榎木津礼二郎

登録日:2011/06/08(水) 03:25:33
更新日:2024/03/12 Tue 16:33:18
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そう、お待ち兼ねの榎木津礼二郎だ。この馬鹿オロカ!





榎木津(えのきづ)礼二郎(れいじろう)



京極夏彦の小説作品である「妖怪シリーズ」の登場人物の一人。
」を名乗る傲岸不遜にして豪放磊落。
眉目秀麗にして才色兼備、腕力最強、天上天下唯我独尊の境地にある「世界で唯一の天然探偵」である。

「妖怪シリーズ」自体が所謂「ミステリー」の枠組からは外れた構成、世界観にある為か、
「探偵」を名乗り乍らも榎木津に振り分けられた役割は解決役としての“それ”では無く、
物語を劇的に推進……或いは改変させる為のトリックスターとしての役目である。
同シリーズに於ける重要な柱の一人であり、事件の闇を祓い落とす「憑物落とし」の陰陽師……「京極堂」こと中禅寺秋彦。
事件の語り部として物語と現実を繋ぐ、幻想小説家の関口巽と並ぶ、同シリーズの中心にある人物(キャラクター)である。
……「妖怪シリーズ」はリアルな世界観にあり乍らも漫画の様な登場キャラクターが活躍すると云うギャップが「キャラ萌え」を生み出してもいるのだが、
その代表格と云って良いであろう。


【人物】

元華族の由緒正しき血統にある、大財閥「榎木津グループ」の御曹司にして、「薔薇十字探偵事務所」の代表。
尚、そんな大層な家柄にある榎木津が「探偵」などと云ういかがわしい商売を始めたのには、まぁ複数の理由があるのだが、
一番の理由は榎木津が生まれ付きに持っていた“ある体質(後述)”に依る物である様である。
尚、探偵業に就いては物語の開始直後には閑古鳥が鳴いている有様だったのだが、
シリーズを通して榎木津が複雑怪奇な事件に遭遇……颯爽と登場して快刀乱麻に悪を断ち見事に解決……していると勘違いされた事から、
シリーズの後半には、それなりに繁盛してしまっている様である。

日本人離れしたギリシャ彫刻の様な見た目の美男子で、年齢は三十代半ば。
非常な長身に陽に透かすと茶色の髪の毛に鳶色の瞳、西洋白磁器人形の様な白い肌の持ち主とされる。
「探偵」らしいファッションに拘りを持つが、どうにもズレた印象の姿で登場する事が多い。
車の運転も上手いが、どうにも乱暴らしい。
……また、腕っ節が異常に強い他、他人を勝手な名前で呼ぶ癖がある。
……一目見たものを惚けさせる程の美しい見た目にもかかわらず発言は概ね痙攣的な上に馬鹿っぽく、受け答えもまるで子供の様ではあるが、
帝大時代は法学部に通い優秀な成績を収めていたらしい。
更に、徴兵された海軍時代には誰も思い付かない様な作戦を電光石火の早業と抜群の行動力を以て実行する切れ者将校として有名でもあった。

……が、法律に関してはその後の人生で必要無くなった為かすっかりと忘れており、
軍隊時代のエピソードも基本的に今と変わらぬ調子である事から鑑みるに、その頃から過程よりも結果を大事にしていたであろう事が窺える。

基本的に傍若無人で不敵な態度を崩さない、躁病気質の怪人であり弱点と呼べる物は殆ど無いのだが、水気の無い菓子(最中やクッキー)と竈馬は嫌いと公言する。
……事実、『鉄鼠の檻』では竈馬の死骸を見ただけで気分を悪くしたと語られている他、
『瓶長』では客人(下僕見習い)への礼儀として我慢して挑戦したのに最中を半分しか食べる事が出来なかった。
また、公言こそしていないものの、自分以上の変人と語る父親 榎木津幹麿元子爵から振り分けられる無理難題にも頭を悩めているのが判る。
可愛い物が大好きで、赤ちゃんが殊の他お気に入り。


【家族・交遊関係】

主な交遊関係としては、幼馴染みの石屋の息子にして刑事の木場修太郎。
学生時代の一年後輩の中禅寺、関口らが居る。
他にも軍隊時代の部下である伊佐間に今川、探偵事務所の助手である和寅に益田。
事件を通じて知り合った鳥口らが居り、彼らはシリーズを通じての主要登場人物でもある。
シリーズ当初は「怪しい仲間」「バカ」などと呼び表されていたのだが、
後に鳥口が『塗仏の宴』の際に名乗った「薔薇十字団」なる名称が仲間内(ファンにも)で半ば公式化して使用されている様である。
ちなみに、この仲間達は何故だか外部の人間からは榎木津礼二郎を中心にした「下僕」の集団と思われている様だが……まあ、大体は事実である所が哀しい所である。

家族は両親が健在で、兄が居る事が判明しているが、前述の様に父親である幹麿は息子に輪を掛けた変人であると語られており、
シリーズ中でも幹麿から振られた依頼が直接的に事件に関わる事も少なくなく、
特に『百器徒然袋シリーズ』では特にそれが顕著であり、遂に当人までもが登場を果たしている。
尚、榎木津が「薔薇十字探偵事務所」を開いたビルを建てた資金は「成人を養う義理は無い」として幹麿より生前分与された遺産であり、
商売に興味の無い弟に対して、この遺産を使い進駐軍相手に商才を発揮している兄の総一郎もまともかと思いきや、やはり変人であるらしい。


