シャチ(鯱)

登録日:2010/01/27 Wed 09:54:53
更新日:2024/03/22 Fri 13:57:47
所要時間:約 11 分で読めます




シャチ(鯱、学名:Orcinus orca)とは、クジラ目ハクジラ亜目マイルカ科シャチ属に属するハクジラの一種。

概要

体長5m~
体重3t~
大型の個体は10m近く、10t弱にもなる。
寿命は30年~50年ほど。長寿の個体はヒトとほぼ同じくらいまで生きる。
冷水を好み北の海を主な居住地とするクジラ類としては適応能力に非常に優れた生物で、太平洋・大西洋の他地中海・アラビア海他暖かい海など世界各地の海に棲む。
「地球で最も生息域が広い哺乳類」と称する学者もいるほど。

また、「逆叉(サカマタ)」とも言われるほか、一部の学名でもある「オルカ」を使う研究者もいる。
アイヌの間ではカムイ(神)とされ、「沖に住む神」という意味の「レプンカムイ」という呼び方をする。
学名は「Orcinus orca」。これを「Orcinus=オルクスに属するもの orca=魔物」として、「冥界の魔物」という意味だとする俗説があるものの、信憑性には乏しい。

というのも、「orca」の単語は学名として使用される前からシャチのような大型のハクジラを表す名前として使用されているほか、
そもそもこの「Orcinus」と「orca」がつけられた時期には100年の隔たりが存在しているのである。
命名者のリンネによってつけられた名前は「Delphinus orca(意味を取るならオルカと呼ばれるイルカの仲間)」であり、
のちにフィッツィンガーがこの種をOrcinus属に再分類した結果「Orcinus orca」が誕生している。
意味を取るなら「オルカの仲間のオルカ」程度の意味であろう。
骨格が下手な海生爬虫類より獰猛と一部で評判。


クジラやイルカと同じく、海に生息する哺乳類でもある。
学術論文では食生により鯨を主に食べるホエールイーター、アザラシなどを主に食べるママルイーター、魚を主に食べるフィッシュイーターの三つに細分化される場合も。
これら三つは混血もしなければDNAも異なるので、別種扱いした方が良いのではないかと言う声もある。
この中で、フィッシュイーターは他の哺乳類を襲わずにむしろ一緒に行動したりする事もある。マッコウクジラを群れの一員として受け入れていた例も確認されている。

なお、例えばクジラやイルカは、ママルイーター (ホエールイーターも?)のシャチたちを音波で判別できるらしい。
遺伝子を調べると地域差が大きく、交わす言語(超音波を用いた意思伝達)や見た目も居住地域によってかなり異なるらしいことが確認されている。


白黒パンダな可愛らしい模様で、水族館では大人気の「賢い生き物」。
独特で愛らしい容姿をしており、コミカルでユーモラスな人気者というイメージがある……が、野生のシャチは恐るべきハンターである。

というのも、シャチはの食物連鎖において、子供や弱った個体などでない限りは敵となる捕食者がいない。いわゆる頂点捕食者である。
歯クジラ類ではマッコウクジラに次ぐ巨体と海棲哺乳類では最速の速度(=交戦という選択が取れる)、高い知能、
更には群れによる連携戦術を兼ね備えるため、大型のクジラ類にとってすら危険な捕食者となり得る。

動物番組では、浅瀬まで来てアシカの類いをパクリとやるシーンがよく放送される。
自身よりも巨大なクジラ達を攻撃することもあり、史上最大の動物であるシロナガスクジラをも仕留めることもあるが、
喧嘩慣れして栄養・健康状態が良好な大型クジラが相手だと集団で襲っても蹴散らされることも。
特に、ザトウクジラ(シャチを積極的に攻撃する事が知られる)やマッコウクジラの雄はシャチの群れ相手でも真っ向から互角以上に渡り合える上に、
シャチに襲われている同族やザトウクジラに至っては他種のSOS信号をキャッチして助太刀に現れるケースすらあるので、シャチにとっては厄介な強敵。
そのため、ホエールイーターのシャチは子供や弱った個体を標的にする場合が多い。
また、ヒレナガゴンドウはシャチの鳴き声を探知するとシャチを追い回し撃退する。
ゾウアザラシの雄もシャチを追い払う事ができるとされる。

