井尻又兵衛由俊

登録日:2011/05/16 (月) 23:08:45
更新日:2024/02/28 Wed 06:27:06
所要時間:約 9 分で読めます




映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』に登場するキャラクター。
名前の由来は「股いじり」から来ており、クレしん映画特有のフザけた名前である一方、由俊はもちろんのこと、井尻も又兵衛も実在するため、真面目な名前とも取れる。






以下ネタバレ






武蔵国春日領の領主で、廉姫の父である春日和泉守康綱に仕える侍。
しんのすけタイムスリップで飛ばされてきた際、最初に目にした合戦場で陣頭指揮をとっていたが、
草むらに潜んでいた伏兵に銃撃されかけたところを、たまたましんのすけに助けられ、行く宛てのないしんのすけをとりあえず預かる事となる。


親の代から春日家に仕えており、幼い頃からよく城に連れられて、廉姫の遊び相手をしていた。



そんな経緯でいつからか廉姫に対して恋愛感情を抱いているが、
身分の違いから自分の感情を抑えて悶々とした気持ちを払拭するためにぼんやりと空を見上げている事が多々あるため、
廉姫や女中からは「青空侍」とからかわれていた。

しかし合戦においては老中からも絶大な信頼を寄せられており、その鬼神のごとき強さから「鬼の井尻」と呼ばれ、敵味方問わず恐れられるほど。
家族はは病死、父と兄とは共にで亡くしており、足軽頭で使用人の仁右衛門夫婦と共に暮らしている。
年齢は後にひろしみさえ達もタイムスリップしてきた際に開かれた宴会では「こんな美味い物は30年生きてきて飲んだことがない」という発言から30歳と判明している。またビールをいたく気に入ると同時にあまりの貫禄にひろしに自分より年下である事を驚かれていた。

しんのすけには「おまたのおじさん」と呼ばれ、廉姫の事に関しては悉く心の内を見透かされ、ひどく狼狽する時もあった。

もはやしんのすけには隠し通せないと観念したのか「この事は断じて口外するな」としんのすけと「男同士のお約束」を交わし、
さらに武家式の誓いの儀である「金打」(きんちょう)を教えた。

上述のように廉姫の事となると小心者だが、「秘密の泉」で廉姫に襲いかかった野伏せりに激昂し、
瞬く間に成敗したが「お前達も元々はどこぞの大名に仕えていたのだろう」と金子を与え、
「それでまた仕官口を探してやり直せ」と放免する度量の深さも併せ持っている。
(これに感動し、後にこの一味の彦蔵と儀助が家来に加わる)


中盤の春日城防衛戦にも出陣。最前線で指揮を執り、何倍はあろうかという大蔵井高虎の軍勢の進攻を水際で食い止めた。
その夜、軍議によって大蔵井の本陣に夜襲を仕掛ける事が決定し、野原一家にその混乱の隙に逃げる事を提案し、ひろしにを渡す。


襲撃直前、兵達を前にして又兵衛は、

「皆、幼い頃より知った顔ばかりだな…」

「外は敵で満ちているっ!!だがここは我らが生まれ育った土地っ!!何も恐れる事はないっ!!」

「本陣まで一気に駆け抜け、高虎の首を取ることのみ考えよ!!倒れた仲間は見捨てよっ!!例えそれが身内であってもだっ!!よいなぁ!!」


一同に叱咤激励し、又兵衛は騎馬を駆って高虎の本陣へ突撃した。


しかし、最初こそ突然の奇襲によって混乱した大蔵井の軍だったが、すぐさま持ち直して圧倒的な兵力を背景に春日の兵士達を分断し、押し包んでいく。


又兵衛とその家来達も多数の兵に囲まれ、もはや万事休す…と思われた時、



「野 原 一 家 フ ァ イ ヤ ー ッ ! ! 」



逃げたと思っていたしんのすけ達の車が突如参戦し大蔵井軍へ突撃。大蔵井の軍勢は総崩れとなる。
「馬鹿者め…」と苦笑を漏らす又兵衛だったが、この機を逃すまいと再び本陣へ突撃を開始。
周りを固める赤備えの馬廻衆を蹴散らし、遂に高虎の本陣へと到達する。


「春日家家臣 井尻又兵衛由俊!」
「大蔵井高虎殿、御覚悟召されよっ!!」


名乗りを挙げる又兵衛に、さらに選りすぐりの馬廻衆が応戦する。

又兵衛は一瞬で1人を斬り伏せ、残りを仁右衛門、彦蔵、儀八に任せて高虎に向かう。

だがその前に、一際大柄な赤備えの侍が立ちはだかる。

「大蔵井馬廻衆 真柄太郎左衛門直隆…」
「参れっ!!」

「応っ!!」


を折られ、雲の旗印を失いながらも一進一退の攻防を繰り広げる又兵衛と直隆。

ひろしとしんのすけはただ見ている事しかできなかったが、それを尻目に逃亡を図ろうとする高虎がしんのすけの目に入る。

それを止めに入ったしんのすけが斬られようとした時、みさえが刀を使ってしんのすけを守り、
ひろしのボディブレードのフルスイングとしんのすけの股間への頭突きで、高虎は遂に倒れた。

