桃太郎(芥川龍之介)

登録日:2012/02/04(土) 13:13:16
更新日:2024/02/11 Sun 02:37:33
所要時間:約 7 分で読めます




日本ではよく親しまれた昔話『桃太郎』。

桃から産まれた桃太郎が・猿・の三匹の家来を率いて悪いを懲らしめる勧善懲悪物語である。
幼児向けに絵本や紙芝居になることも多い、日本民話の代表作だが、あなたはこのお話が文豪・芥川龍之介の手で小説になっていることをご存知だろうか。

しかしこの芥川版桃太郎、何か様子がおかしいのである。
大筋は確かに桃太郎が家来を引き連れ鬼退治をするというものなのだが……。

【登場人物】

  • 桃太郎
「進め! 進め! 鬼という鬼は見つけ次第、一匹も残らず殺してしまえ!」
ご存知日本一の桃太郎。
だがこいつ、かなりのクズ野郎。

成長してもろくに働きもせず、鬼退治を志したのもお爺さんやお婆さんのように山だの川だの畑だのへ仕事に出るのが嫌だったから。早い話がニート+DQN。
その上家来に「鬼退治のお供を引き受けてあげるから黍団子を一つよこせ」と言われても、「一つはやらぬ、半分やろう」の一点張りのドケチ。

それだけならまだしも、鬼ヶ島に着くなり上記のセリフを吐いて逃げ惑う鬼を大虐殺
降伏した鬼から宝物を一つ残らず奪い、ついでに鬼の酋長の子を召し上げる。
まさに戦勝国の振る舞いである。こいつ戦いで何もしてないけど。

静かに暮らしていただけの鬼たちの「なぜ征伐されなければならないのですか」という質問にも取り合わず、「俺が殺したいと思ったからだ。何度も言わせるならウゼェからまとめてぶち殺すぞ?」と脅すほどの鬼畜っぷり。まぁ働きたくなかったからとも言えまい
宝物と人質をゲットして凱旋したものの、それ以来鬼からの復讐に悩まされることになる。

「桃太郎さん。桃太郎さん。お腰に下げたのは何でございます?」
桃太郎最初の家来。黍団子が一つ欲しかったが桃太郎がケチなのでもらえなかった。
丈夫な牙を持っているため、意気地のない猿を馬鹿にしている。
どうも沸点が低いらしく、猿がちょっと桃太郎の悪口を言うや否や吠えながら猿を噛み殺そうとする。その様を例えるなら『鬼灯の冷徹』のシロから可愛げを80%ほど奪って凶暴性で埋め合わせたものと思えばよし。

鬼ヶ島での戦いでは自慢の牙で鬼の若者を噛み殺しまくった。
鬼の復讐で猿と雉が殺される中、桃太郎の腰ぎんちゃくの座に収まる。

「ではその打出の小槌から、幾つもまた打出の小槌を振り出せば、一度に何でも手にはいるわけですね。
 それは耳よりな話です。どうかわたしもつれて行って下さい。」
桃太郎第二の家来。クズ度も本作で二番目。
卑劣にして強欲で、何かともっともらしい雉を馬鹿にしている。
鬼ヶ島への道中、もらっておきながら「黍団子半分じゃ足りない」と駄々をこねたばっかりに危うく犬に噛み殺されそうになる。さぞびびったに違いない。
結局桃太郎の言う「鬼ヶ島の宝物」につられ、その中の打ち出の小槌を励みにお供を続けることに。

鬼ヶ島の戦いでは鬼の娘を狙い、必ずレイプしてから殺した。戦闘中に随分な余裕である。
結局あんなに欲しがっていた打ち出の小槌を手にする描写はないまま、戦後、鬼に桃太郎と間違われて暗殺された。
かつて蟹に対して乱暴を働いたことも示唆されており、どちらにしろ死は免れなかったようだ。

桃太郎第三の家来。家来の中では一番マトモ。
地震学などに強いらしく、頭の鈍い犬を馬鹿にしている。
しかし何だかんだで猿と犬の殺し合いを止めたり、桃太郎に従うよう猿を注意するなど面倒見はいい。

鬼ヶ島の戦いでは「つつく」で鬼の子供を殺しまくったが、人質にとった酋長の子の番をしていたところ逆に噛み殺される。
三匹の中で唯一台詞がない。

  • 鬼たち
「わたくしどもはあなた様に何か無礼でも致したため、御征伐を受けたことと存じて居ります。
 しかし実はわたくしを始め、鬼が島の鬼はあなた様にどういう無礼を致したのやら、とんと合点が参りませぬ。
 ついてはその無礼の次第をお明し下さる訣には参りますまいか?」

ヤシの木がそびえ極楽鳥がさえずる天然の楽土・鬼ヶ島で平和に、穏やかに暮らす一族。
しかし、凶悪な桃太郎一味の襲撃を受け、建国以来の恐怖を味わわされた挙句、ほとんど全滅させられた。

降伏後、宝物と酋長の子を奪われた際に、なぜ征伐に来たのか聞くものの取り合ってもらえない。
酋長の子が雉を殺して島に逐電した後、生き残った鬼の若者たちがレジスタンスを結成。
遊びも恋も捨てて、ただ桃太郎一味への復讐のみに生きるようになってしまった。

  • お爺さんとお婆さん
昔話と同じ老夫婦。
ニート状態の桃太郎に愛想を尽かしていたため、鬼退治に行くと言い出した桃太郎に、入用のものや黍団子を持たせて厄介払いをする。



この作品は1924年7月に発表された。
当時、日本(大日本帝国)は台湾や朝鮮半島、そして南方・ミクロネシアの島々を植民地支配しており、そういった情勢に対する風刺・パロディとして書かれたのではないかという指摘がある。
それ以外にも当時の国内の時勢を知っていれば、読んでてニヤリとできるかもしれない。

現在は「青空文庫」というサイトで無料公開されており、読みやすく内容もとっつきやすいので一度読んでみることをオススメする。

ちなみにかの有名な童謡「桃太郎」の歌詞でも、「潰してしまえ鬼ヶ島」やら「お~もしろい、面白い(鬼の虐殺のこと)」と桃太郎の外道っぷりが語られているので、小さい子の夢を壊さないよう歌詞を知っていても教えないようにしよう。



追記・修正お願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 昔話
  • 芥川龍之介
  • 小説
  • 文学
  • 桃太郎
  • シュール
  • やりたい放題 ←色々な意味で
  • クズばかり
  • まさに外道
  • DQN
  • ヒャッハー
  • 社会風刺
  • 猿蟹合戦
  • 侵略者
  • 原作レイプ
  • 盗賊
  • 鬼畜ヒーロー
  • パロディ小説

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年02月11日 02:37