陸生哺乳類最大の肉食獣ホッキョクグマを貪り食うことすらある。
その為「Killer Whale」の異名をつけられている。
日本にはこんな昔話も伝わっている。

昔々、クジラは山で暮らしていたそうじゃ。
何せあんなに大きいからの、山の動物は片っ端から食われておったのじゃ。
それを見かねた神様はの、海でいじめられていた動物に目を付けたのじゃ。
その動物は動きが鈍くて、のろのろと動く上毒を持ち誰も食わんような海蛇しか食えずいつもひもじい思いをしておった。
じゃから神様は蛇がたくさんおる山にその動物を送り、逆にみんなから嫌われていたクジラを海に追放したのじゃ。
その山に行った動物は今、イノシシと呼ばれとるんじゃよ。
そして、クジラが海で暴れんように、神様は強くて怖い番人を作ったんじゃ。
その番人は、シャチという名前を与えられたのじゃ。
今、時々クジラが浜辺に流れ着いておるのは、シャチに追われることのない大昔のことを思い出しておるからなんじゃ。

このほか、シャチは大型で獰猛なホホジロザメをも臆することなく攻撃し捕食する場合もある。もう何なんだコイツらの食欲は……。
ひっくり返して擬死状態にさせ、抵抗も許さずに殺すという容赦のない狩り方をするため、ホホジロザメにとっては天敵と言っても過言ではない。
特に子連れのシャチはメスですら「子供が襲われるとマズいから念のために殺しておくか」とホホジロザメを瞬殺してそのまま捨ててしまった例すら観察されている。
因みに大柄なホホジロザメでも全長6m、体重1.9t、最高速度35㎞/h程度に対して、一般的なシャチのメスは全長5m、体重3t、最高速度70㎞/h程度で骨格強度も遥かに上。
体重が1.5倍、速度が2倍も違えば、突撃時の破壊力は6倍も開くので、とてもホホジロザメが太刀打ち出来る相手ではない。
そのためか、例え上質な餌場であってもシャチがいる海域にはホホジロザメは近付かないという。

そして、シャチが獰猛と言われている由縁の一つが、狩りの方法である。
獅子は兎を駆るにも全力を尽くすというが、シャチは全力で狩りは行わない。そう、遊びながら狩りを行うのだ。

ただ獲物を狩るだけでは楽しくないという理由でアザラシ等の獲物を尾ヒレで吹っ飛ばして海面に叩き突けたり噛んで放り投げたりするのだ。
その姿はまるで子供が無邪気に玩具で遊んでいる様である。

さらにシャチはその優れた頭脳を使った狩りも行う。
魚を狩る際に、物凄い勢いで尻尾を振り、強烈な衝撃波で魚を気絶させ、そして気絶した魚を悠々と食す。
他にも会話に使う音波に殺傷力を持つ指向性を与えてぶつけるなど、テクニカルなことをする個体群もいる。

飼育されている個体が、餌として出された魚を近くにいる海鳥を獲るための「餌」として使い、
絶妙に距離を取るなどして巧みに海鳥の警戒を解き、その「餌」に寄ってきた海鳥を捕食した事例もある。
まさにハンター

時折海に投げ出され漂流している人間を、餌となるアザラシなどと間違えて寄ってくることがある。
しかし、同じように人間を他の獲物と間違えた結果、近付いて噛み付くこともあるホホジロザメなどとは違い、
シャチは自分が近寄って行ったのが人間と気付くと華麗にスルーするという。


「雑魚に用はない」


まさに王者の風格。

「人間を襲うと逆襲されることを理解しているので、人間はスルーしているのだろう」という説もあるが、
ただ単に人間を喰う機会が少ないことや、彼らが非常に偏食、言い換えるとグルメな連中ということもあるのかもしれない。
グルメ説を裏付ける話として、フィッシュイーターやホエールイーター等の派閥が存在すること、
クジラ喰いやホオジロザメ喰いの個体群は、狩った獲物の舌・口辺りと内臓の一部といった好みのところ以外は食べ残して去るらしいことが挙げられる。
厳しい自然の中で偏食できるほどの余裕を持てる力の持ち主であることの表れと言える。

その容姿を遠目に見るとまさに「単発ジェット戦闘機」である。

社会性や仲間意識は強く、カナダでは材木をぶつけられた仲間の復讐の為に人間を待ち伏せして殺したと言う報告が有り*1、日本の北海道では流氷に閉じ込められて壊滅した群れにおいて、満身創痍になった雄が子供に空気を吸わせようと必死で持ち上げている姿が観察されている。
哺乳類では雄が子育てに参加する方が極めて少数派である。


人間との関係

なお、人間社会でも水族館のショーでもおなじみ。
それを題材にした映画『フリー・ウィリー』で、その知名度をさらにアップ。
ただ、この作品では獰猛な面も描いていたので、ある意味正しい姿を伝えることになったと言えるだろう。

