大海獣ビヒモス

登録日:2016/07/31(土) 9:41:19
更新日:2023/08/13 Sun 17:10:33
所要時間:約 7 分で読めます





1959年3月3日(イギリスでは1959年10月)に公開されたアメリカとイギリス合作の特撮映画。モノクロ80分。
水爆実験で復活した恐竜がイギリスのロンドンやコーンウォールを襲撃し、甚大な被害を出す怪獣映画である。
ちなみにタイトルの「ビヒモス」は、旧約聖書の『ヨブ記』『エノク書』に登場する怪物「ベヒーモス」から取っている。


【作品解説】

イギリスとアメリカの合作映画で、1950年代の『ゴジラ(1954)』や『原子怪獣現わる』といった怪獣映画に多用された「水爆実験で蘇った巨大な怪獣が日常を攻撃する」というコンセプトのもと、ストップモーションを用いて制作されている。

物語の舞台となっているのはイギリスのコーンウォールやロンドンであるが、怪獣映画のキモともいえる都市破壊シーンは非常に最小限に抑えられている上に、
ビヒモスが登場するシーンも非常に少ない(都市で暴れるシーンは60分過ぎてからやっと)ため、予備知識一切なしで見ると肩透かしを食らうかもしれない。

これは制作側の事情が関係しており、総特撮予算が2万ドルというあまりにも低い予算であったためセットやミニチュアにそこまでかけられなかったのと、
ビヒモスのアニメートを担当したピート・ピーターソンがこの時には難病の多発性硬化症になっていたため、 病気の悪化で立つこともままならず、車椅子に座りっぱなしの状態で作業をしたため である。
そのせいかビヒモスの顔のアップがやたらと挿入されたり、同じシーンの使いまわしがやたらと目立つものとなっている。

しかしその分、ドラマは気合の入ったものとなっていて、当時頻繁に行われていた原水爆実験を、広島長崎、レイチェル・カーソンなどが警告していた放射能が巡り巡って人体にもたらす影響、
第五福竜丸などといった現実の事例や、後述するビヒモスの能力や犠牲者の描写を用いて猛烈に批判している。

監督は『原子怪獣現わる』のユージーン・ルーリーとこれがデビュー作となったダグラス・ヒコックスで、ルーリーは後に日本のゴジラをリスペクトした『怪獣ゴルゴ』を撮影したが、
今作でもゴジラリスペクトと思われるシーンがちらほら入っているため、興味のある方はどこか探してみるのも楽しみ方の一つだろう。

イギリスでのタイトルは『Behemoth, the sea monster』(海獣ビヒモス)であったが、先に公開されたアメリカ版のタイトルは『The Giant Behemoth』(巨大なるビヒモス)となっていた。
現在ではアメリカ公開版の方が広く出回っており、日本版DVDもこちらを収録したものである。(タイトルはイギリス版だが)
日本では12チャンネル系列で30分ほどの総集編がテレビ放映されたのみで長らく視聴は困難だったが、2009年にようやくDVDが発売された。

また、本作は『キングコング』の製作者であるウィリス・オブライエンが特撮を担当した最後の作品としても知られており、製作中は立つこともままならないピーターソンの手伝いなどをしていたようである。
オブライエンはこれ以外にも『キングコング対フランケンシュタイン』や、『ジョーヤング対ターザン』などの新作をいろいろ構想していたが、1962年に心臓発作で帰らぬ人となってしまい、
結局1933年の『キングコング』を超える作品をその生涯において作ることは残念ながらできなかった。(奇しくもピーターソンも同年に亡くなっている)

余談ながらその後『キングコング対フランケンシュタイン』の企画は東宝に受け継がれ、『キングコング対ゴジラ』や『フランケンシュタイン対地底怪獣』などの原型となった。


【スタッフ】

監督:ユージーン・ルーリー、ダグラス・ヒコックス
脚本:ユージーン・ルーリー
音楽:エドウィン・T・アストレイ
特撮:ジャック・ラビン、ウィリス・オブライエン、ピート・ピータースン、アーヴィング・ブロック、ルイス・デウィット
撮影:デズモンド・デイビス、ケン・ホッジス




