ウルトラマンタロウ(石川版)

登録日:2011/03/19 Sat 21:28:53
更新日:2024/03/29 Fri 23:56:39
所要時間:約 5 分で読めます




ヒーロー…それは子どもたちの憧れる希望の光。
だが、世の中には決して子どもに見せてはならないヒーローもいる。

その一つが、石川賢が描いた漫画版の『ウルトラマンタロウ』である。週刊少年サンデー1973年17号~34号連載。

「え?でもウルトラマンでしょ?シリアスも適度にソフトに伝えてくれるんじゃないの?」と思うそこのアナタ、そりゃ考えが甘い。
何故なら、あのケン・イシカワだからだ。
原作ブレイカーたる石川先生の狂気が存分に味わえる作品に仕上がっている、それこそ「ただならぬ」仕上がりだ。

それと言うのも、原作に登場する防衛隊のZATが出ないとか、ウルトラマンがウルトラマンじゃないとか色々あるが……
最もたる理由は「超絶グロテスクだから

首は飛ぶわ、内臓喰いちぎられるわ、頭は潰れるわ……少なくとも子どもに見せて良い作品ではない。
東映で言えばニチアサで『仮面ライダーアマゾンズ』を放送するようなものである

大体カバーからして
「地球滅亡の危機から人類を救うため、地球七億の若者の中から選ばれた、ウルトラファミリー六番めの息子、ウルトラマンタロウ!強大な力を秘めた奇形獣を相手に、タロウの怒りが爆発する!」

うん、これはアウトだね


原作が全53話で放送されたのに対し、この物語は全4話で構成されている。
なお、原作に奇形獣といったキャラクターは存在しないがウルトラの母曰く「貧困!!疑心!!欲望!!人間精神の産物!!」であり
80』のマイナスエネルギー怪獣や『ネクサス』のスペースビーストの先駆けとも言うべき存在である。


各エピソード解説

「タロウ誕生」

物語の初っぱなから、犬が犬を咬み殺し、頭部を切断、内臓をバリバリ喰らうという恐ろしい展開。
場面は変わり、空き地であそぶ少年――名をケンちゃん。彼を上級生の悪ガキがボッコボコに叩きのめすので、主人公・( あずま )光太郎が助けに入る。
ちなみに、光太郎は天涯孤独のキックボクサーという設定である。

犬の奇形獣に何故か狙われる東光太郎と、これも何故か光太郎の周りに付きまとう、コナンの犯人2人の男。
犬の奇形獣によって鉄骨の下敷きになった光太郎が目覚めたのは、ウルトラの母と名乗る不思議な光の体内だった。

ウルトラの母の体内で光太郎は奇形獣に滅亡させられる未来の地球の姿を見せられる。
その後、ウルトラマンタロウに変身し奇形獣を倒すのだが、非常にグロい。
具体的に言うと、奇形獣の上顎と下顎を持ち、バリーン!と引き裂く。

ちなみに、変身した時の奇形獣のセリフ

「フフフ…ついにタロウになったな!これで俺と同じになったんだ!(中略)…俺やお前のような怪物をな!フフフ…」

それを受けた光太郎は、「俺は怪物じゃねえ…地球を守る使者だ」と力無く答える。

もはやこれはウルトラマンではない。

ちなみに光太郎に付き纏っていた男2人の正体は、ウルトラセブンウルトラマンエース
何故かモロボシ・ダン北斗星司には変身せず、ウルトラマンの姿の上に覆面やコートを着て変装している
彼ら曰く、自分達の初陣の時もタロウの時のようなものだったらしい。



「失われた町」

地面に口が開いてケンちゃんが飲み込まれた、それを助けに行く光太郎。
入った先はビル街の地下のようだったが、壁がぬるぬるしてまるで生き物の様。
案の定、正体は奇形獣な訳だが、タロウの言動が凶悪。