では、水族館などのシャチのショーはどうやって行っているのか。

それは上述した狩りの習性を上手く用いているのだ。
調教せずとも、シャチのありのままの本能を利用しているだけでショーができる……が、故に油断すると飼育員であっても危険である。
好奇心旺盛で遊び好きのシャチだけに、軽くじゃれるだけでも人間には命取りなのだ。
過去には調教師がショーの最中、水中に引きずり込まれて溺死した事故も起きている。
遊び半分で調教師のスーツをくわえ込み、そのまま潜って引きずり回したのである。

2023年現在、日本国内においてシャチを飼育しているのは、千葉県の鴨川シーワールドと愛知県の名古屋港水族館のみ。


歴史

出現は鮮新世ごろ。
当時はメガロドンやケトテリウム類、現生のハクジラ・ヒゲクジラ類の祖先が出現していた頃であったが、
気候変動と、シャチの祖先と現生のホオジロザメの出現によりメガロドンは生存競争に破れたとされる。
一方、シャチの祖先は多数のクジラ類が高緯度の海に進出したこともあり、豊富な餌を得て巨大化に成功した。

日本にもいた古代種「Orcinus paleorca」は、現在のシャチよりも大きかった可能性もある。

「鯱」の語源は頭が虎で常に逆立ちをしているという水を操るインド神話の怪魚。
「サカダチ」が訛って「シャチ」になったとも言われる。


シャチに由来するあれこれ

キャラ名等 作品名等 備考
しゃちほこ 伝説の生物 名古屋城の屋根に鎮座するアレ
アルラホエール UMA かつてはシャチの亜種と考えられていた
グランパスくん マスコットキャラ 日本のサッカーチーム「名古屋グランパス」
グランパコちゃん
グランパスくんJr.
グララ
フィン・ザ・ホエール 北米のアイスホッケーチーム「バンクーバー・カナックス」
ORCA 研究事業 日本医師会による医療事務のプロジェクト「Online Receipt Computer Advantage」*2の頭文字を取ったもの。
アイコンにシャチがあしらわれている
ORCA旅団 テロ組織 エンブレムが白黒である以外でシャチを思わせる直接的なモチーフはない
死神戦士サイマ獣タナトス 救急戦隊ゴーゴーファイブ
ゴーオングリーン・バルカ 炎神戦隊ゴーオンジャー
シャチラカン ジャッカー電撃隊
オルカロード ケトス・オルキヌス 仮面ライダーアギト
仮面ライダー幽汽 劇場版 さらば仮面ライダー電王 ファイナル・カウントダウン
仮面ライダーオーズ シャウタコンボ 仮面ライダーOOO
メズール
シャチパンダヤミー
仮面ライダーデュランダル 仮面ライダーセイバー
オルカ大尉 マリンハンター シャチのフィッシュハーフ
ティコ 七つの海のティコ 本物のシャチ
ティコジュニア
銀魂 人間
トリトン ブラック・ジャック 本物のシャチ
赤鯱 北斗の拳 人間
シャチ
極天大聖魔鯱 悟空道
シャチ ONE PIECE 人間
ウイリー ONE PIECE デッドエンドの冒険 シャチの魚人
橘真琴 Free!
サカマタ 逢魔ヶ刻動物園 頭がシャチの人間
ギャングオルカ 僕のヒーローアカデミア 上記サカマタのセルフパロディキャラで容姿もほぼ同一*3
シャチ けものフレンズ
ジャレッド・アンダーソン テラフォーマーズ シャチの改造人間
カイオーガ ポケットモンスター
アクロ 星のカービィ
シャチ丸 大神
オルカモン デジタルモンスターシリーズ
マーク・シャッチーバーグ 妖怪ウォッチ
暗黒大要塞鯱 遊戯王OCG
地縛神Chacu Challhua ナスカの地上絵の「シャチ」に由来。『遊戯王5D's』にも登場。
エアジャチ
超量機獣グランパルス
デストーイ・クルーエル・ホエール
沙花叉クロヱ ホロライブプロダクション
シャチ テイコウペンギン


【余談】

オキゴンドウの英名は「シャチもどき*4を意味するFalse killer whaleで、ユメゴンドウの英名は「小さなシャチ」を意味するPygmy killer whaleである。

温暖化の影響で、北極海のより奥部にシャチが侵入しており、ホッキョククジラやベルーガなどがシャチに襲われている。


追記・修正はクジラを仕留めてからお願いします。

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最終更新:2024年03月22日 13:57

*1 尚、報告者は材木をぶつけた人間に同行していた同僚であり、シャチの群れは彼の方には全く攻撃を仕掛けなかったと証言している

*2 「進化型オンラインレセプトコンピュータシステム」の意

*3 「僕の~」と「逢魔ヶ刻~」は同作者による作品。

*4 或いは「シャチの偽物」