アジフライ作戦

登録日:2011/11/22(火) 17:42:08
更新日:2024/01/09 Tue 16:46:28
所要時間:約 5 分で読めます




福本伸行の漫画作品『最強伝説 黒沢』にて決行された作戦。


主人公の黒沢は40代半ばにして、自分にはなにもないことに気付いてしまった独身の現場監督。
なにかと不器用なため、現場の人間はみな自分より若いのに仕事のできる赤松ばかりを重宝する。
勝手に自分側だと思っていた、ズル剥けのゆとり浅井にまで、自分よりゲームを優先されてしまう。
とにかく人望が欲しいと切望する黒沢が、スーパーの惣菜コーナーでアジフライを見かけた時に、閃光の如く思いついた作戦である。

「これだっ…!こいつを弁当に…!チョコンと添えて…一品多い…アジ追加弁当…!これは嬉しく…かつさりげない……!」

黒沢は即座にアジフライを買い占める。




翌日―
作業中、黒沢は他人の目を盗んで、現場のカツ弁当にアジフライを一尾ずつつけ足す。


不自然に蓋が盛り上がった弁当。
そしていつものカツ弁当に突然姿を現したアジフライ。
これに気付かない人間はいない。

みなが首を傾げる中、黒沢がタッパー一杯のアジフライを手提げに入れて颯爽登場する。

「黒沢さんだったんですか…?」
「え…?まぁな…!食べたかったらまだまだあるぜ…!」

こうして部下たちのハートをキャッチしようというのが黒沢の算段だ。

「知ってるか、おまえら…アジを食べると…恋が実るんだぞ…!ほら…アジってハートの形をしてるだろ…!」

(言っちゃうか、そんなことも……!)
などとしょうもない冗談も皮算用に含める。


そして昼飯時。機会をうかがい、タッパーを持って黒沢が現れる。



……が、部下たちに変わった点は見られない。

(気がつかねえのか…?この袋に…!
いや……っていうか……っていうか……そういう問題ですらそもそも……なく…!
ハナから気がついてねぇんじゃねぇのか…?このアジの異変に…!そもそも…!誰一人…!ただの一人も……気がついてないっ……!
気がつかないって……バカか…?こいつら…!カツ弁に、アジだぞ…!そんなことありえたか…?振り返ってくれよ…おまえらの…これまでの弁当ライフを…!くっ…!)


黒沢はガックリと肩を落とし、自分の弁当を取りに行くが…

「おまけにねぇよっ…!オレの弁当が…!」

自分が騒いでも、箸を止めようとしない部下たちを、黒沢は怒鳴りつける。

「おまえらは自分だけ喰えりゃあ…先輩の弁当なんかゴミクソッ…!知ったこっちゃないって話か…!あ゛~~~~~!?」

黒沢の剣幕に、部下たちはようやく黒沢の弁当を探しはじめる。
程なくして弁当が二つ見つかる。
なんということはない、黒沢の弁当はケースに入りきらず別によけてあったのだ。
ぶん取るように受け取る黒沢。


しかし、余った弁当は他にもう一つ…
この中で、もう一人だけ、弁当が与えられてない人間が…


皆の視線が、自然と輪から一人離れていた赤松に集まる。
「最後にいったら…なかったからさ。もらおうか…あるなら…!」

そして弁当を受け取り、また一人離れる。


その赤松の振る舞いに、部下たちは感嘆する。
その中で一人青ざめる黒沢。

(投網一発っ…!一瞬でもってかれた…!「人望」という名の………魚群を………!)


その後も心中でぐちぐちと愚痴る黒沢。
肉体労働者として食事に固執するのは当然で、無ければそれでもいいという赤松を非難してみても、
みんながアジに気付かないことにイライラしたからと言い訳してみても、
口にも出してないので負け犬の遠吠えにすらならない。


だがそこではたと気づく。
ケースの外にあった二つの弁当には、アジを入れてない。
つまり、赤松の弁当にもアジは入ってないのだ。

もしここで赤松がボソリとアジがないことを口にすれば、自分がすかさず一匹、赤松の弁当に乗せる。
そこからは美しい日本語の流れで挽回できるとふみ、赤松の様子を凝視する。


…が、赤松はただ黙々と弁当を食う。

募る黒沢の苛立ち。

(言えっ…!アホタレッバカタレッ…!)


そしてすっかり食い終わり、食後のお茶一杯を飲む。

(なごむなぁ〜〜〜!)

そもそも自分の弁当がなくても黙っていた赤松が、アジの一匹でどうのこうのと言うはずなどないのだ。


黒沢はヤケ気味にアジフライをかっ食らう。

(こんなにうまいのに…)



その後作業は再開。
途中で一人別の現場に向かう赤松に、尻ポケットに直接入れていたアジフライを渡そうか一瞬迷うが、さすがに遅すぎると断念。

(アホかっ…!今渡してどうする…?そんな…時、満ちて…10年後の同窓会で告白みたいな……遅過ぎるっちゅーの…!)

気を取り直して現場監督として指示を出そうとするが、みんな指示を聞く前に仕事をこなしてしまう。




そしてその日の作業終了後…

少しトイレが長引いて遅れてしまった間に、会社へと戻る車が全て出発してしまった。


その頃車内…
車を運転する坂口が、仲間に昼の出来事を話す。

彼もまた赤松の弁当にのみアジフライが入っていないことに気がついたのだが、坂口はそれを一人余計にアジを食べていた黒沢が盗んだのだと誤解。
赤松に知らせると「よほど食べたかったんだろう」とまったく気にしてなかったが、坂口は黒沢を許せないと、半ば故意に黒沢を現場に置き去りにしたのだ。



その夜。
雨の中、黒沢は交通整理人形の太郎を現場の宿舎に入れる。

「夜の雨は寒かろう……」

そして太郎に、残ったアジフライと以前同じような作戦*1で使用し大量に残った缶ビールを振る舞い、虚しい酒盛りを始める。


夜も更けると、布団を二つ敷き、片方に太郎を寝かせる。

「太郎…オレの友達は、おまえだけだ…友達でいような、ずっと……これからも……ずっと……
ちぇ…!無口だな……おめぇ…」




後日。

弁当にアジフライを入れたのは黒沢だったと知れ渡るが、奇行と受け取られ黒沢はさらに現場で浮き、別の現場へと回されることになる…




追記修正は他人の弁当に無断で一品つけ足してからお願いします。

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最終更新:2024年01月09日 16:46

*1 現場に妻が淹れたコーヒーを差し入れした赤松に対抗し、ビールを振る舞って仕事を切り上げさせようとした。当然浅井以外は手を付けずに仕事を再開した。