゴジラ」と合流することで、90年代の東宝特撮の一大潮流を作ったと言えるかもしれない。


【あらすじ】

2125年、人口180億人の宇宙開拓時代―

人類は宇宙に進出する中でエネルギー問題の解決のため、木星を太陽化させる計画を進めていた。しかし、過激な自然保護団体による妨害を受けていた。

そんな中、地球に向かってブラックホールが近付いてきてることが判明する。
その対策のため、木星を爆発させることで軌道を逸らす案が提案される。果たして人類はこの危機を回避することが出来るか?


【登場人物】

◆本田
演:三浦友和
木星の太陽化計画の責任者。科学者だがやや体育会系。
ブラックホール回避のための木星爆発計画を提案し、実行する。マリアとは幼なじみだった。

◆マリア
演:ディアンヌ・ダンシェリー
本田の幼なじみだが、お互いに好意を抱きながら離れ離れになっていた。その後自然保護団体のジュピター教団に入団していた。

◆カルロス
演:マーク・パンソナ
本田の助手で、天才肌の少年科学者。
どうでもいいが演じたマークは後のglobeのマーク・パンサーである。

◆ピーター
演:ポール・大河
ジュピター教団の教祖だが本人は歌ってるだけだと言っている。イルカのジュピターをもっとも大事にしている。

◆アニタ
演:小野みゆき
ピーターの側近だが、過激な活動を勝手に行っていた。

◆大統領
演:森繁久弥
地球連邦の大統領。


【登場用語】

◆SJ計画
増えすぎた人口のエネルギー源開発のための木星太陽化計画。2100年から始まり、2140年終了の40年がかりの計画だった。
2125年の責任者は本田である。

◆ジュピター教団
ピーターの歌に惹かれた人達がピーターを教祖に組織した。自然保護団体であり、一部に極端な過激派がいる。
地球のあるビーチを拠点にしていて、水着美女ばかりである。

◆ジュピター・ゴースト
木星圏でまれに観測されていた謎の巨大物体。超古代文明の遺物という噂がある。

◆火星の遺跡
火星の氷の下にあった、ナスカの地上絵に似た遺跡。ジュピター・ゴースト同様超古代文明の遺跡と見られている。


【本作の問題点】

主観丸出しではアレなので、よくレビューに載るような事を。

◆詰め込みすぎ
3時間以上の初期稿を無理やり2時間にしたため、内容を省略し過ぎの早足過ぎる内容になった。
ジュピター・ゴーストや火星の古代文明、ジュピター教団との対立や銃撃戦、本田とマリアのロマンス等を無理やり押し込んでしまったため、本筋の木星爆発計画に絞っておけばと良く言われる。

◆世界観が描けてない
初期稿、並びにノベライズでは未来の社会も描いていたが、実際の作品では満足に描けず、ジュピター教団もヒッピーの集まりみたくなってしまった。

◆無重力セックス
本田とマリアのラブシーンがあるが、部屋の重力を切って部屋を無重力にしながらするというシーンがある。
描写が無理やり浮かしてるようにしか見えず、さらに色調が暗くて良く分からない。
三浦友和の尻が見られる。好きな方はどうぞ。

◆総監督が小松氏
全てを小松氏が指揮したため、誰も注意出来ずワンマン体制で製作されたことが問題だったと言われている。


【余談】

本作で使用されたミニチュアは、永らく製作した小川模型が所有していたが後に東宝に返却され、「幻星神ジャスティライザー」に使用された。

作中で「地球最大の決戦」や三船敏朗主演の時代劇映画が流れる。

作中でゾイドが本田の部屋の模型で使われている。数秒しか映らないが、ビガザウロやグランチュラ、ガリウスを改造したものと思われる。

2021年の映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』にて主題歌の「VOYAGER〜日付のない墓標」が重要なシーンで使用された。歌手は松任谷由実ではなく林原めぐみ


【これから見る方へ】

製作された状況や背景を考えながら見ることで、何かしら得る物はあるだろう。
筆者も公開当時生まれてすらいなかったが、本作を見て調べることで、日本のSFや特撮の歴史に触れることが出来た。




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最終更新:2024年03月18日 11:48

*1 ちなみに松任谷のオリジナルアルバム『VOYAGER』には「青い船で」だけ収録され、ベストアルバムでも『Neue Musik』(1998年)『ユーミン万歳!』(2022年)のみの再録と微妙にレア曲の部類だったりする。