鍔ぜり合いを解き、直隆は「これまでだ、殺れ」と自分を斬るよう又兵衛に言うが、これを「殺らん、あんたは惜しい」と見逃した。


倒れる高虎に歩みより首を取ろうとする又兵衛。
だが、しんのすけに「もういいでしょ!?オラたち勝ったんだよ!?」「こいつ、悪い奴だけど…もう大丈夫だよ!おじさんが強いの分かったからもう攻めてこないよ!だから許してやろうよ…!」と懇願され、髷だけを切り落とし、高虎を返した。

兵は数を大きく減らしたが、戦は春日の勝利に終わった。
大手柄を挙げたしんのすけを馬上に乗せ、朝焼けの中で「褒美は何がいい」と尋ねる又兵衛。

しんのすけは「おじさんの小さい刀がいい」と言うが、「この馬手差しは父上の形見なのだ」と困ってしまう。

その時、目前に建つ城の天守閣から、こちらに手を振る廉姫の姿が目に入る。

しんのすけが手を振り返し、又兵衛も軽く会釈をする。

全てが終わり、安堵のため息をつく廉姫。













そこに響き渡った一発の銃声。






馬上からゆっくりと崩れ落ちる又兵衛。



しんのすけも慌てて駆け寄るが、又兵衛の胸には銃弾の貫通した跡が…






「しんのすけ…お前が何故、俺の元へやってきたか今、分かった…」

「俺は、お前と初めて会ったあの時、撃たれて死ぬはずだったのだ…」

「だが…お前は俺の命を救い、大切な国と人を守る働きをさせてくれた。お前はその日々を俺にくれるためにやってきたのだ…」


その役目が終わった以上、しんのすけやその家族はきっと元の時代に帰る事が出来ると告げる又兵衛。
泣き出しそうになるしんのすけに「これをやろう」と、自らの馬手差しを差し出す。
だが、又兵衛の目のは既に消えかかっていた。まるで命が尽きていくかのように。





「お前の言う通り…最後にそれを使わないでよかった…」






「きっと、姫様も同じ事を……」












又兵衛は死んだ。

その事を悟り、馬手差しに大粒の涙をこぼして嗚咽するしんのすけ。

あまりにも理不尽なに、やり場の無い怒りを高虎の残党に向ける仁右衛門達。

廉姫も、膝をついて泣き崩れていた。


「秘密の泉」へと戻り、又兵衛が好きだった事を吐露した廉姫に、
しんのすけも又兵衛の気持ちを廉姫に伝えようとしたが「もうよいのだ」と言う廉姫の涙を見て、
又兵衛の言葉を思い出したしんのすけは、決して口にするまいと、又兵衛の馬手差しで再び「金打」した。



現代に帰ったしんのすけ達が空を見上げると、


「あっ! おじさんの旗だ!」


又兵衛の旗印と同じ雲が空に浮かんでいた。
ただ無言で馬手差しを空にかざすしんのすけ。



過去の世界で、同じ空を見上げる廉姫は呟いた。




「おい、青空侍」





又兵衛の最期に関しては「冒頭の合戦にて又兵衛を狙った伏兵の弾で死ぬはずだったが、しんのすけの介入でわずかだが先に延び、時空を越えて伏兵の弾が又兵衛に飛んできた」という解釈がなされている。*1

また、これについては作中で廉の父親が野原一家から未来の話を聞いて「どういう過程を経ようとも未来は変わらない」といった旨の言葉を述べているので、結局の所、又兵衛は死ぬ運命だったのだろう。
しかし、もしも野原一家がいなければ廉や又兵衛は思いの丈を伝えることなく、抱え込んだまま死に別れてしまう運命だったのだから、きっと少しでも良い方には変わったのだろう。
或いはそういった後悔の念が、しんのすけの夢枕に出て、自身の書いた手紙を発見したしんのすけが過去へいく事になったのかもしれない*2

クレしん映画の中では敵サイドのキャラが死亡した、または再起不能となったと思われる描写はあるが、味方のキャラがはっきりと死んだと描写され、生き返り等もしなかったのはこの又兵衛が最初である。
また、しんのすけが映画でちゃんと泣き顔を見せたのもこの時が初で、ヘンダーランドでトッペマが動かなくなった時にも泣いていたが、この時は後ろ向きだった。
また、ブタのヒヅメ大作戦のぶりぶりざえもんとの別れの際にも、後ろ姿でヘルメット越しに涙を流していた。
余談だが、この結末には「クレヨンしんちゃんの映画で泣かせてどうする」と批判的な意見もあったりしたが、結果は周知の通り大成功である。





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最終更新:2024年02月28日 06:27

*1 劇中突貫する又兵衛の兜を火縄銃が直撃しているが全く止められなかったことからもわかる通り、この当時の火縄銃では当時の鎧兜を貫くだけの威力がない。よって、又兵衛の鎧を「誰がやったかもわからない距離から貫いて射殺する」のは不可能であり、それ以前に最期のシーンでの又兵衛は敵軍が背後にいた状態で、味方しかいないはずの正面から撃たれている。

*2 もしこの推測が正しかった場合、最初の箱に入っていたのはおそらく廉が上記の後悔を綴った文である可能性が高い。