主な関連人物

刑事。
箱人間。
地位を越えて親交を結んだ四角い幼馴染み。

本屋。
一級後輩で、後述の特異体質を見抜かれて以降の付き合いであり以来一目を置く存在。

小説家。
中禅寺を介して知り合った後、妙に気に入ったらしく、変わらぬ主従関係を結ぶ。
何だかんだで良く世話を焼いたり焼かれたりしている。

  • 安和寅吉
和寅。
野次馬な世話係。

  • 益田龍一
益カマ。
カマ下僕にして馬鹿オロカ、馬鹿カマ愚かとも。
元神奈川県警察の刑事で、依頼下僕=押しかけ探偵助手となる。
榎木津の放棄する「普通」の探偵業務を引き受ける。

  • 榎木津幹麿
チチ。
この息子にしてあの親父と呼ぶ馬鹿親父。
礼二郎をも凌ぐ奇人にして、傑物中の傑物。
ラジオドラマ版の声優は京極夏彦。


【特異体質】

榎木津の最大の特徴と呼べるのが、その「他人の記憶が漏れ視える」と云う特異体質であり、これこそが榎木津が「探偵」である理由でもある。

姑獲鳥の夏』で中禅寺秋彦が披露した仮説によれば、記憶=物質の時間的経過その物であり、
通常は視神経よりもたらされる「普通の視覚」に隠されてしまう“それ”を視神経の働きが極端に弱い(弱視の様な状態にある)榎木津は、
漏れ視る事が出来るのだと云う。
幼少時より視力が弱かった榎木津は、更に戦時中に照明弾が近くで炸裂した事で殆ど片眼が視えなくなっているとも云うが……。

ただし、この能力に就いては常に劇中では疑問を呈されており、その仮説に就いても推論の域は出ていない。

尤も、榎木津が「探偵」たる理由であると云う事からも判る様に、榎木津のこの能力から得られた情報が事件の解決に直接的に繋がる事は多く、
また他の者が何も知り得ていない段階で榎木津のみが真相に到っている場合も多い。
……やはり探偵は偉大なのだろう。

ハッキリ言えば、探偵としての推理能力は皆無に近く、「答え」だけはわかっても、その理由や過程を説明する能力は根本的に欠如している。
……それ以前に、本人にそれを説明する気もほとんどないのが問題なのだが。
ただ、基本的な頭脳は明晰なので、京極堂の謎解きを聞けば割とすんなりとその過程を理解することはできる。


【薔薇十字探偵社】

神田にある榎木津の探偵事務所で、
上記の様に榎木津が生前分与された遺産を使い建てた三階建ての「榎木津ビルディング」の最上階のワンフロアをそのまま住居兼事務所としている。

出来て以降は、木場が足を運ぶなど、仲間がたむろする場所になっている様である。
ビルには他にも一階にテーラーが入っている他、二階に輸入業者のテナントや会社が入っており、榎木津はその家賃を徴収するだけでも十分に暮らしていけるとの事。

……その所為か「薔薇十字探偵事務所」の依頼料は安いらしく、
益田が来て以降は益田の性格上必要経費程度の報酬は貰う様になっているが、以前はかなり適当であった。

しかし、付いてる客筋が「柴田財閥」や「羽田製鐵」と云った大物である事や、
やはり「榎木津グループ」の威光は営業上、かなり有効に働いている事が描かれている。

ちなみに社名はたまたま京極堂が読んでいた本の題名が由来であり、同名の秘密結社とは一切関係がない。


【榎木津を演じた人物】

  • 阿部寛(実写映画)
    • 『姑獲鳥の夏』
    • 『魍魎の匣』

  • 佐々木蔵之介(ラジオドラマ)
    • 『百器徒然袋 雨』
    • 『百器徒然袋 風』


  • 小野大輔(ドラマCD)
    • 『百器徒然袋 雨』
    • 『百器徒然袋 風』

  • 月野原りん(舞台)
    • 『魍魎の匣(1999年初演、2001年再演版)』
    • 『狂骨の夢』
      • 上記二作は女性のみで構成された劇団てぃんか~べるによる公演のため、木場修だろうと伊佐間だろうと全員女性キャストが演じている。

  • 北園涼(2019年版舞台)
    • 『魍魎の匣』

  • 北村諒(ミュージカル)
    • 『魍魎の匣』

  • 京極夏彦(朗読劇)
    • 『五徳猫 疾風怒濤ヴァージョン・猫抜き*1(百器徒然袋 風)』
      • 京極堂との兼役。

【余談】

父親の事を変人呼ばわりし、世襲制を馬鹿げた物として毛嫌いしている榎木津だが、
遥かに時代が下って後の最後の系列作品(クロスオーバー?)であろう『ぬらりひょんの褌』において、
痩せぎすの枯れた古書店を営む老人の語る所によれば、どうやら財閥の跡目を継いだ様である。
……中川グループの会長とも懇意にしているとの事。


榎木津のモデルは必殺シリーズの異色作として密かに人気の高い『翔べ!必殺うらごろし』の先生とのこと。
作者の京極夏彦は、自身がパーソナリティを務めたラジオ番組にて、放送時間の半分を費やして同作を含めた必殺シリーズについて熱く語った事がある。


同じく京極夏彦による小説『虚実妖怪百物語』には、兄・総一郎の孫(つまり榎木津にとっての大甥)に当たる「榎木津平太郎」が登場。
作品の根幹に関わる重要な設定を持ったキャラとして描かれている。












榎「さァ!項目が立ったら次はツイキとシューセイだ!!神の名において命ずる……キミだ!キミがやりなさい!!」

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最終更新:2024年03月12日 16:33

*1 京極夏彦自らの手による、朗読会用の短縮バージョン。ドタバタ色が原作よりも増しているのが特徴。「猫抜き」と云うのは原作での招き猫に関するくだりが全てカットされたため。ただし実際の上演時には、共演の宮部みゆきが猫耳をつけていたため「猫は耳だけ」とタイトルコールされている。