【あらすじ】

※以下ネタバレ注意

コーンウォールのルー村で一人の漁師が大やけどを負って死亡するという事件が起こり、死因を調査した海洋生物学者のスティーヴ・カーンズは、彼の遺体が広島での被爆者に似ていることを指摘する。
程無くして砂浜に大量の死んだ魚が打ち上げられ、そこからも大量の放射能が検出されたせいで、カーンズと調査に協力した友人のビッグフォードはに放射能で汚染された生物が居るということを確信するようになる。
その後、漁師が死に際に残した発言から『ビヒモス』と呼ばれることとなったその怪物はあちこちで暴れまわり、浜辺を歩いていた親子が漁師によく似た形で焼死したり、
船が転覆するなどの事件が相次いで起こったせいで、見るに見かねたイギリス軍はビヒモスへの調査機関を設立することとなる。しかしビヒモスはイギリス軍のレーダー網をかいくぐってロンドンへと上陸し…



【主な登場人物】

◆スティーヴ・カーンズ

演:ジーン・エヴァンス
本作の主人公の海洋生物学者。ビヒモスの犠牲者や打ち上げられた魚を調査して海に巨大な生物が居ることを確信し、対策を海軍に進言した。
クライマックスでは自ら潜水艇に乗り込みビヒモス討伐に出向く。

◆ジェームス・ビッグフォード

演:アンドレ・モレル
カーンズの友人の大学教授。カーンズとともに調査を行い、中心となってビヒモスへの対策を練った。
ちなみに演じたアンドレ・モレル氏はクォーターマス教授シリーズなどにも出演していた。

◆サンプソン博士

演:ジャック・マクゴーラン
恐竜学者で、残された足跡からビヒモスの種類をパレオサウルスと同定した。
彼曰く「生きているパレオサウルスをこの目で見るのは子供のころからの」だったらしく、
自らヘリコプターに乗って調査に出向くが、ビヒモスに撃墜されてしまい帰らぬ人に…。

◆提督

演:不明
イギリス海軍提督。軍備には絶対の自信があったらしく、「レーダーでビヒモスは補足できる」と息巻いていたが、
ビヒモスはレーダーに映らないという体質だったらしく、あっけなく上陸を許してしまった。そんな死亡フラグ建てるなよ…

◆小型潜水艇操縦士

演:モーリス・カウフマン
ビヒモスに止めを刺す際にカーンズに協力した若き操縦士。
最後まで生き残った。

◆ビヒモス

水爆実験によって目覚めたパレオサウルスの生き残り。竜脚類によく似た姿で大きさは60メートルである。
レーダーには映らないという体質があり、これを用いて鉄壁と言われていた英国軍のレーダー網をかいくぐってロンドンへと進行した。
体内にはデンキウナギかデンキナマズのような発電器官があるらしく、これを用いて外敵を攻撃するが、被爆の影響で放射能が混じっていたため、
犠牲者は目を覆いたくなるような焼死体となった。(この描写は60年近く前の作品とは思えないほど気合が入っている)
これは調節できるようで、人間一人を焼き殺すレベルからヘリコプターを撃墜するレベルまで上げることが可能である。
また、電気を起こす能力はあるが、あまりにも強い電気には耐えられない模様。
最期は調査から放射能のせいで徐々に死に始めていることが突き止められ、その死を早めるべく小型潜水艇から撃ち込まれたラジウム入り魚雷を喰らって絶命した。



【余談】

  • 国内からはビヒモスのフィギュアは発売されていない。長らく視聴困難であったため仕方のない面もあるが。
    なお海外にはビッグベンを攻撃している姿で立体化されたガレージキットがある。

  • 1980年代に出版されていた児童書には「ジャイアントビフェイモス」と表記されているものもあった。

  • 1980年代に発売されティム・バートン監督が本気で映像化を考えていたアメリカの恐竜トレーディングカード「恐竜大攻撃(Dinosaurs Attack!)」*1にもビヒモスは登場しており、
    『原子怪獣現わる』のリドサウルスとともにピサの斜塔を破壊している。


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最終更新:2023年08月13日 17:10

*1 この作品の版権をワーナー・ブラザースが所有していたが、当時はすでに契約期間が切れていたので映画化を断念。代わりに同じトレーディングカード原作で映画化されたのが、『マーズ・アタック!』である