「こんなものは今の内に殺してやる」

決着は光線ではなく素手による引き裂き攻撃。

奇形獣のセリフ

「このままいけば人類と共に地球も滅びる…お前はそれをみるたびに…私を倒した事を後悔するだろう」

タロウ「人間はおまえの考えるほど愚かではない、そうさ…愚かじゃないさ…」



「小さな独裁者」

操られた子供達が、大人に反旗を翻した。
物を略奪し、暴行を働き、放火に殺戮を繰り返した。
子ども達を止めようと前に出てくる光太郎、しかし、相手がどんなに酷いことをしていても操られている子どもなので手を出す事が出来ない。
全国から特殊な電波で操られた子どもが集まって来たが、大人は誰も手が出せない。

「ダメだ…撃てない」

この一連の描写はホラー以外の何でも無く、大人すら今読んだら戦慄するだろう。

最終的にタロウに変身するのだが、子ども達が動かす戦車の砲撃で、
なんとタロウの顔にヒビが入る。
しかしそのヒビからフェイスフラッシュの如き光が発し、子どもたちが正気に戻った。

この際、石川版ウルトラマンタロウの衝撃の事実が語られる。

画像出典:ACTION COMIC『ウルトラマンタロウ』
石川賢/双葉社/1999年12月11日第1刷発行
©1973円谷プロ/ダイナミックプロ/FUTABASHA 1999 Printed in Japan.

「ウルトラマンの顔は実はマスクだった」

マスクを脱げばヒゲのおじさん……ね!

それどころか、ウルトラマンの顔から出る光によって、霊長類は人類に進化したらしい。ノンマルトなんて無かった
そしていつか共に同胞として宇宙の平和を守る時が来るまで、ウルトラマン達は人類を守り続けていくのだ。
どうやらウルトラマンではなく『ゲッターロボ』だったようだ。

……まぁ、後々になって、ウルトラマン達は元来地球人とさほど変わらないヒューマノイドタイプの種族であり、ディファレーター因子(光線)という特殊な放射線を浴びたことによって現在の姿に進化を果たしたであった事が公式に明かされ、「ウルトラマンと人類の絆」が重要なファクターになったりしているため、割と現在のシリーズの世界観や作風にも通じる内容ではある。

……実にダイナミック、いやイシカワ。



「鬼がくる…」

鬼型のロボットが出現したので、ハンマーパンチで頭部を粉砕し、ロボを操っていた宇宙人は自爆。
このエピソードにはこの二年後に描かれるサーガ版『ゲッターロボG』と類似した点があり、ベースになったと思われる。

余談だが、大都社や双葉社の単行本では「小さな独裁者」と「鬼がくる…」の掲載順序が入れ替わっていた。
実際、前者の方が雰囲気的には最終回っぽくもあるので妥当な編集だろう。


余談

物理の単行本は長らく入手困難であった*1が、ウルトラシリーズ50周年記念の年である2016年6月に、これまでの単行本で未収録だったカットや、『小学一年生』掲載版も併録した「完全復刻版」が小学館から発売された。
今回初収録となる『小学一年生』版は流石に掲載誌の対象年齢もあってか、TVシリーズの怪獣や宇宙人、ウルトラ兄弟が続々登場するという比較的シンプルなストーリーラインではあるものの、怪獣や宇宙人を容赦なく串刺しやミンチにするバーサーカーじみた戦闘スタイルなど、やはり石川イズム的なナニかが所々に垣間見える。
それと客演ウルトラ兄弟の殉職率が尋常じゃない。それこそ内山まもる先生の漫画版ウルトラシリーズなんて目じゃない程に。


ウルトラシリーズで脚本等を担当している足木淳一郎氏も本作を所有しており、

石川賢版タロウは先生の作風に相応しく、いい感じに虚無ってますよね。
ウルトラの光とはゲッター線なのでは笑 ウルトラ族も時天空を倒すために神々に創造されたんじゃないだろうな…

ともかくオススメです。

とツイートしている。


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最終更新:2024年03月29日 23:56
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*1 尤も、現在では電子版が発行されているため読むこと自体は比較的容易である